キヌギス砦編 4 〜神代の力〜
空高く浮かぶ雲の上、天上から覗き込む三柱の一人ーー女神東雲は、静かに声を漏らす。
「あなた、アカリがついに……神代の扉を開く時が来たのですね」
一方トランザニヤは、黒銀の瞳を細めながらポツリと落とす。
「使わせるんだな……。
秘められた戦術の核、力の二重螺旋、あの神代魔法を……」
「まぁな」
そう答えると、神シロは顎を突き上げ、遥か彼方ーー星々が煌めく漆黒を見つめ、ひとつ息を吐いた。
そして目を凝らし下界をじっと見つめる。その視線の先はキヌギス砦。
化け物じみた巨人と対峙するゴクトーとアカリが彼の視界に入る。
神シロは注視しながら、白き衣を靡かせ紡ぐ。
「我が末裔アカリよ。お前に、伝えるべき神代魔法の真髄を授けよう」
その声は風とともに轟き、地上の彼女の元にまで運ばれた。
次の瞬間、ゴルバを睨むアカリの顳顬に、その言葉は直接響いた。
(何? この声? まさか、白刃を授けてくださった、あの時の神様……また、お力を貸してくださるの?」
思いつつ、アカリは昂る胸の心臓をギュッと抑えた。
その瞬間、彼女の赤碧色の瞳の奥にーー漲る闘志と揺るがない決意が宿った。
何だ? 神様? 力を貸す? 何が起こってる?
アカリの思考が伝わるゴクトーは、そう思いながらもゴルバを睨みつける。
この時、彼女の【覇気】の色に異変を感じたゴクトーは、思考を巡らせていた。
常時アカリが纏うーー桜色の【覇気】は、八重桜のように凛として、艶やか。
だが、それとは全く違うーー燃えるように揺らぐ、橙炎色に彼は驚きつつも、ゴクトーは【桜刀】の二振りを強く握り込んだ。
一方の神シロは、天上の光を指さしながら紡ぐ。
「神代魔法は、言霊と心の力を融合させるものだ。まず、心を静め、次にこの呪文を詠唱せよ」
その言葉が耳の奥に響くと、アカリは静かに瞼を閉じた。
緊張感が漂う中、ゴクトーの目には彼女の落ち着き払った姿が、神々しい光を宿した女神のように見えた。
神シロは七色に煌めく天光を浴びながら、力強く紡ぐ。
「天啓を与えし神代の大神よーー我は、力なき大地を歩む儚き存在……。
その比類なき根源を、我が魂に宿し給えーー悠久より巡る 原初の 大地の息吹よ―― 螺旋の如く重なり、灼熱の力となれ! 赤き炎の精霊よ、地の底よりここに顕現し、我が祈りに応え給えーー!」
その詠唱は、まるで大地の歌のように烈火の如き旋律で、彼女の中に流れ込む。
「この詠唱はゴクトーが使う《具現想霊》神代魔法とは、ちーと異なるのじゃ。これは神代魔法ーーその名も暁。天と地が力強く調和し、破邪の螺旋を呼び起こす。お前の身体に宿る古き血脈を信じ、声に乗せるのだ」
そう言って神シロは優しく微笑む。
「アカリ、その力を今、解き放て。そなたの未来は、光り輝くものとなるじゃろう」
神シロのその声は、アカリの心にまで響いた。
その頃、ゴクトーたちは、化け物じみた巨人と対峙していた。
◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇
「このゴルバ様に、刃を向けるとはーー貴様ああああああ!!」
砦に反響したその巨人の声が、松明の炎をはためかせた。
俺は冷静にその巨人、ゴルバと名乗る化け物を睨みつける。
一方のアカリは深く息をつき、瞼を閉じた。
その姿は、どこか心を落ち着かせている様子。
俺はゴルバの動きをつぶさに観察しながら、微妙な空気の揺らぎにも素早く対応できるように、半身に構えた。
切迫した空気と緊張が押し寄せる中、ゴルバの表情が変わっていく。
俺たちの動きに、なんら違和感を覚えているに違いない。
ゴルバの眉間には深い皺が刻まれていく。
そんな中、アカリの目がカッを見開いた。
彼女は赤と青が交錯する瞳に、閃きを宿しながら静かに紡ぎ始めた。
「天啓を与えし神代の大神よ……」
その瞬間ーー松明の火は揺らぎを止めた。
「我は、力なき大地を歩む儚き存在ーー
その比類なき根源を、我が魂に宿し給えーー」
紡ぎ終えたアカリの周囲には、風が舞い始め、頭上に鮮やかな橙ーー【燃える盛る魔法陣】が浮かび上がった。
巨大な炎はゆっくりと回転しながら輝きを増し、一筋の橙炎が彼女の身体を包み込む。
「悠久より巡る 原初の 大地の息吹よ―― 螺旋の如く重なり、灼熱の力となれ!
