いい湯だな「ア・ハハン」 編 32 〜思い出の握り飯〜
お気に入りの「ア・ハハン」編が、遂に(T . T)
三柱が見守る中、下界では新たな動きがーー。
「ヒヒーン」
「ギャギャーーー!」
ハゴネの山中を飛び交うペガサスの群れは、
一頭の巨大なワイバーンを仕留めていたのである。
「エリナ姉様、この付近には魔物の気配は、もう感じません」
「わかったわ。とりあえず本部に戻るわよ」
その言葉を皮切りに、ペガサスの群れはハゴネの山間を滑空していった。
ーーその翌日、ゴクトーたちはホビットの里、
プレシャス邸でのんびりとした朝を迎えていた。
■(神シロが語り部をつとめます)■
「ふぁーーあ、よく寝たにゃ〜」
アリーが欠伸をしながら身体を伸ばす。
その声に反応して、隣で寝ていたミーアも目を擦りながら身体を起こした。
「ふぁ、おはよ〜う、アリーちゃん♡」
ミーアは眠たそうな表情のまま、アリーに愛情たっぷりの視線を送る。
一方で、ジュリのすぐ横に座っていたアカリは、朝から険しい表情を見せる。
どうやらあまり眠れなかったらしい。
「ジュリ、もう起きなさい。布団も被らないで寝てたら風邪を引くわよ」
アカリの言葉に腕を引っ張られてもジュリは身じろぎ一つしない。
それどころか、まるで小さな子供のように布団に潜り、顔を埋めて逃げようとする。
そんな光景を見ながら、パメラは優雅に起き上がった。
「あら? ミリネア教授、どこかしら?」
目を擦りながら『爆弾』の豊満な胸を堂々と晒し、
浴衣が肌けた状態のままでアカリに問いかける。
アカリは迷惑そうにため息をつきながらも、隣の部屋と繋がる襖へと歩み寄った。
「どこかしら……まさか、ダー様と添い寝でもしているのでは……?」
小声で漏らしながら襖を静かに開ける。
しかし、布団は二組あるものの、ゴクトーとノビの姿は見当たらなかった。
「……きっとお風呂ね。まさかミリネアさんも一緒なんてことは……」
眉をしかめながら襖を閉めたアカリは振り返り、少し緊張した表情で言った。
「ちょっと、お風呂を見てくるわ」
その言葉に、部屋にいた他の女子たちが一斉に反応する。
「僕もいくにゃ!」とアリーが跳ねるように立ち上がり、
「アリーちゃんが行くなら、うちもついて行く!」とミーアも後に続く。
「へんダーもノビもいない……わたしも行く」とジュリが布団から顔を出す。
「ミリネア教授に、独り占めさせるわけにはいかないわん」とパメラは浴衣をきちんと整えもせず、そのまま廊下を歩き出した。
ーーこうして、風呂場へ向かう女性陣の一団が結成された。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
「モモおおねいしゃんと、モフねぇ、
ちいねぇちゃんと、あたいのおねーしゃん、
モモちいねぇしゃんがくるよ。
あるじーー」
コガラが俺に告げてくる。
どうやらコガラはその個人の【覇気】によって、
接近を察知しているらしい。
そんな中、湯に浸かっていたミリネアが唇を噛む。
「ご主様……ワタクシは女湯へ参ります」
そう言って彼女は湯からザバッと立ち上がると、
物干しに掛けてあった緑色のバスタオルを優雅に手に取り、
しなやかな動きで身体に巻きつけた。
そして、コガラと戯れていたノビに向かって一言だけ落とす。
「ノビ君、わかっていますよね?」
その言葉にノビは、どこか誇らしげに胸を張りながら応える。
「大丈夫なんさ。オラ、口はかたいんさ!」
ミリネアはその返事に満足したのか、
片手を軽く挙げて後ろを向き、そのまま湯船を後にする。
曇ったガラスの引き戸が静かに閉じる音が響き、
ノビと俺、そして湯の中で泳ぐコガラだけが残された。
そんな中、ノビはぼんやりと曇ったガラスの向こうを見つめながらポツリ。
