キヌギス砦編 3 〜巨人あらわる〜
「嫌な感じだ。どうやら、魔族に気づかれているようだな」
黒銀の目の友こと、トランザニヤは下界を覗き、渋い顔でつぶやく。
「奴は魔族四天王がひとり、ドルサードの配下の者か……その配下の中でも極めて残虐だとか……」
神シロは下界を眺めながら、眉をしかめ答えた。
「ああ、奴は”黙示のゴルバ”だ」
神シロの妻、女神東雲が振り返り、震えながら唇を動かす。
「まさか、あの巨人族の……?」
「ああ」
トランザニヤの顔がさらに曇る。
「黒銀の、ワシの神力の一部をアカリに送る。ぬしもゴクトーに神力を少し貸してやれ」
「ああ、そのつもりだった」
「なら、わたくしは……ジュリに送りますわ」
神々は姿勢を正し、瞼を閉じて下界に意識を集中させた。
その頃ゴクトーたちは二手に岐かれ、キヌギス砦の中を彷徨っていた。
■(ここからアリー目線で)■
僕は目を凝らし、檻の中に横たわる影を見つけたにゃ。
その人物はロープで縛られ、猿ぐつわを噛まされていたにゃ。
「……行くよ!」
そう言ってジュリねぇが視線鋭く先を見据えりゅ。
音もなく近寄る姿勢は、まるで獲物を狩るような鋭さを感じさせりゅ。
負けてられにゃい。
僕だって、『ハンター』のスキルを持ってりゅっ!
僕は耳をピンと立て、鋭敏な感覚を研ぎ澄ませりゅ。
前方を見据えーー無言でジュリねぇに頷いたにゃ。
緊張感が僕にょ身体を固くしたにゃ。
一歩ずつ、無駄な音を立てずに檻に近づいたにゃ。
慎重に、周囲の動きにも細心の注意を払いながりゃ進む。
目を凝らして檻の中を注視すりゅ。
男の人が酷く疲れた様子で、身体を横たえていりゅのが見えた。
僕は目がいいから見えりゅ。短い金髪の頭部には所々に傷がありゅ。
床に滲む血痕ーーかなり出血してりゅ。鎧も血に塗れてりゅにゃ。
生臭い匂いが僕の鼻をつく。目や鼻はみんなよりは、いいはず。
身体は頑丈そうに見えりゅけど、皮膚の古傷や顔に皺が寄る表情にも痛々しさを感じたにゃ。
長いこと無理を強いられていた印象にゃ。
その姿からは、どれ程の時間がしょの人を蝕んでいたのかを感じさせりゅ。
ジュリねぇが手を伸ばし、檻越しに声をかけりゅ。
「大丈夫ですか?」
でも、しょの人は返事をしにゃい。
僕は目で合図を送りゅ。
ジュリねぇは短く頷いたにゃ。
しゅると、ジュリねぇは杖を檻の鍵穴に向け、静かに呪文を唱えたにゃ。
「【ケラヒ・ガチャント─】!」
杖から放たれた魔力が鍵穴を包み込み、わずかにゃ振動とともに“ガチャ”という音が響いたにゃ。
そして、錆びついた鉄の扉が“ギィィ───”と不快な音を立てて開いたにゃ。
僕とジュリねぇは、急いで檻の中に入った。
しょの男の人は黄身がかった顔色で、意識がほとんどにゃい。
生きてりゅ……?
心配になりゅ。
僕はそにょ男の人が、かにゃり状態が悪いことーーいや、むしろ瀕死なのを察して声を上げたにゃ!
