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妄想図鑑が世界を変える? 〜異世界トランザニヤ物語〜 #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第3幕 動章  〜ワイバーン討伐と新たな仲間〜

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ワイバーン討伐編 5 〜グチの揶揄いと黒龍の本音〜



 久しぶりの『妄想図鑑』(๑╹ω╹๑ )

 



 下界を覗く三柱は息を飲み口を噤んだ。

 ゴクトーの黒龍に対する攻撃の流れが、あまりにも見事だったためである。


「あやつ、密かに『妄想図鑑』から、

【No.03:非常用侵入グチ(ヒジョウヨウ・グチ)】を出しておったな」


 口元の白い髭を撫で付けながら神シロがそう漏らした。

 その言葉に黒銀の(まなじり)を下げるトランザニヤが口を揃える。


「神代魔法関連呪式ーー【妄想転送陣ファンタズム・ゲートウェイ】か。

 やるもんだな。妄想過熱時に強制発動される空間転移魔法を使うとは。

 使用者ゴクトーを妄想空間に飛ばし、

 一瞬で好きなところに飛んでいける魔法か……オレすら使ったことがないぞ」


 そう言って神シロに微笑んだ。

 

 一方女神東雲は、あまりの速さで黒龍を封じたゴクトーに、

 どこか不満のようだ。

 彼女は何か言いたげだったが、あえて言葉は控えていた。




 ーーその頃ハゴネ山中でワイバーンを調理中のゴクトーは、

 ひとり『妄想図鑑』の影の番人ーー

 【No.03:非常用侵入グチ(ヒジョウヨウ・グチ)】と話をしていた。





 ◆(女神東雲が語り部をつとめます)◆




 

 ワイバーンの肉が焼かれる香ばしい匂いがーー

 ゴクトーの鼻口をくすぐった。

 次の瞬間ーーカチッとした音が彼の脳内に響く。



「坊や、無視するなんて、いい度胸ね♥」


 彼女――非常用侵入グチは、挑発的な赤い眸をさらに細め、

 黒網に包まれた脚をゆっくりと組み替えた。

 その仕草一つ一つが、ゴクトーの理性をじりじりと削り取る。


 挿絵(By みてみん)


 

 視線税を徴収する者、試練の門番……って、

 なんで、このタイミングで出てくるんだよッ!?


 

 ゴクトーは必死に調理の手を動かしながら、内心で絶叫した。

 現実世界では、ミリネアが手際よく香辛料を振り、

 パメラが魔法で宙に浮かせたフライパンから、

 醤油が焦げる甘く香ばしい匂いが漂っている。


 仲間たちは和やかに食事の準備を進めており、

 まさかゴクトーが脳内で、

 『妄想図鑑の裏ボス』に絡まれているとは夢にも思っていないだろう。


 《「コガラ、グッジョブ!」》

 《「あるじ? グッジョブって、なーにー?」》


 一足先にコガラと交わした念話の、その無邪気さが今は遠い。



 挿絵(By みてみん)


 彼女が組んでいた足を解き、黒い翼を広げ、ふわりと浮かぶ。


「……このライン、通りたいなら“通行証”を見せてごらんなさい、坊や♥」


 艶っぽい彼女の声が、再び脳内に直接響く。



 “通行証”――それは、『江戸っ子鼓動』の興奮を、

 さらなる暴走へと誘う甘美な妄想か、

 あるいは彼女の美貌に完全に屈服したという、屈辱的な降伏宣言か。


 

 スパ スパッ!

 

 ゴクトーは必要以上に力を込めて、

 ワイバーンの肉をステーキサイズに切り分けた。

 愛刀【兼松桜金剛】の黒曜の刃が、陽光を反射して鈍く光る。


「……足が速いわね。……鼓動、可愛いわ♥」


 彼女はゴクトーが先ほど黒龍を封じるために使った、

 【妄想転送陣】の速さを揶揄い、

 さらに激しく脈打つ彼の鼓動を、まるで愛玩動物のように楽しんでいる。



 クソッ……ミリネアが、眼鏡をかけ直す仕草を見たときか?

 それともパメラの『爆弾(ダイナマイト)』の揺れか……?

 いや、アカリの桃色の髪が風に靡いた瞬間、

 胸の柔らかさーーそうだ、あの”むにゅっ”とだ。


 

 発動条件である「妄想過熱状態」を招いた、

 自らの“ときめきの記憶”を必死に分析するゴクトー。


 だが、そんな冷静な分析こそが、

 彼女を喜ばせる”視線税”の支払いに繋がっていることに、

 彼はまだ気づいていなかった。



 このままじゃ、本当に現実世界の空気が揺れちまう……!


 

 図鑑に記されたーー

 「現実空間の空気が“揺れ”を持つ(視覚的歪み)」という副作用を思い出し、

 ゴクトーは冷や汗を流す。

 

 もし、今ここでパメラがミニチュアのダイニングセットを巨大化させた直後、視界の端に「彼女」が現れたり、空気が歪んだりしたら――。



 「あら、ゴクちゃん、なにそれ?」なんて、

 パメラに揶揄われるだけじゃ済まない……

 ジュリのあの“嫉妬心に満ちた瞳”が浮かぶ……凹むどころか、即死だ!