赤き炎の精霊よ、地の底よりここに顕現し、我が祈りに応え給えーー!!」
螺旋の炎とともに彼女の【覇気】が高まっていく。
全身から放たれるその圧倒的な【覇気】に、砦の温度が一気に上昇したように感じられた。
次の瞬間ーーアカリの額に小さな【炎の痣】が浮かび上がった。
燃え盛る炎の紋様が刻まれたかのようで、彼女の妖艶な美しさと燃え盛る闘志の恐ろしさをまざまざと見せつけていた。
俺も使う【神代魔法】ーーそれは仮初の神力を引き出す禁忌の術式。
命を削る代償を伴い、天賦の才と鋼の覚悟を求める。
しかし、アカリは一切の迷いも見せることなく、その神力を堂々と操っていた。
アカリ独自の【妖艶覇気】が、艶やかな麝香の薫りとなって空気に漂う。そのひと滴の香気は、水面に落ちた香水が王冠の形を描いて波紋を広げるかのように、静かに周囲へ満ちていった。
アカリ……死ぬなよ……。
思いとは裏腹に、それは甘くも危険な香りを孕み、意識の奥深くまで染み込むようにこの場を支配していく。
方時もゴルバから視線を逸らさず。 奴の動きに着目する。
だがこの時、一瞬の迷いが生じるゴルバを俺は見逃さなかった。
圧倒的な威圧を放つゴルバですら、アカリの漂わせる【妖艶覇気】に抗うことはできないようだ。
ゴルバの目は知らず知らずのうちにアカリを追い、その動きを奪われ、釘付けになっていた。
一方のアカリは冷徹さと、燃えるような意志が感じられる。
きっと彼女の【妖艶覇気】が、神力そのものに変化を遂げたからだろう。
彼女の周囲には、炎の精霊が艶やかな舞いを見せるが如く揺らめく。
その光景は、まるで神話の一幕を切り取ったかのように荘厳だった。
彼女はゆっくりと、胸元に挿す扇子に手を伸ばす。
その仕草は艶っぽさと優雅が絶妙に混じり合うなんとも言い難い形容。
まるで舞姫が舞台の客を魅了するーーそんな洗練された美麗を醸し出していた。
扇子は空を切るように広がり、バッと音を立てる。さらに扇子は鮮烈な赤い光を放ち、その瞬間、舞うような炎の花びらの幻影が宙に咲いた。
(*アカリのイラスト)
彼女はひらひらと軽やかに扇子を仰ぐ。
その華麗な舞いは、大気そのものが彼女に魅了されたかのように震えた。
次の瞬間ーーバチッと音を立て、彼女は扇子を閉じた。
さらに【桜刀・黄金桜千貫】の上に重ね十字を示す。
「神代魔法ーー巫代流舞刀術 暁の型ーー!