「ジュリねぇ、回復魔法を!急ぐにゃ!」
その言葉に頷きながら、ジュリねぇが再び呪文を唱えりゅ。
「【エクストラ・ヒール】!」
薄緑の光がしょの人の身体を包み込んだにゃ。
にゃんだか、僕も癒されりゅ。
優しい輝きが次第に消え、微かな光の残滓と温かな余韻だけが残ったにゃ。
その間、僕は素早く『アイテムボックス』から『回復薬』を取り出し、口に嵌められていりゅ、猿ぐつわを手際よくはずしたにゃ。
そしてゆっくりと、しょの人に『回復薬』を飲ませたにゃ。
「……う……うぅ……」
乾いた唇から漏れ出りゅ声とともに、しょの人の瞼が少しだけ動いたにゃ。
「君たちは……誰だ? どこから来た……?」
僕に低くかすれた声で問いかけりゅ、しょの男の人。
まだ焦点が定まっていなかったにゃ。
しょんな中、ジュリねぇが膝をついて、優しく尋ねたにゃ。
「あなたが騎士団長さんですか?」
「……ああ……団員達は……うまく逃げられたようだが……」
その言葉は途切れ途切れで、か細いにゃ。
ジュリねぇは優しく声をかけ、男の人にょ上半身を支えたにゃ。
「うちのリーダーの意思で、あなたを助けに来ました。冒険者のジュリ・ミシロと言うものです。とにかく、ここから出ましょう。歩けますか?」
「……迷惑をかけるが……頼む……」
ゆっくりと起き上がるしょの男の人。
その目は濁り、ほとんど視界が効いていないようにゃ。
だってフラフラしてるにゃ。
僕は男の人の脚を縛るつける、ロープに噛みつき引きちぎったにゃ。
「んにゃ!」
しょの瞬間、ジュリねぇがポソっとつぶやいたにゃ。
「野性味の鋭さも感じさせるわね。アリー」
ふふん。 野生味もありゅのが僕の自慢にゃ……。
僕は冷静に『ショート魔導銃』を構えたにゃ。
「先導すりゅ!」
僕は周囲に気を配りながら、ゆっくりと闇の中を進んだにゃ。
足元を吹き抜ける冷気。 ただならぬ気配が先に待っているように感じたにゃ。
……笑えにゃい。
顔がこわばってるかもしれにゃい……。
そう思いながら振り返りゅ。
ジュリねぇは、片足を引きずる男の人をしっかり支え、この檻から脱出すりゅ。
湿った通路は薄暗く、空気が重いにゃ。
土埃が足音とともに舞い上がり、壁の隙間から漏れりゅ冷たい風が肌を撫でりゅ。
不安定な足音が響く中、背後にも何かが潜んでいるようなーーそんな気配が付きまとう感じにゃ。
……でも、ここで、僕が勇気をみせにゃいと……。
僕は声を上げることにゃく、松明が不気味に揺れながら通路を照らす中、慎重に歩みを進めたにゃ。
(*先導するアリー)
*
◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇
ーーキヌギス砦の松明が並ぶ、右通路の最奥。
暗い通路の奥へ視線を滑らせながら、静かに歩みを進めた。
先を取るミーアが鋭い目で振り返り、手を揚げ拳を握る。
彼女が「止まれ」の合図を出した。
ミーアは部屋のドアに耳を寄せ、異様な気配を感じ取っているようだ。
『狩人』の勘ーーそれは鋭いもので、彼女には脱帽させられる。
ミーアのその寄せられた眉には、嫌悪がうっすらと滲んでいた。
微かに漂う血の匂いーー。
それは緊迫した静けさをさらに引き立たせていた。
耳をそばだてながら彼女が指で、ドアの向こうの気配を示す。
……3人、いや、4人か……。
彼女の折り曲げられていく指を見ながら人数を確認。
もちろん、口には出さない。
俺は潜む敵の【覇気】ーーいや、”嫌なもの”を感じ取りながらドアに歩み寄った。
冷たい空気が漂う中、息を殺し、ゆっくりドアノブを捩じる。
ーーギィィィ…
不気味に軋む音が、益々緊張感を高めた。
薄暗い部屋の中、粗暴な男が4人。
一斉に向けられた冷酷な眼差し。それが俺たちを射抜く。
「ん?見ない顔だ!新入り…」
その男の言葉尻を蹴りながら俺は動く。
本能と反射神経がそうさせた。
「【一文字嵐斬】ーー!!」
その刹那 【桜刀・黄金桜一文字】が風を裂く。
刀身から解き放たれた斬撃は、捻れるように大気を巻き込んだ。
シュ────ンッ!
ブシュシュ…
男の腹を正確に貫く。
風穴が開いた瞬間ーー男の身体は激しく震え、八方に血飛沫が舞った。
バタンッ!
