ワイバーン討伐編 6 〜龍皇一族とアカリの蛮行〜
アカリちゃん、やりすぎでは? ('◉⌓◉’)
手のひらを目の上に翳し、雲間から下界を覗く神シロが零す。
「龍皇一族か……ガザグの力を宿した五頭の龍ーー
ズードリア大陸に各地に散らばってるのぅ」
その言葉に妻の女神東雲も同じような仕草を見せた。
一方で黙り込んだまま、下界を覗くトランザニヤの黒銀の瞳が閃いた。
「アカリちゃんの左目が青く光ってるぞッ!」
「なんじゃと!?」
「まさか!?」
神シロと女神東雲も慌ててゴクトーたちに焦点を合わせた。
ーー天上の三柱が注視する中、
ゴクトーたちはお気楽にワイバーンを調理していた。
■【神シロが語り部をつとめます】■
"ビリーー!ビリビリビリ!”
突然、黒龍がボロボロのローブを力強く引き裂いた。
その下から現れたのは、強靭な筋肉。
自分の身体を確認する彼の目は満足げで、
口元には僅かな笑みが浮かんでいた。
「痛みもないし、傷も治ってる……アンタ、すげーなぁ」
その声には、驚きだけでなく感謝が混じっていた。
「俺が傷つけたんだ。治すのは当たり前だろ」
「でも、オイラから仕掛けたんだぜ?」
「それでも、敵意がないなら治すさ……お前も飯を食うだろ?」
ゴクトーがそう答えると、黒龍の鋭い瞳が少し和らいだ。
だがその瞬間、周囲の空気が微妙に変化する。
やり取りを見ていた仲間の様子がおかしい。
ゴクトーが仲間たちに目を向けるとーー。
いつの間にやらストッキングを脱いだのか、
さっとジャケットも『万能巾着』に納めたジュリが、
手を胸元に当て、じっとゴクトーを見つめながら顔を朱らめる。
(へんダー、カッコイイ……こんなに頼もしいなんて…!)
一方で焼けた肉を丁寧に返すアカリと、ゴクトーは目が合う。
(本当に、素敵な方……ダー様……どこまでもついていきます……)
ミリネアの視線には、ゴクトーに対する絶対的な信頼が宿っていた。
(ご主様、ワタクシは何があろうと、お供いたします……)
ミーアは俯きながらも、チラリと黒龍を見る。
暑いのか、彼女も既にジャケットを脱いでいた。
頬も紅潮し、耳元まで赤い。
(…黒龍様かっこいい……うち、なんでこんなに胸がドキドキしてるんだろ……)
彼女の心中は自分でも理解できない戸惑いに満ちているようだ。
初めて感じる感情に、ミーアはただ静かに目を伏せていた。
そんな中、パメラは豪華な椅子に優雅に脚を組みながら見ていた。
その唇には満足げな笑みが浮かんでいる。
(ゴクちゃん、ほんと痺れるわん♪……こんな男、他にいないわよねぇ……)
一方でパメラの横にちょこんと座るノビは、目を白黒させていた。
(しだっけ、龍が人さなるなんて、オラ、たまげたんさ!)
心読のスキルは便利だな、とゴクトーが思いつつも視線を戻した。
周囲に漂うワイバーンの脂が溶けた匂いが一層食欲をそそる。
香辛料の芳しい香りが漂う中、
アリーはその間もフォークとナイフを握りしめ、
焼けた肉をじっと見つめている。
彼女もいつの間にかジャケットを脱いでいた。
彼女の垂れ耳がピクッと動き、既に空腹を我慢できない様子。
「……まだ? まだなのかにゃ?」
その仕草にゴクトーは小さく笑い、
頬をつつく肩にとまったコガラに目を向ける。
「あるじー、おなかちゅいた」
「わかったよ。食べよう。黒龍……お前も座れよ」
促すと、黒龍は一瞬戸惑いながらも椅子に腰を下ろした。
「美味そうだな。オイラ……人が調理した飯を食べるのは初めてだ!」
「そうか……なら、これも一緒にどうだ」
ゴクトーは竹の皮に包まれた握り飯を取り出した。
それはプレシャスが握ってくれたもの。
「なんだ、これ?」
黒龍は興味深げにそれを手に取るが、
すぐには口に運ばず、調理風景を見つめていた。
破天荒な雰囲気を漂わせながらも、
どこか余裕のある黒龍に、
ゴクトーは"ニタリ”と笑って「まぁ、食ってみればわかるさ」と答えた。
そんな中、パメラが赤いジャケットの前を開き、パタパタと仰ぐ。
「暑いわねん」
そう言いながら、
紫薔薇レースの『爆弾』を”ブルン”と揺らす。
その瞬間、突風が起こり小石をカラカラ…と崖下に落とす。
その光景を目にした黒龍は一瞬目を丸くしたがーー
同時に頬も赤くなっていた。
無論、ゴクトーの『江戸っ子鼓動』も否応なしに飛び跳ねた。
「ちょっと着替えるわねん。ゴクちゃん、テントを出して」
その言葉に耳まで熱を持ちながらも、
ゴクトーは、『アイテムボックス』から大和式テントを出し、
早々と組み立てた。
「もう汗だくよん。ほら、みんなも交代で着替えましょう」
パメラがテントに入っていった。
確かに日差しも強くなっていた。
ここはハゴネの山頂に近いーー崖の上。
燦々と照りつける日差しを遮る雲も遙に遠い。
風が少し冷たいことだけが救いなのだ。
