キヌギス砦編 5 〜決着と目覚め〜
天界からを地上を見下ろす神々は、穏やかならぬ表情を浮かべていた。
「アカリはまだ、使いこなせていないな」
黒銀の目の友こと、トランザニヤがつぶやく。
「仕方ないですわ。神代の暁を使うことさえ、常人では無理なことなんですから……」
女神東雲は振り向き言葉に含みを持たせた。
「まぁ、上出来だ。 これからの彼女の経験と成長で、熟練度はますじゃろう」
神シロは頷きながら、我が子を見るような目で下界を眺める。
トランザニヤも目が下界から離せない状況。
そんな中、女神東雲が下界を覗きこみポツリ。
「ゴクトー君、どうやら……覚醒しましたわね」
その頃、ゴクトーは緊迫する空気の中、キヌギス砦で魔族と対峙していた。
◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇
ゴルバが俺に向け、*ハルバードを正面に構えたーーその瞬間。
「カイド巨人流槍術【狼牙突】ーー!!」
瞬息の掛け声が砦内に響いた。
瞬きする間もなくーーその切先が刹那の隙を突く。
「……っ!」
「旦那ッ!」
間一髪、胸の『江戸っ子鼓動』が飛び出し、茶髪を振り乱しながら”大筆”でいなす。
その瞬間、俺は【桜刀・黄金桜一文字】を“ガッ”と壁に押し当て、刃を斜めに振るうことで、その攻撃を紙一重で躱した。
ゴルバはピタリと動きを止め、突きをかわされたことよりも突然、現れた小僧に目を丸くしていた。
我ながら自分の妄想に驚く。
完全に現実との境界がなくなってきているーー。
すんでのところでゴルバの動きを止めてくれた鼓動に、思わず零す。
「助かったぜ、鼓動!」
鼓動はニヤリと笑うと『妄想図鑑』にスッと消えるように収まった。
だが、俺の頬には一筋の血線が描かれ、痛みとともに時を焦らすような血飛沫が舞った。
その凄まじい衝撃は、後ろの壁にも大きな風穴を開け、“ボロボロ”と崩れ落ちる。
その瞬間ーー我に返ったゴルバが琥珀の目に、怪しげな光を宿す。
構えからしてもう一度、今の攻撃を狙ってるーー。
ふと先ほどの攻撃が頭を掠める。
ゴルバの身体からも例えようのない【邪気】も漂い始めた。
場が張り詰め、互いの緊張感が頂に達したその時。
ブワッ!
ブシュ!
ゴルバの無言の突先が俺の肩を貫き、灰色がかった鮮血が迸った。
天井まで舞い上がったその血飛沫は、燻銀の光を湛えながら拡散した。
激痛が俺の膝の力を奪う。だが痛みよりーー奴の動きが見えず、躱せない自分に無性に腹がたった。思わずギュッと唇の端を噛む。
その攻撃は僅か、0コンマ数秒。
瞬きの速さとほぼ同等の突きにーー俺は押し寄せる痛みとともに焦りを感じていた。
砦の松明がまるでその空気を嫌がるかのように、バチっとした音を立てながら 揺らめく。
緊迫する重い空気がさらに俺の肩にのしかかっていく。
その最中、揺れる松明の炎を背に、壁にまるでハートマークのような影を映し出す。
次の瞬間、小さな青い蝶がひらひらと、蜃気楼が如く朧げに舞った。
それは”妄想蝶”ーーミラ・アカノ。アカノはスッと人型に変貌を遂げた。
そして間髪入れず、彼女が詠唱する。
「【蒼紅蝶舞】ーー!」
紡がれたその瞬間。赤と青の蝶が乱れ舞う。
ミラ・アカノが精神支配ーー魅了率120%の魔法を駆使した。
瞬間、目を丸くするゴルバの動きは、ピタリと止まった。
秒をおかずして、俺は桜刀、【黄金桜一文字】と【兼松桜金剛】の二刀を逆手でクロス、力強く、逆袈裟の構えから振り抜いた。
「【雷哮十字斬】!!」
"ᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰ”
バリバリバリバリッ!