「ミリネア教授、やっばりかっこいいんさ……でもパメラ先生はもっど!」
その言葉に俺は少し眉を上げ、半分笑いながらーー
「お前、どんだけ一途なんだよ。パメラしか見てないのな……」
俺の言葉にノビは肩をすくめた後、真顔で言い返す。
「オラはパメラ先生一筋なんさ。ほがの人には、興味ないんさ!」
そのノビの言葉は、露天風呂の蒸気とともに、朝日の中に溶けていった。
芽吹きが香りを乗せる春めいた風が吹く中、
俺は湯の中で笑いを堪えながら、
どこか感心したように頬を膨らますノビを見ていた。
「あるじ、みんなきたよーー!」
コガラが教えてくれた。
同時に廊下から聞こえてくる足音が次第に近づいてくるのを、
俺の耳が敏感に捉えた。
「ふっ…全く……姦しい仲間だよ……」
そう零しながら、俺は湯の中で小さく息をついた。
■(ここからは女神東雲が語り部をつとめます)■
男湯から去ったミリネアは、女湯の引き戸を音も立てずに開けた。
艶やかな動きで浴衣と、
『Caravan・Climb』を丁寧に畳んで脱衣所の棚に置き、
緑のバスタオルを纏ったまま、曇りガラス越しに湯船の方へ視線を向ける。
スッとした仕草で引き戸を開けると、
微かに漂う湯気が彼女の緑色の長い髪をしっとりと包んだ。
ハラリとバスタオルを物干しにかけ、ミリネアは腰を落として木桶を掴む。
「ふうっ……」
掛け湯の瞬間、温かな水滴が肌を滑り落ちるのを感じる。
その仕草はどこかの貴族のような余裕をも漂わせていた。
湯船に身体を沈め、音もなく澄ました顔を浮かべたまま、
彼女は湯の温もりを静かに味わっていた。
やがて、アカリが暖簾をくぐり、引き戸を開ける音がした。
続いて他の女性陣の声が脱衣所から聞こえてくる。
「ミリネアさん、もう入っていたのね」
最初に曇りガラスを開けたアカリがそう声を掛けると、
湯気の向こうでミリネアが優雅に顔を上げた。
「ええ、少し早く目が覚めてしまって。とても気持ちがいいですよ」
その言葉に込められた落ち着きと温かみは、聞く者を自然と和ませる。
「ピ~~~♪♬」と、どこからともなくコガラの鳴き声が響き渡った。
一方で、女湯を見渡しながらジュリが落とす。
「へんダーは……いないみたいね……」
脱衣所の方から声が上がると、ミリネアは口元に微笑みを浮かべる。
「まあ、それは当然でしょう……もう、お怪我もされてませんし……」
軽やかだがどこか含みのあるその言葉に、女性陣は小さく笑い声を漏らす。
「ノビたんとゴクにぃも男湯だにゃ!!」
アリーの明るい声を残し、パタパタと足音が遠ざかる。
彼女たちは女湯を後にしたようだ。
一人湯に浸かりながら、ミリネアは僅かに目を閉じ、
朝焼けの光と湯気に包まれた静寂を楽しんでいた。
彼女の佇まいはどこか孤高でありながらも、
その場の空気を温かく満たしていた。
◇(ここからゴクトーが語り部をつとめます)◇
ーー男湯では、
「ゴクどーさん、上がりましょう」
湯気に包まれた静寂を破りノビの声が響く。
俺たちは湯船から”ザバー”と音を立てて立ち上がり、腰にタオルを巻いた。
熱が心地良く残る肌を感じながら、俺は軽く目を閉じ、念話を送る。
《「ミリネア、コガラ、もう上がるぞ」》
《「かしこまりました。ご主様」》
《「あるじーーわかった!」》
“パタパタ”と小さな羽音が近づき、コガラが板の間に舞い降りる。
その軽やかな動きが妙に頼もしい。
脱衣所に入った俺とノビは、コガラの羽を丁寧にタオルで拭き、
その小さな体を木の棚に座らせた。
黒パンを履き、シャツとジーンズを身に着けながら、俺はふとノビを見る。
彼も真剣な顔つきで"帰る”装備に着替えていた。
その表情にはどこか覚悟の色が滲んでいた。
「コガラ、おいで」
呼びかけると、コガラは”パタパタ”と俺の肩に飛び乗る。
その重みを感じながら、脱衣所の引き戸をトンと閉め、