しばらくしてーー
パメラが出てくると交代でミリネアとアカリが着替えに入った。
そんなパメラは紫髪を綺麗に纏め直し、装いは大胆かつ上品。
赤いノースリーブの短いトップスがブルンと揺れ、つむじ風を巻き起こす。
赤いミニスカートからは紫のガーターと、
ベージュのストッキングが日差しに反射する。
赤いヒールがコツコツ…と崖の砂利を踏みつけていた。
そんなパメラの姿を見て、
ノビが頬を赤くしながらニヤニヤと目尻と口元を緩める。
次に出てきたのはミリネア。
茶色のレザーコルセットのヘソ出しスタイルが、絶妙に決まっている。
肩出しの白のブラウスは、ギャザー袖が風に靡く。
腰には頑丈なベルトに小物を収納するポーチが装着され、
刺繍が施された深緑色の短いスカートを翻す。
二段式ガーターベルトと、黒いストッキングが美脚を際立たせ、
頑丈な茶色のレザーブーツが、険しい山道を歩む彼女にはお似合いだった。
大人で上品なスチームパンクは、ミリネアの”オハコ”らしい。
そしてアカリが龍の刺繍入り白チャイナで登場。
胸元は大胆にも菱形に開いた、彼女お気に入りのデザイン。
歩く度、深く入ったスリットから美脚が覗く。
次の瞬間、周囲の空気が変わった。
黒龍が珍しそうに握り飯を眺め、
大きな口を開けようとしたーーその時だった。
「…………ッ!」
不意に、肉を焼いていたアカリの肩が大きく震えた。
結い上げた桃色の髪の間から、隠しきれない鮮烈な光が漏れ出す。
「アカリ……?」
ゴクトーが声をかけるのと同時に、彼女が顔を上げた。
その左目は、これまでの穏やかな色彩を完全に失い、
透き通るようなーー
それでいて底知れない飢餓感を孕んだ『蒼き輝き』を放っていた。
「……みえる」
感情の消えた、だが熱を帯びた声がアカリの唇から零れる。
彼女の視線は俺でも、焼けたワイバーンでもなくーー
たった今、椅子に座ったばかりの黒龍に固定されていた。
「ほう……?」
黒龍が握り飯を頬張るのを止め、眉をひそめる。
龍皇の血を引く彼にはわかったのだろう。
その瞳が、自分の中に眠る「龍皇の因子」と共鳴していることに。
「その眼……やはり貴様、我ら一族の力を受け継ぎし――」
「……美味しそう」
「……は?」
黒龍の言葉を遮ったのは、アカリの切実なつぶやき。
彼女の『蒼き魔力の瞳』に映っているのは、
人化した黒龍の姿ではない。
黒龍の内側から噴き出す、ワイバーンなど比較にならないほど濃厚で、
芳醇で、キラキラと黄金に輝くーー
『極上の魔力の霜降り肉』と彼女の内心から滲み出ていた。
アカリの口角から、一筋の銀糸が伝い落ちる。
「じゅるり……」
彼女は無意識に、愛用の包丁をシャープナーで、
シャッ…シャッ…と研ぎ始めた。
その姿にミリネアが慌てて声をかけた。
「ちょ、ちょっとアカリ殿!? その目は、まさか覚醒!?」
「ミリネア教授、違うと思うわ……
今のアカリちゃん、完全に『狩人の目』になってるのよん!」
パメラの叫びに、黒龍の顔から余裕が消えた。
万物を統べるはずの龍皇一族が、
自分より遥かに小さな視線に「食われる」恐怖を感じ、
椅子をガタつかせて後退る。
「おい、待て……なんだその目は。貴様、オイラをどうするつもりだ……!?」
アカリは蒼い光を増幅させながら、一歩、また一歩と黒龍へにじり寄る。
「……焼くのがいいかな。それともーー
この溢れるマナを逃がさないように、蒸し焼きが良いかしら……?」
「た、助けろ! この女、オイラを『素材』として品定めしてやがるッ!!」
悲鳴じみたその声に、仲間たちはゲラゲラと笑い声を上げていたーー。
■【天上の神々】■
「アカリの”契約”は、どこかズレておるのかもしれんな」
天上では、神シロたちが「別の意味で」頭を抱えていた。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
ーーハゴネの山中に笑い声が響く中、ミリネアがナイフを取り出し、
焼けたワイバーンの肉を丁寧に切りわけていく。
その手際はまさに職人技だった。
香ばしく焼けた肉の表面から、
濃厚な香辛料の香りが漂い、
焚き火の煙と混ざり合いながら空腹を刺激する。
先ほどの一波乱から落ち着きを取り戻した、
アカリが柔らかく微笑みながら皿を差し出す。
「ダー様、みんなも、召し上がれ」
ミリネアも優雅な動作で皿を並べながら「ご主様、上手く焼けました」と。
その頬は朱に染まりながらも慎ましさが滲んでいた。
仲間たちは、それぞれサリから貰った箸箱を取り出し、
静かに食事前の祈りを捧げた。
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
俺は皿の上にあるワイバーンの肉を頬張った。
瞬間、衝撃が全身を駆け抜ける。
何だこの旨さは……!