刹那、ゴルバの顔が強張った。
次の瞬間、斬撃が空間を切り裂くーー。
『先手必勝!』と、師匠に教わったことが脳裏を掠める。
『【雷哮十字斬】ーーその斬撃は空間を震わせ、まるで自然の怒りが解き放たれたかのように、竜巻と雷光が渾然一体となり渦を巻きながら空を割く。あえて形容するならその渦は龍形を成し、咆哮を上げながら牙をむくーーそんな攻撃と言っても過言ではない』
この技は師匠から伝授された技の中でも、最上級の破壊力を秘めるーー【複合魔法】。
蘇る記憶の中、俺はゴルバを睨みつけた。
例えゴルバの身体が龍の鱗で覆われようが、そこは言わば龍対龍。
『先手必勝』とはーーまさにこのこと。
言わずもながらことわりは欠かず、だ。
放たれた斬撃が空を捻じ曲げる。
その直後ーー斬撃はゴルバを捉えた。
次の瞬間、爆発したかのようにーー "ボジュッ” ーーっと、 弾け飛んだ黒い鮮血と肉片。それはゴルバの左肩に深く突き刺さるように命中し、風穴が開く。
開かれた穴の中から、【古代文字】のような刻印が浮かび上がり、ゴルバが体勢を崩す。
まるで時間が止まったかのような静寂が広がる中。
ゴルバは何が起きたのか、ただ呆然とした表情で目を見開き、痛みを感じる暇もないのか、動かない。
奴の琥珀の目は焦点を失い、唇も震え、黒い鮮血を口から零す。
その禍々しい鮮血は、俺の顔を濡らした。
その瞬間ーー”ドクン”。
『江戸っ子鼓動』が跳ね上がり図鑑から飛び出す。
それとともにカチッとしたスイッチ音が脳内に響いたーー。
【妄想スイッチ:オン】
『江戸っ子鼓動』がニヤッとした口を歪め、『妄想図鑑』を俺に投げた。
その瞬間、無意識に詠唱が漏れ出す。
「我が想、血肉となれ。虚ろの中の幻、今ここに宿れーー顕現せよ!《具現想霊》青銅のトライアングル!!」
『妄想図鑑』がパラパラと乾いた音を立てながら、自ら意志を持ったようにページが開く。
「魔族には我の力を……」
その言葉とともに、青銅のトライアングルが姿を現す。
踏み出すたび、青銅の装甲が擦れーーガシャガシャとした金属音を響かせる。
松明に照らされる獣のようなフォルム。
トライアングルは敵を見据え身構えた。
頭部が一瞬閃き、研ぎ澄まされた鋭利な*スパイクを際立たせる。
【妄想スイッチ:オフ】
青銅のトライアングルが唱えた。
「【トライ・ピアス】!!」
三方向からの貫通攻撃を連続で放つ。
凄まじい金色の光りとともに、目も眩むような雷ビームの攻撃がゴルバに放たれた。
バシュン バシュン バシュン
黒い鮮血がその場に膝つくゴルバの顔を歪ませる。
「馬鹿な……なんだ……お前のその妙な魔法は……」
ゴルバの琥珀の目が怪しく閃き、怒りを宿した。
「これしきのことで……我が力を舐めるなあああああ!!」
「【風殺刃】ーー!!」
咆哮とも取れる声を響かせ、ゴルバが風を巻き込み、ハルバードを振り回す。
「【三極鎧陣】!!」
咄嗟に【守護結界魔法】を唱えた青銅のトライアングルだが、その旋風と魔力の勢いに呑み込まれーー消えていった。
竜巻の如く襲ってくる螺旋の斬撃。
ブシュ ブシュ ブシュ ブシュ ブシュ
避けきれず、俺は身体にいくつもの裂傷を受けた。
身体は熱くなり、痛みで意識が揺らぐ。
「ダー様!」
「リーダー!!」
血まみれになった俺の姿を見て、ミーアとアカリが叫んだ。
一方、その声が耳に届いたのか、嘲笑を浮かべるゴルバ。
「どうした、ゴミ虫! ぐうの音も出ないのかぁ?」
冷ややかに言い放つ。
低く響くその声は、自らの魔力を誇示しているようだ。
こいつ……あの攻撃でもびくともしない。
どうする……冷静になれ、奴の攻撃は単調……。
思考を巡らすが、ゴルバの攻撃は続く。
ゴルバがハルバードを真っ向正面から撃ち下ろす。
「ゴミ虫め!これでトドメだ! カイド巨人流槍術ーーー【無尽】!!」
禍々しい息吹とともに込められた殺意。
頭上から打ち下ろされる俊速のハルバードが俺に迫る。
だがその時、ゴルバの左肩の動きのリズムが僅かに”ぶれた”。