「坊や、そろそろ限界かしら? それとも、もっと激しい“試練”がお望み♥?」


 彼女の言葉に合わせて、背中の“封印羽根”がまるで誘うようにーー

 拷問官の鞭の如く、細く鋭く展開していく。



 ……通さぬ門が、逆に誘ってくるなんて、卑怯すぎだろ……。



 それは、ゴクトーがかつて、

『妄想図鑑』の「封印階層」で初めて彼女に遭遇した時の、

 妄想陥落直前の独白と全く同じだった。


 醤油が焦げる甘い匂いが、一層強くなる。

 音に続くふわ〜んとした香ばしい匂いに、

 アリーがとうとう耐えきれなくなった。


「もう我慢できにゃいっ!」


 現実世界のアリーの声が、ゴクトーの脳内に響く。



 アリー! グッジョブだ! お前のおかげで、現実に戻れる……!



「あら、残念♥ せっかく“徴収”の準備ができたのに♥」


 彼女はつまらなそうにふわりと浮かび、

 ハッチに戻ると黒網の脚を優雅に組みながら、

 赤い双眸の光を和らげ美貌が顕になった。


 「またね。坊や♥」



 挿絵(By みてみん)



 艶やかな声とともにーーカチッとした音が、

 再びゴクトーの脳内に響き、艶やかな美貌は影のように消え去ったーー。



「……はぁ、はぁ……美人だ」


 現実世界に戻ったゴクトーは、放心したように息をついた。

 額には大量の冷や汗が滲んでいる。


「まぁ嬉しい!ダー様、こちらをお使いください」


 喜ぶアカリが薪を積み上げ、燃えやすいように調整してくれる。

 その桃色の髪が風に靡き、炎の中で静かに揺らめく。


「……あ、あぁ。ありがとな、アカリ」


 ゴクトーは、必死に平静を装いながら答えた。

 だが、彼の『江戸っ子鼓動』は、まだ「彼女」の「記憶の残り香」に刺激され、通常よりも速く打っていた。



 図鑑を閉じたのに、どこかで“彼女”がまだ微笑んでいるような気がした……

 卑怯すぎる、あの脚線……。


 ゴクトーは愛刀【兼松桜金剛】の黒曜の刃に、

 先ほどよりも少しだけ強いーー

 羞恥と好奇心が入り混じった魔力(マナ)を宿らせながら、

 次のワイバーンの肉に刃を振り下ろした。



 

 


 ◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇

 



 

 「モフねぇ!コガラもたべるーー!」


 次の瞬間、"バサバサ”と白い翼がアリーの肩に飛び降りた。


 コガラの言葉とその無邪気な様子に俺もつい口元を綻ばせるが、

 突然の黒龍の言葉が場の空気を引き締める。


 「……おい、そこにいる妖精龍、お前、ギャラン叔父にそっくりだな」


 その言葉に驚き、問い返す。


「ギャランを知っているのか?」


「当然だろ! これでもオイラは龍皇一族、五龍皇子の一人、

 黒龍ギャニスの息子だぞ!」


「……そうか。それなら教えてくれ、龍皇一族のことを……」


 俺は冷たく言い放つと、黒龍の目をじっと見据えた。


「わかった。でも、動けるようにしてくれ……」


 黒龍の返答に一瞬考えたが、

加無為(カムイ)】の解除呪文を唱え、黒龍の拘束をといた。


「話を聞かせてくれ」


 すると、少し面倒くさそうな気配が返ってきた。


「ちょっと待って、血も足りんし腹も減ってる。ワイバーンを喰わせてくれ」


 その言葉に仲間たちも驚いていた。

 

 だが、その声には妙な違和感がある。


 どこか”いにしえ”の威厳が滲んではいるが、声は若い。


 俺は目の前の黒い影を見上げながら考える。

 この龍はただの「腹を空かせた怪物」ではない。

 いや、単なる生き物としての黒龍ですらない。


「ワイバーンの肉は、『龍肉』の次に美味いって言われてるんだぞ!」


 「っえ?」


 急に自慢げな響きを帯びたその声に、俺はその時笑いそうになった。

 目の前の黒龍が、まるで豪快な若者のように振る舞う姿を想像した。


 それが妙に可笑しいので思わず口を開いた。



「勝手にワイバーンを喰っていいぞ! 俺たちは調理した物を食うけどな!」


「…っ!」


 軽い調子で返すと、黒龍は一瞬驚いたように沈黙し、小声で返してきた。


「調理って何だ?」


 その声には疑念と好奇心が入り混じっていた。

 龍という存在にとって、『調理』という概念は異質なものなのだろうか?

