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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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キヌギス砦編 3 〜巨人あらわる〜








「嫌な感じだ。どうやら、魔族に気づかれているようだな」


 黒銀の目の友こと、トランザニヤは下界を覗き、渋い顔でつぶやく。


「奴は魔族四天王がひとり、ドルサードの配下の者か……その配下の中でも極めて残虐だとか……」


 神シロは下界を眺めながら、眉をしかめ答えた。


「ああ、奴は”黙示のゴルバ”だ」


 神シロの妻、女神東雲が振り返り、震えながら唇を動かす。


「まさか、あの巨人族の……?」


「ああ」


 トランザニヤの顔がさらに曇る。


「黒銀の、ワシの神力の一部をアカリに送る。ぬしもゴクトーに神力を少し貸してやれ」


「ああ、そのつもりだった」


「なら、わたくしは……ジュリに送りますわ」


 神々は姿勢を正し、瞼を閉じて下界に意識を集中させた。





 その頃ゴクトーたちは二手に岐かれ、キヌギス砦の中を彷徨っていた。




 

 ■(ここからアリー目線で)■





 僕は目を凝らし、檻の中に横たわる影を見つけたにゃ。

 その人物はロープで縛られ、猿ぐつわを噛まされていたにゃ。


「……行くよ!」


 そう言ってジュリねぇが視線鋭く先を見据えりゅ。

 音もなく近寄る姿勢は、まるで獲物を狩るような鋭さを感じさせりゅ。

 

 負けてられにゃい。

 僕だって、『ハンター』のスキルを持ってりゅっ!


 僕は耳をピンと立て、鋭敏な感覚を研ぎ澄ませりゅ。

 前方を見据えーー無言でジュリねぇに頷いたにゃ。

 緊張感が僕にょ身体を固くしたにゃ。


 一歩ずつ、無駄な音を立てずに檻に近づいたにゃ。

 慎重に、周囲の動きにも細心の注意を払いながりゃ進む。


 目を凝らして檻の中を注視すりゅ。


 男の人が酷く疲れた様子で、身体を横たえていりゅのが見えた。

 僕は目がいいから見えりゅ。短い金髪の頭部には所々に傷がありゅ。

 床に滲む血痕ーーかなり出血してりゅ。鎧も血に塗れてりゅにゃ。

 生臭い匂いが僕の鼻をつく。目や鼻はみんなよりは、いいはず。


 身体は頑丈そうに見えりゅけど、皮膚の古傷や顔に皺が寄る表情にも痛々しさを感じたにゃ。

 長いこと無理を強いられていた印象にゃ。

 その姿からは、どれ程の時間がしょの人を蝕んでいたのかを感じさせりゅ。


 ジュリねぇが手を伸ばし、檻越しに声をかけりゅ。


「大丈夫ですか?」

 

 でも、しょの人は返事をしにゃい。

 僕は目で合図を送りゅ。

 

 ジュリねぇは短く頷いたにゃ。

 しゅると、ジュリねぇは杖を檻の鍵穴に向け、静かに呪文を唱えたにゃ。


「【ケラヒ・ガチャント─】!」


 杖から放たれた魔力(マナ)が鍵穴を包み込み、わずかにゃ振動とともに“ガチャ”という音が響いたにゃ。

 そして、錆びついた鉄の扉が“ギィィ───”と不快な音を立てて開いたにゃ。


 僕とジュリねぇは、急いで檻の中に入った。

 

 しょの男の人は黄身がかった顔色で、意識がほとんどにゃい。


 生きてりゅ……? 


 心配になりゅ。

 僕はそにょ男の人が、かにゃり状態が悪いことーーいや、むしろ瀕死なのを察して声を上げたにゃ!

 

「ジュリねぇ、回復魔法を!急ぐにゃ!」


 その言葉に頷きながら、ジュリねぇが再び呪文を唱えりゅ。


「【エクストラ・ヒール】!」


 薄緑の光がしょの人の身体を包み込んだにゃ。

 にゃんだか、僕も癒されりゅ。

 優しい輝きが次第に消え、微かな光の残滓と温かな余韻だけが残ったにゃ。


 その間、僕は素早く『アイテムボックス』から『回復薬』を取り出し、口に嵌められていりゅ、猿ぐつわを手際よくはずしたにゃ。


 そしてゆっくりと、しょの人に『回復薬』を飲ませたにゃ。


「……う……うぅ……」


 乾いた唇から漏れ出りゅ声とともに、しょの人の瞼が少しだけ動いたにゃ。


「君たちは……誰だ? どこから来た……?」


 僕に低くかすれた声で問いかけりゅ、しょの男の人。

 まだ焦点が定まっていなかったにゃ。


 しょんな中、ジュリねぇが膝をついて、優しく尋ねたにゃ。


「あなたが騎士団長さんですか?」


「……ああ……団員達は……うまく逃げられたようだが……」


 その言葉は途切れ途切れで、か細いにゃ。

 ジュリねぇは優しく声をかけ、男の人にょ上半身を支えたにゃ。


「うちのリーダーの意思で、あなたを助けに来ました。冒険者のジュリ・ミシロと言うものです。とにかく、ここから出ましょう。歩けますか?」



「……迷惑をかけるが……頼む……」


 ゆっくりと起き上がるしょの男の人。

 その目は濁り、ほとんど視界が効いていないようにゃ。


 だってフラフラしてるにゃ。


 僕は男の人の脚を縛るつける、ロープに噛みつき引きちぎったにゃ。


「んにゃ!」


 しょの瞬間、ジュリねぇがポソっとつぶやいたにゃ。

 