俺はそれを見逃さなかった。
その瞬間ーー持ち替えた【桜刀・兼松桜金剛】を横一閃。
夜明けの微光が、刀身の桜模様に吸い込まれ、黄金色の雷光を纏う。
「巫代流居合い……裏金剛」
その言葉とともに刃は、青白い閃光を放ち、カチィン!と乾いた金属音とともに鞘に収まった。
一瞬だけ閃く濃紫の細い線を成す光の残滓。
「……うぐぅ……」
次の瞬間、ゴルバの表情は歪み、まるで時間が止まったかのようにポタッ…ポタッと静かに黒い鮮血が滴り落ちる。
次の瞬間、まるで巨大な水晶が割れるように、噴血が空中に飛び散り天井まで達した。
冷たく、落ちる音だけが静寂の中に響く。
それは場の空気に溶け込んでいくかのようだ。
「っな……この俺様を……ドルサードさま……」
最後の言葉とともに、ゴルバの身体は真っ二つに横へずれ崩れ落ちる。
その瞬間、闇がゴルバを蝕むように覆い尽くした。
闇が晴れると、奴の姿は跡形もなく消えていた。
黒い鮮血が俺の顔を濡らした。
無意識に口元を拭うと、ゴルバの血が生臭さと錆びた風味を感じさせた。
「……これは?」
次の瞬間、ゴルバの記憶が脳内に一瞬で流れ込み、映像が走る。
彼が経験した数々の戦い、感じた恐怖、そしてーー無力感。
それらが鮮明に脳裏に刻まれ、決して妄想ではない錯覚を覚える。
不思議な感覚に身を任せる中で、徐々に冷静さを取り戻していく。
そして、無意識のうちにハルバードを手にしていたことに気づく。
動作が止まったように、何もかもが収束し、俺はそれを『アイテムボックス』にしまった。
その場の空気は変わり、ゆっくり現実感が広がる。
血の匂いが漂い、その異常な静けさに包まれながら俺はただ、茫然と立ち尽くしていた。
「ダー様……お見事です、お怪我を治しますわ」
そう言って涙を浮かべアカリが駆け寄り俺に抱きつく。
温かく柔らかな感触が背中に伝わり、思わず身体が硬直する。
「【エクストラ・ヒール】!」
彼女が詠唱ーー緑の優しい光りが俺とアカリを包み込んだ。
裂傷がみるみるうちに塞がっていく。
次第にその温もりに気づき、緊張もほぐれていく。
けれど、背中に感じる感触が妙に生々しい現実を思い出させた。
だが、それは妙な安堵感でもあったのだが。
ーーむにゅ。
「"ハッ”」
我に帰り、抱きつくアカリの手をそっとほどく。
彼女の温かさが名残惜しくも感じたが、今はそれどころではない。
そんな中、ミーアにやわらかな視線を向ける。
彼女は静かに立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。
その歩みはゆったりとして、どこか力強さを感じさせた。
大丈夫そうだ。よかったよ〜〜〜。
思いながらも、口ではちょっと格好をつけてみる。
「……ミーア、首の怪我は癒えたのか?」
「ええ、もう大丈夫。リーダーありがとう」
ミーアのその言葉に安堵が胸いっぱいに広がる中、ほっと息をつく。
一方、アカリはその光景に頬をぷくっと膨らませる。
「ダー様、こんなお顔では、せっかくの美男子が台無しですわ」
そう言って俺の顔に付いた返り血を見て、小さくため息をついた。
手にしたハンカチで優しく拭ってくれるその指先には、驚くほどの優しさが込められていた。併せてどこか懐かしい温もりも伝わってくる。
……アカリがいてくれることが、
どれだけ心強いか……。
そんな思いの中、突然事態は急変する。
"ドッカァァァァァァァンッ!”
「!?」
安らぎも束の間、突如として砦内に轟音。
ボバァァァァァァァンッ!
続く爆発音とともに、砦全体が揺れる。
この場の静寂を嘲笑うかのように、その音は反響を繰り返した。
俺が突然のことに目を丸くする中、逃げ叫ぶ声が木霊する。
「うわ!! コイツらバケモノだーー!」
「頼む…助けてくれーー!!」
その複数の叫び声は、恐怖そのものだった。
それが耳に届くと同時に、血が沸騰するような感覚が胸を襲う。
……ジュリたち何かあったのか?