畳んだ浴衣を手に『男』の暖簾をくぐった。
長い廊下を歩き部屋に戻ると、すでにミリネアが装備を整え待っていた。
その仕草すべてが洗練されていて、どこか余裕すら感じさせる。
部屋の布団を畳んでいると、障子がすーと静かに開く。
そこには穏やかな笑みを浮かべたサリの姿があった。
「おはようございます。 布団は後ほど、私と父が片付けます。
それより皆様、朝風呂は済まされましたか?」
「ああ」
「ピ~~~♬」
「いい湯だったんさ!」
俺と肩に乗るコガラ、そしてノビがそれぞれ返事をすると、
サリは笑みを深めて頷いた。
「朝食に父が朝から張り切って、握り飯をこさえております。
是非召し上がってください。台所におりますので……」
「……ありがとう」
その礼を聞き入れ、笑顔を見せるサリが障子をトンと閉め、
廊下を歩いていく姿を見送りながら、
彼女とプレシャスの気遣いに深く感謝する。
そんな俺たちは身支度を整え、部屋を出た。
台所では翁のプレシャスが既に待っていた。
彼の手には竹の皮で包まれた握り飯があり、
どこか誇らしげな表情を浮かべている。
「ほっほ。皆様、これはナガラさんとの思い出の握り飯です。
どうぞお持ちください」
一つ一つ丁寧に手渡される握り飯。
俺もコガラの分を受け取りながら、プレシャスに小さく礼を言う。
「翁……ありがとう」
同時に『アイテムボックス』から、金貨入りの小袋とともに手にしたのは、
ダンジョンで得た一つの『魔導具』。
「これが昨日の話にあった、例の『通信の魔導具』じゃないのか?」
俺が手渡すと、翁の目が驚きと喜びで見開かれる。
「これは……!超小型で貴重な品ですぞ。確かに『通信の魔道具』ですな。
いかに離れていようとも……これで会話ができますな!ほっほ」
翁は手に取ったそれを慈しむように見つめる。
昨晩語ってくれたナガラ師匠との思い出が、
彼の心に熱を灯しているのだろう。
「これで、師匠が現れたら連絡してくれ」
「それはもちろん。ですがゴクトーさん……このような大金まで……」
そう零す翁の目にほんのり光るものが見えた。
サリはその様子をじっと見守りながら、
笑顔を浮かべ『万能巾着』から『ヤマト』の郷土品を取り出した。
「これをお土産にどうぞ」
漆塗りの箸箱を一つ一つ配る彼女の指は丁寧で、
そこには彼女なりの感謝が込められているようだった。
「ありがとうございます」
アカリが箱を開けると、そこには綺麗な箸が並んでいた。
仲間が次々に笑顔を見せる中、サリは少し寂しそうに目を伏せる。
「ありがとう、翁。サリ……。ヨシ!ワイバーンを討伐しに行こう!」
その言葉に仲間は頷き、コガラが一際大きな声で鳴いた。
「ピ~~~~~♪♬」
サリと翁は俺たちの背中が森の先に消えていくまでーー
名残惜しそうに、里の入り口に立って見守ってくれていた。
サリの瞳にはほんの少しの寂しさと、
どこか祈るような想いが宿っていたように感じた。
それでも彼女は精一杯の笑顔を浮かべている。
一方、翁は長い人生を歩んできた者特有のーー
潤んだ眼差しで、俺たちを見送っていた。
その姿にはただ「無事を願う」という、
純粋な想いが滲んでいるように思える。
じんわりと胸に残るその視線を背中に受けながらも、
俺は一瞬たりとも振り返ることはなかった。
名残を断ち切るように、足を前へと進める。
いまは立ち止まる時ではない。
ともに歩く仲間の姿を確認し、俺は改めて心を引き締めた。
それはワイバーン討伐という、レイド(依頼)が待っていたからだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
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次のエピソードから華ちゃんが再び活躍ーー!