切り倒された枯木のように、男はその場から崩れ落ちる。
「お前ら!」
襲いかかって来る男に、アカリは音もなく動いた。
「巫代流抜刀術──【燦挿】!」
静かな彼女の声とともに、一瞬だけ白刃が炎閃。
【桜刀・黄金桜千貫】を斜め上に切り上げる。
ズパァッシャッ!
鋭い斬撃が鮮血を弧に描き、天井まで噴き上げる。
首を失った胴体はわずかに揺れ、一瞬立ちあぐねる。
その均衡は長くは続かず、"ドサリ”と鈍い音を立てて膝をついた。
その鮮やかな斬撃に、残った二人の男は一斉に動き止め、凍りついた表情で、ただ黙ってアカリを眺めていた。
まるで時間の神さえも固まるかのような、残忍な静寂が場を支配する。
だが、敵もただ黙って見ているわけではなかった。
無精髭がその粗暴さを際立たせる一人の男が、この静けさを打ち破る。
大剣を振りかざし、突進してきたその男にミーアが冷静に矢をつがえる。
「てめーら、許さねえ!」
叫ぶ男にミーアは冷静に矢を引き絞りーー「【イサナ:°リマズシ】!」
詠唱とともに矢を放った。
ドスッ!
黒い矢は狙いを外さず、男の左目を正確に貫く。
刹那、眼窩から鮮血が迸る。
男は声にならない悲鳴を喉に詰まらせ、痙攣するように足元を崩した。
バッタンッ!
鈍い音を立てて床に倒れると、瞬く間に血の海が広がる。
一方最後のひとりは後退りしながら、悲鳴じみた声を漏らす。
「お、お前ら、何者だ? 頼む、見逃してく──」
そんな言葉など耳に入れる価値もなしーー。
無表情かつ迅速に動く。
「巫代流刀術──【無月斬】!」
逆手に構えた【桜刀・兼松桜金剛】を逆袈裟に切り上げた。
シュンッ!
風が突き抜ける音とともに、闇を宿す黒曜の鋭い刃が男の胴を深々と斬り裂いた。
バシャッ!
鮮血が噴き出し、男は崩れ赤黒い血華を床に咲かせる。
瞬きする間もないーーその瞬間。俺の顔に血が飛び散った。
追撃で【桜刀・兼松桜金剛】をそのまま突き刺し、男の命を確実に刈り取った。
ここまで俺は残虐だっただろうか?
冷静ではいられない俺の心は昂っていた。
そんな思いを馳せながら佇む。
一方俺に寄り添い、返り血で染まった顔を、頬を朱く染めながらアカリがそっと拭ってくれた。
「はい。拭い終わりました」
彼女は小さく微笑み『OK』のサインを出した。
その仕草はあまりにも繊細で優しく、そして凛々しい。
心も少しだけ落ち着きを取り戻す。
そんな中でも、アカリの手には冷たく輝く桜刀、【黄金桜千貫】が握られていた。動かずにいると彼女の赤碧色の瞳を見つめてしまう。
俺は胸が一瞬詰まった。
「ありがとう…」
自然に零れた言葉に、アカリは艶やかな笑みを浮かべた。
「ダー様、笑った時のその八重歯が……可愛いですわね」
その声はどこか柔らかく、且つ悪戯っぽい響き。
カチッとした音が脳内に響く。
その瞬間ーー胸の『江戸っ子鼓動』が飛び跳ねた。
「旦那、アカリさんに”ほの字”ですかい?」
「鼓動! 揶揄うな!」
内心で命じる。
ただちょっとだけ照れてしまったのは事実。
『妄想図鑑』に消え入るように収まる鼓動に、少し腹が立った。
妄想と現実ーーアカリには『鼓動』の姿が見えてしまったようだ。
そんな俺の腕をアカリは掴みチラリと見上げる。
「ダー様の神代魔法ーー《具現想霊》は、磨きがかかっていますわね」
そう言って彼女は、満足げに口元を綻ばせていた。
おい、”むにゅっ”は嬉しいが。
今は、やめてほしいんですけども……。
しかし、見えるってことはアカリも……?