焦りが意識を支配し、身体が反射的に動き出す。
息をつく間もなくーー爆音のする方向へと、俺はがむしゃらに駆け出した。
足音が重なり合い、砦内に響く。
焦燥感が、心臓をさらに激しく脈打たせていた。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
煙が立ち込め視界がほとんど奪われた中、
「アリー、ジュリーー! 無事かぁぁぁぁあ!?」
必死に呼びかける。
喉が焼けるように熱くなる感覚を覚えながら、声を張り上げた。
「呼んだ?へんダ──」
「呼んだかにゃ?」
その声が顳顬に響いた瞬間、俺は動きを止めた。
「っえ!?」
悪い視界の中、煙の切れ間から現れたジュリとアリー。
彼女たちは中年男性を支えながら歩いてきた。
その表情はいつものように落ち着いていて、それどころか、笑みすら浮かべている。
そうだよな、この二人なら……。
頭をよぎったその瞬間、全身の力がスッと抜け、膝がカクッとなった。
「……無事で良かった……」
胸の奥で安堵が弾けた。
煙が徐々に晴れる中ーー視界に飛び込んできたその光景に、思わず息を呑んだ。
瓦礫は無残に散らばり、壁には巨大な亀裂が刻まれていた。
天井は崩れ落ち、ぽっかりと穴が開き、白じむ空が顔を覗かせていた。
その場に倒れ伏しているのは、数十人の傭兵だった。
血にまみれたその身体はピクリとも動かない。
「これ……二人でやったの……?」
背後から聞こえたミーアの声は、驚きと戸惑いに満ちていた。
その言葉に中年の男性が答える。
「この二人の……火力は……まるで悪魔だよ……」
震える声に込められた恐怖が、場の異常さをさらに際立たせた。
ジュリとアリーは、そんな状況にもどこ吹く風といった様子。
「へんダー……凄いでしょ?わたしとアリー」
そう言ってジュリが口元に笑みを浮かべた。
アリーも、特有の無邪気な口調で付け加える。
「にゃんでもできりゅ~。任せてもらえればいいにゃ!」
まるで何事もなかったように振る舞う二人に、思わず肩をすくめた。
強い……いや、強すぎるんだ。
俺の理解の範疇を超えてる……。
……ったく、この二人は……。
その光景の異様さと、二人の底知れない力。
それに対する畏敬が混じった感情が、胸の奥底で渦巻く。
けれど同時に。
……それでも、頼りになる仲間だ。
今はそれだけで十分。
静かにそう自分に言い聞かせた。
口には出さないのが俺の流儀。
砦は静寂に包まれ、戦いの終焉を迎えたことを告げていた。
崩れ落ちた瓦礫の中で、どこか空気が和らいでいく。
「……俺たちで、本当に終わらせたんだな」
俺の言葉は煙の中に静かに消えていった。
アリーがゆっくりと俺に目で合図を送る。
「ゴクにぃ…」
そのサインに応じるように、アカリが男性に声をかける。
「……騎士団長様ですか…?」
少し声を震わせながら訊ねた。
「ああ、駐屯騎士団団長のアザックだ」
彼が答えると、アカリの顔にほっとした表情が広がる。
安心したように、肩の力を抜くその姿が、何とも愛おしい。
「良かったですわ……ご無事で……」
その言葉に胸の奥が熱くなる。
彼女がどれだけ心配していたのか、その言葉一つで理解できる。
アザックの無事を確かめた瞬間、張り詰めていた緊張が一気にほぐれた。
そんな俺を他所に、アカリとミーアが笑顔でじっと見ているのを感じ、なんだか照れくさくて、少し耳が熱くなる。
やがて煙は晴れ、俺を見たジュリが顔をしかめながら、ひとしきり泣きべそをかきつつ言う。
「血だらけじゃん!! へんダ─……また怪我したの?」
「ん? もう、治してもらったけども?」
軽く肩を窄めて言うと、ジュリの顔がグジャと歪む。
「も───っ! 心配して損した───っ!!」
声を上げたその瞬間、仲間たちから笑い声が漏れた。
それをきっかけに、和んだ空気に包まれていく。
そんな中、団長アザックが真剣な表情で尋ねてきた。
「助けてもらって何なんだが……君たちは何者なんだい?