【連獅子濠炎】!!」
アカリが唱えたーーその刹那。
目を眩ませるほどの橙光が周囲を包みこむ。
次の瞬間、猛り狂う獅子のような炎が、ゴルバに向けて放たれた。
"ゴォォォォォ───ッ༅༄༅༄༅༄༅༄༅༅༄༅༄༅༄༅༄༅”
螺旋状に重なり合う火柱が、瞬く間にゴルバの全身を飲み込む。
爆音が鳴り響き、砦が揺れるほどの衝撃が走った。
立ち込める煙と炎の中、一方のアカリは肩で大きく息をしながら、その場に立ち尽くしていた。
だがーー。
「ぐうおぉ……」
呻き声とともにーー煙の中から現れたのは、蹌踉めきながらもなお、立ち上がる全焼したゴルバだった。その目は狂気に満ち、赤い瞳がギラギラと鋭さを増し、まるで魔族のような【邪気】を放っていた。
「アチぃだろうがああああ! この女ゴミ虫がッ!」
そのゴルバの怒号に、アカリは信じられないものを見るような目で、ただ凝視していた。
「はぁ……はぁ……あれで倒せないなんて……」
その言葉とともに彼女の汗が頬を伝い床に落ちた。
必死に睨みつけるものの、アカリは悔しさと疲労が滲んでいた。
辺り一面、暁の炎で跡形もなく吹き飛んだというのに。
大きく肩を揺らすゴルバのその表情には、まだどこか余裕が感じられる。
しかし妙だ。全焼したら皮膚呼吸もできないだろうし、呼吸器もやられるはず。 だがゴルバのその顔は、爛れてはいるが目は爛々と輝き、未だその鋭さは変わらない。
不安げな表情を見せるアカリに、黙視していた俺は、語気を強めに投げた。
「アカリ……もういい。神力解除しろっ」
その言葉にアカリは眉をしかめる。
「ダー様……まだ負けたわけではありませんわ…」
肩で息をしながらも、アカリは必死に訴えかける。
だが冷静に俺は言の葉を落とす。
「いいから……お前はミーアの治癒に専念しろっ!」
アカリは躊躇しながらも何かを感じ取ったのか、静かに頷く。
「……わかりました、ダー様……」
小さくつぶやくと、アカリは瞼を閉じて、再び詠唱を紡ぐ。
「その比類無き根源よ……我が魂より還り給え……」
額の炎の痣がゆっくりと消え、纏っていた【妖艶覇気】も次第に萎ぼんでいった。
「悔しい……私の精一杯でも、歯がたたない……」
そうつぶやくアカリはポトリ…と、床に涙を落とす。
その瞬間、全身の力が抜けたように、汗塗れのままーーその場に"ドサッ”と座り込んだ。
一方のゴルバは不穏な言葉を押し並べる。
「このゴミ虫どもめ……俺様に本気を出させるとはなぁ……これは滅多にお目にかかれぬぞ……」
ゴゴゴゴゴ……
ゴルバは全身に凄まじい力を込め、その怒りを爆発させた。
「……?」
巨軀を震わせ全身に漲る【覇気】を高める。
毒々しい、いや禍々しい、と言った方が正解だろう。
漆黒の闇が周囲を汚染し始める。
いや、これは違う。 リンクスが放ったような【邪気】だ。
そう思ったーー瞬間、周囲の大気が歪み始めた。
それは俺たちの想像を遥かに凌ぐ、新たな戦いの前触れと危険を孕む予兆に過ぎなかった。
そんな不安を抱える俺を他所に、ふらつきながらもゴルバは口を開く。
「冥土の土産に、しっかりと目に焼き付けておけーー!!」
その怒声が砦内に響いたその瞬間ーー怪しげな何かが渦を巻き、彼の身体を包み込んだ。それは見る者の心を締め付けるような圧迫感を放つ。
胸が引き裂かれるような感覚とともに、その渦はさらに加速していく。
ーー渦は次第に深い闇へと変貌を遂げた。
皮膚がドス黒く変色し、まるで古代の呪詛に染まったかのような陰影を纏い始めるゴルバ。
その黒い膜が硬質な鱗へと変わっていく様は、さながら生き物のよう。
それがゴルバの全身を覆い尽くしていく。
浮かび上がる鱗は金色に光を反射し、どこかドラゴンを彷彿とさせる威厳と重厚感を備えていた。
そんな折、ふとアカリが肩で息をしながら零す。
「ダー様、あ、あれはまさか……魔族……?」
彼女は変貌するゴルバの姿に、その場に呆然と佇んだ。
一方、ゴルバの筋肉はさらに隆起し、それはすでに生物の限界を超えていた。
腕は巨木のようで、全身は黒鉄のような強靭さを鈍く光らせる。
「ンギ……ギ……ギィィ……」
奇声を発するゴルバの瞳は、怒りと狂気を宿した血のような赤い色から、獣のような琥珀色へ。
その瞳は、ただ視線を交わすだけで支配されるかのような恐怖を感じる。
その変貌を目の当たりにした者は、ゴルバをただの戦士とは呼べないだろう。
彼はもはや人間ではない。
世間で語られる『魔族』、そのものだった。
ゴルバの変貌した姿に、自身で納得しながらポツリ。
「こんな悪事を企てる奴だ。 悪魔と呼ばれるのも……当然か…」
俺は独り言ちる。
背中に背負ったハルバードを、ゴルバは一閃とばかりに両手で構える。
「このっ!ゴミ虫どもがっ!!」
その瞬間、*ハルバードの斧先が俺の目の前に迫った。
「あの世で吠え面、斯くがいいぃぃぃぃいーーー!!」
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