戸惑うがここは気を取り直して、アカリとミーアに指示を出す。
「行こう」
次の行動に集中する中、ミーアが一歩先に部屋を出た。
続こうとしたその瞬間ーー突如、視界いっぱいに飛び込んできたのは、ミーアの引き締まったモデル脚。
彼女の足が空中で”バタバタ”と容赦なく動く。
「「ミーア!!」」
叫ぶ俺とアカリの声が重なる。
突然のことで俺たちは面を喰らった。
一方のミーアは激しくもがきながら、怒りの声を絞り落とす。
「うぐぅーっ…離せっ!…このっデカブツッ!」
焦燥と緊張が走る中。
その正体を知る間もなく、アカリとともに咄嗟に部屋を飛び出した。
砦の奥から吹く生ぬるい風。
松明の炎が青白く揺れ、男の影を妖しく揺らめかせる。
アカリは凝視しながら零す。
「で、でかいですわね……」
声は震え、彼女が後退る。
その瞬間、視界に飛び込んできたのは圧倒的な巨躯。
身長は10メージ(m)を軽々と超え、その存在はまるで聳え立つ黒い巨塔ーー周囲の大気すら震わせている。
漆黒の髪を片手で掻きむしり、その深い紅い瞳で俺たちを見下ろす。
その奥には不気味に煌めくーー鋭い金色の光も宿していた。
「ぐふふふ…」
不気味な笑みを浮かべながら、その巨軀が口を開く。
「そこの可愛いお嬢さん、お前さんもこのエルフと同じように、愛でられたいのか?」
巨軀はその筋骨隆々の身体を前屈みにしながら、威圧をかける。
一方、抵抗を続けるミーアの髪が、その男の”厚い胸板”に触れた。
「こちょばゆいなぁ」
彼の大きなハルバード(先斧槍武器)が揺れ動く。
まるで破壊を象徴するかのように。そして低い声が響く。
「そこの黒いの!お前はすぐにあの世へ送ってやる!」
その言葉に巨躯を見上げ、圧倒されつつも、俺はまだ冷静さを保っていた。
巨大なハルバードを持つその姿は、誰が見てもまさに破壊の具現と呼ぶにふさわしいだろう。
周囲の空気までもが、男の存在で凍えるようだ。
俺たちを睨みつける巨軀の眉が吊り上がる。
「この黙示のゴルバ様率いるーー『サブカラー傭兵団』に刃を向けるゴミ虫どもめ!! 冥界の底で頭でも擦り付けながら懺悔しろ……!」
その怒声が砦の土壁に反響し、空気が震えた。
凄まじい威圧感が押し寄せる中、頭に血が昇り身体中の血が滾る。
だが、冷静に視線を定めたーー俺に迷いはなかった。
ゴルバの左手首を狙い、無言で【桜刀・黄金桜一文字】を居抜く。
"シュン”
放たれた一閃。 刃が抜かれる音が静寂をも斬りつけた。
ドッバァァァァァッ!
【桜刀・黄金桜一文字】が白く輝き、巨軀の左手首を肉ごと断ち切った。
ゴルバの左手首が宙を舞うーーその瞬間。
土埃を含んだ赤い雨が噴き出し、錆びた鉄の匂いとともに、俺の顔を濡らした。
他方、切り取られた手首とともに「ゲホッ、ゲホッ……!」と、咽せるミーアも血沫を浴びながら"ドサッ”と床に落ちた。
アカリがその手首を引き剥がし、ミーアを支えてすぐに詠唱を始める。
「【エクストラ・ヒール】!」
淡い緑の温かな光がミーアの身体を優しく包み込む。
次の瞬間、蒼白だった頬に徐々に血の気が戻り、朱みが差していった。
「ミーア!大丈夫っ?」
「ありがと……もう大丈夫。それよりあのデカブツを!」
それを見届け、アカリはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、安堵に甘んじることなく、アカリは視線を鋭くゴルバへ向ける。
瞼を閉じ深く息を吸い込む、そしてーー詠唱を始めた。
一方で、烈火の如き怒りを顕にする巨軀は声を荒げた。
「いてぇだろうが〜何してくれんてんだぁッ?」
そして、天空から闇が差し込むような低い声で紡ぐ。
「このっ、ゴミ虫があああああ!!!」
その怒声は砦全体に響き渡ったーー。
お読みいただき、ありがとうございます。
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【☆☆☆☆☆】に★をつけていただけると、モチベも上がります。
引き続きよろしくお願いします。