凄まじい強さなんだが……」
「通りすがりにょ……物好きにゃ」
思わずアリー口調がまた出てしまう。
またやっちまったよ。
アリー語の自爆デス……はい。
皆一斉に「クスッ」と笑った。
俺も照れながら笑いを堪えるのに必死で、顔をそむける。
一方アザックが何かを言いかけたその時、アカリが逆に問いかける。
「アザックさん……この後は、どうなさるんですか?」
「ここに居たサブカラー傭兵団を殲滅するのに、一度シモンヌ卿に報告して、地方騎士団を呼んで……」
アザックが話している間、その言葉に耳を傾けながらミーアがポツリと口にした。
「多分……サブカラー傭兵団はもういないよ」
その言葉と同時に空気が一変する。
アザックの目が瞬時に俺たちを捉える。
全員が微笑み、サインを送った。
『『『『『 OK 』』』』』
その瞬間、俺たちの間に感じるものがあった。
白じんでいた空が茜色に変わり始める頃、
戦いの終息とともに訪れた安堵と少しの誇りを、まるで運ぶかのような穏やかな風が砦に吹いた。
「そろそろ帰らないと……姉様に大目玉を……」
ミーアが小さくつぶやくと、仲間たちは「ゲラゲラ」と笑いながら、それぞれに装備を整え始める。
俺もその笑顔に包まれて、少しだけ口元を緩めた。
ジュリがアザックを支えながら言葉を落とす。
「騎士団長さん……ビヨンドの村なら、わたしの魔法で帰れるけど?」
その言葉にアザックの目が丸くなった。
「もしかして、あの高度で凄い魔力を使う……転移の魔法を使えるのか?」
アザックの問いに苦笑しながらジュリが答える。
「”ははは”……便利なんだけど……一度行った所にしか行けないのよねー」
無邪気な笑みを浮かべながら続けた。
「あーそうだ……この魔法を使うには広い場所じゃないとダメだから、外にある空き地?……あそこで魔法をかけるわ!」
その言葉に仲間たちも頷く。
アリーが先導し、砦を後にして外の空き地へと向かった。
戦いの痕跡が残る砦の風景が、背後に小さくなっていく。
誰も言葉を発することなく、ただ足音だけが響く中で、胸の中にある仲間たちに寄せる思いが静かに波打っていた。
夜明けの光が差し込んで、穏やかな朝の空気が広がっていく。
小鳥たちの囀りが、静かに耳に届き心地良い。
鳴き声のリズムに合わせ、心も次第に落ち着いていく。
広々とした空き地に辿り着くと、ジュリが前に踏み出す。
そして手を掲げながら、いつもの如く快活に【転移魔法】を唱えた。
「【アストラル・ゲート】!」
その瞬間、眩い光が空間を満たし、目の前に【白い魔法陣】が現れた。
柔らかな輝きをまとった【門】が瞬時に浮かぶ。
その門はーー亜空間へと俺たちを導く転移の入り口。
「帰りゅよーー!」
アリーが満面の笑みで叫び、楽しげに【門】へ駆け出す。
ミーアが静かに微笑みながらその後に続いた。
俺は振り返り、後ろを歩くアザックを見た。
彼はアカリに支えられるように歩く。
その傷ついた姿と疲れた表情が、戦いの激しさを顕著にしていた。
「助けてもらって、本当に感謝している。この恩は忘れない……」
アザックが静かにそう言うと、俺は軽く頷いた。
そして心の中で、この戦いの終わりと新たな旅立ちへの決意を噛みしめる。
俺は仲間たちに目を向け、静かに言の葉を落とす。
「……さて、行くか」
ーーこの【門】を越えた先に待つのは、どんな新たな試練だろうか。
だが、俺たちはもう迷わない。
そして、一歩を踏み出した。
ここから、さらに輝く未来へと進むーー希望の一歩だ。
この時はまさかアザックが、ドルサードの下僕になっていることなどーー俺たちは知る由もなかった。
その【門】の扉を潜り抜け、俺たちは、次なる冒険へと進んでいったーー。
突然、一歩前で立ち止まるアリーが振り返り、頭を垂れぺこり。
「第1幕は、これで終わりにゃ! ありがとにゃ!」
第1幕完
長文でしたが、お読みいただきありがとうございます。
これで第1幕は、完結になります。
続く第2幕も頑張って執筆いたしますのでーー
気に入っていただけたらブックマークをお願いします。
リアクション、感想やレビューもお待ちしております。
【☆☆☆☆☆】に★をつけていただけると、モチベも上がります。
引き続きよろしくお願いします。