肉の脂が口の中で溶けて広がり、香辛料の刺激が絶妙に絡み合う。
今まで食べたどの肉より美味い。
これが高額で取引される理由か……!
驚きで硬直している俺を余所に、黒龍は肉と握り飯を手で掴み、
豪快に口に運んでいた。
「危うく食われる側になるところだったが、
調理とはこんなに美味くなるものなのか……!?
それに、この白い三角のやつも……最高だな。
これを食ったら、もう生肉など食えんな。ははははは!」
黒龍の言葉に、一同の緊張がほぐされた。
彼が震えるほど感動して笑っている姿は、
初対面時の恐怖感を一瞬忘れさせる。
そんな中、アリーが勢いよく肉を食べながら一言。
「最高にゃ!!」
隣のミーアも目を輝かせながら肉を頬張っている。
「こんなに美味しいなんて……うち、感動した!」
その言葉にジュリも声を揃えた。
「美味ーーいっ! おにぎりも最高っ!」
そう言って喜びを全身で表現しながら、握り飯を大事そうに頬張る。
一方でパメラが上品に箸を使いながら、
「久しぶりよん……美味しいわん!」と。
彼女も心底満足そうな表情を浮かべていた。
そんな中、パメラの隣でノビがポツリ。
「美ん味いなぁ……サーシャにも食べさせでやりたいんさ!」
ふと食堂で働く妹を思い出したのか、ニヤリと笑った。
ミリネアは満ち足りた表情を浮かべ、ワイバーンの肉を上品にひとくち。
俺はそんな彼らを見渡しながらふとつぶやく。
「ミリネアのスパイシーな味付けは、ホント美味いな!」
その言葉に、ミリネアは驚いたように顔を上げたが、
すぐに頬を朱らめ俯いた。
(ご主様……ワタクシの味付けを褒めてくださるなんて……
ああ、これ以上ない幸せ……)
彼女の心臓は高鳴り、胸の奥から温かい感情が溢れ出すのを感じる。
そんな中、アカリが上品に食べながら、静かに感想を述べる。
「ダー様、私は初めて……『ヤマト牛』より美味しいお肉を食べました」
その顔は嬉しさで紅潮していた。
「アカリの醤油味も格別だしな!」
隣に座るアカリも俺の言葉に驚き、顔を真っ赤にして視線を落とす。
(ダー様……私の味付けを褒めてくださった……
ああ、なんて素敵な方……優しい気遣いに胸が熱くなりますわ……)
俺が何気なく放った言葉は、
二人の女性の心を強く揺さぶってしまったようだ。
”心読スキル”に手をやく俺を他所に、
一方で黒龍はさらに肉を頬張りながら、楽しそうに笑っている。
「こんなに美味い飯があるなんてな! 調理ってのも奥が深いんだな!」
その無邪気な発言に仲間たちも、「クスクス」とした笑い声を漏らす。
ふと、アカリが思い切ったように話を振ってきた。
「ダー様……あの、龍皇一族って? この方はもしや……?」
「ああ、皇子の一人だな」
その言葉が皆の耳に入った瞬間、
先程まで和やかだった空気に緊張が走り、
仲間の表情が一変する。
俺は黒龍に五龍皇子の話を切り出す。
「黒龍……さっきの話だが……」
その問いに黒龍が頷き口を開いた。
「ああ、五龍皇子の話だな。
オイラの親父、黒龍の長ギャニスが第二龍皇子だ。
ピーって鳴いてる奴は、妖精龍だろ?」
静まる崖上に一陣の風が吹き抜ける。
「ああ、ギャランの孫って聞いた」
俺が答えると黒龍がコガラに目を向けた。
「ギャラン叔父上か、第三龍皇子だな。
白龍の長、ギャガン叔父上が第一龍皇子、
赤龍の長、ギャバ叔父上が第四龍皇子だ。
土龍の長、ギャズドス叔父上はーー
第五龍皇子で末っ子……いや、末龍か。
ははは!
まあ、そんな感じで叔父上たちは、
この大陸中の国々に、縄張りを持って、散らばってるのさ!」
この会話を聞く仲間たちの視線は、固まったままだったーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