 だが、驚いた表情すら見えないはずのその大きな瞳から、僅かな期待の色が見えたような気がした。


 仕方なく肩を窄めて零す。


「今、俺たちがやっているのが調理だ」


 その言葉に黒龍は小さく喉を鳴らすような音を立てた。

 腹が減っているだけのようにも思えるが、

 別の感情がひそんでいるように感じる。

 ただの食欲に突き動かされているのではないのだろう。


 黒龍は俺たちの行動を”試している”。

 その視線の奥にあるのは、興味ーーいや、もっと深い何かだ。


 日差しがハゴネの山々を鮮やかに彩り、

 新緑の若葉からは薫爽くんそうと呼ぶべき、

 淡い緑の霧が立ち込めている。

 

 仲間たちがきょとんとする中、俺は口を開いた。


「みんな、ちょっといいか。この黒龍、腹が減ってるらしい」


 黒龍のその表情には、彼の中に芽生えた、言葉にならない期待感ーー

 それが俺には、はっきりと感じられた。


 皆の視線が集まる中で、少し息を整える。


「この黒龍もそれを喰いたいらしい。少しわけてやらないか?」


 そう言うと、一瞬の静寂が場を支配した。


 突然ーー。


「おい。オイラにもそれを喰わせろ!」


 さっきまでの威厳ある声とは”別物”の、若い男の声が飛んできた。


「お前のそのデカさじゃ、足しにもならんぞ」


 軽口を叩くと、黒龍は口調を変えて応じてきた。


「大丈夫。人型になればな!」


 黒龍は身体をくねらせ、少し距離を取ると静かに目を閉じた。


 


 "ボォンッ!”


 

 耳に微かに届いた音とともに、砂煙が舞い上がり、

 一人の青年が現れた。

 漆黒のローブを纏うその筋肉質の姿は、鋭い目つきと短い金角、

 そして薄いブルーと琥珀が混じる瞳が印象的。

 疲弊した高身長に刻まれた傷痕は、

 壮絶な戦闘を物語るようだったが、どこか威厳に満ちていた。


「これで喰えるだろ?」


 人の”コトバ”を話し、

 ふらつきながら歩み寄る黒龍を、仲間たちは息を飲んで見つめていた。


「さっきの黒龍だ。龍皇一族の龍は、人の姿になれるらしい」


 俺が説明すると、ミリネアが静かに念話を飛ばしてきた。


《「ご主様、例の話ですね」》


《「ああ」》


 俺は目の前の血塗れの姿を見つめながら、思わず肩をすくめた。

 

 

 この怪我や傷って、俺のせいだよな……。



 思いながら黒龍に近づき、「ちょっと見せてみろ」と、軽く言った。

 

 黒龍は少し迷いながらもローブを捲った。

 その下から現れたのは、厚い胸板と、硬く引き締まった腹筋。

 そして、その背中には威厳を感じさせる(ひれ)があり、

 両腕にも小さな鰭がついていた。


 挿絵(By みてみん)


 俺は目を閉じて魔力(マナ)を翳した手に集中させる。

 大きく息を吸い込んで詠唱する。


「【癒瑠々(ケアルル)座羅(ザラ)裏滅駆(リメーク)】!」



 その刹那ーー金色の光が黒龍を包み込んだ。

 柔らかで神聖なその光景に、仲間たちの視線も自然と固まっている。


 黒龍の傷ついた鱗が滑らかに再生され、

 切れた牙や爪も、まるで時間を巻き戻すかのように元に戻っていく。


 次の瞬間、仲間たちの表情にも笑みが溢れた。



 ……みんな、良い仲間だよな。


 ふとそう思った。



 「ありが……とう……」


 黒龍がポツリと一言落とした。


 そんな中、ひとり目を丸くするミリネアからの念話が響く。


《「ご主様……これは?【再生治癒魔法】!

 お怪我なさった時は、どうしてお使いにならなかったのですか?」》



挿絵(By みてみん)



《「この魔法は、なんというか…… 縛りというか……

 自分には使えないらしいんだ」》


 理由を上手く説明できない自分に戸惑いながら、

 ミリネアに念話で返す。もう苦笑するしかない。


 一方の黒龍はその変化を見つめながら、目を開き低く言葉を落とす。


「……これが本当に……人間の力なのか……?」


 その声には、驚きだけでなく、

 知らず知らずのうちに芽生えた敬意が、滲んでいるようにも聞こえる。


 俺はふと、彼が「ありが……とう……」と言った時の声を思い出す。


 あれは単なる礼ではない。


 人間の、いや他者の『手助け』を受けたことへの戸惑いと驚き。

 孤高を貫いてきた黒龍にとって、こうした行為は異質だったのだろう。


 それでも、俺たちが紡ぐ『調理』や『癒し』という形の優しさに、

 黒龍はどこか温かさを感じているようだったーー。








 お読みいただき、ありがとうございます。

 引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )



 




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― 新着の感想 ―
皆様、美人&イケメン!!! 目の保養になります♡ 素敵な物語、ありがとうございます!
カッコいい!!ヾ(o゜ω゜o)ノ゛ 今回、迫力ありました! 執筆お疲れさまです!(*´ω`*) 次回も楽しみにしてますね!
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