「野性味の鋭さも感じさせるわね。アリー」


 ふふん。 野生味もありゅのが僕の自慢にゃ……。


 僕は冷静に『ショート魔導銃』を構えたにゃ。


「先導すりゅ!」


 僕は周囲に気を配りながら、ゆっくりと闇の中を進んだにゃ。

 足元を吹き抜ける冷気。 ただならぬ気配が先に待っているように感じたにゃ。

 

 ……笑えにゃい。

 顔がこわばってるかもしれにゃい……。

 

 そう思いながら振り返りゅ。


 ジュリねぇは、片足を引きずる男の人をしっかり支え、この檻から脱出すりゅ。


 湿った通路は薄暗く、空気が重いにゃ。

 土埃が足音とともに舞い上がり、壁の隙間から漏れりゅ冷たい風が肌を撫でりゅ。


 不安定な足音が響く中、背後にも何かが潜んでいるようなーーそんな気配が付きまとう感じにゃ。


 ……でも、ここで、僕が勇気をみせにゃいと……。


 僕は声を上げることにゃく、松明が不気味に揺れながら通路を照らす中、慎重に歩みを進めたにゃ。



 挿絵(By みてみん)

(*先導するアリー)

 


 *



 


 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇




 ーーキヌギス砦の松明が並ぶ、右通路の最奥。


 暗い通路の奥へ視線を滑らせながら、静かに歩みを進めた。

 

 先を取るミーアが鋭い目で振り返り、手を揚げ拳を握る。

 彼女が「止まれ」の合図を出した。


 ミーアは部屋のドアに耳を寄せ、異様な気配を感じ取っているようだ。

 『狩人』の勘ーーそれは鋭いもので、彼女には脱帽させられる。

 ミーアのその寄せられた眉には、嫌悪がうっすらと滲んでいた。

 

 微かに漂う血の匂いーー。

 それは緊迫した静けさをさらに引き立たせていた。


 耳をそばだてながら彼女が指で、ドアの向こうの気配を示す。


 ……3人、いや、4人か……。


 彼女の折り曲げられていく指を見ながら人数を確認。

 もちろん、口には出さない。


 俺は潜む敵の【覇気】ーーいや、”嫌なもの”を感じ取りながらドアに歩み寄った。

 

 冷たい空気が漂う中、息を殺し、ゆっくりドアノブを捩じる。


 ーーギィィィ…


 不気味に軋む音が、益々緊張感を高めた。


 薄暗い部屋の中、粗暴な男が4人。

 一斉に向けられた冷酷な眼差し。それが俺たちを射抜く。


「ん?見ない顔だ!新入り…」


 その男の言葉尻を蹴りながら俺は動く。

 本能と反射神経がそうさせた。


「【一文字嵐斬】ーー!!」


 その刹那 【桜刀・黄金桜一文字】が風を裂く。

 刀身から解き放たれた斬撃は、捻れるように大気を巻き込んだ。


 シュ────ンッ!  


 ブシュシュ…

 

 男の腹を正確に貫く。

 風穴が開いた瞬間ーー男の身体は激しく震え、八方に血飛沫が舞った。

 

 バタンッ!

 

 切り倒された枯木のように、男はその場から崩れ落ちる。


「お前ら!」


 襲いかかって来る男に、アカリは音もなく動いた。


巫代(ミシロ)流抜刀術──【燦挿(さんざし)】!」


 静かな彼女の声とともに、一瞬だけ白刃が炎閃。

 【桜刀・黄金桜千貫】を斜め上に切り上げる。


 ズパァッシャッ! 


 鋭い斬撃が鮮血を弧に描き、天井まで噴き上げる。

 

 首を失った胴体はわずかに揺れ、一瞬立ちあぐねる。

 その均衡は長くは続かず、"ドサリ”と鈍い音を立てて膝をついた。


 その鮮やかな斬撃に、残った二人の男は一斉に動き止め、凍りついた表情で、ただ黙ってアカリを眺めていた。

 まるで時間の神さえも固まるかのような、残忍な静寂が場を支配する。


 だが、敵もただ黙って見ているわけではなかった。

 無精髭がその粗暴さを際立たせる一人の男が、この静けさを打ち破る。

 大剣を振りかざし、突進してきたその男にミーアが冷静に矢をつがえる。


「てめーら、許さねえ!」


 叫ぶ男にミーアは冷静に矢を引き絞りーー「【イサナ:°リマズシ】!」


 詠唱とともに矢を放った。


 ドスッ!


 黒い矢は狙いを外さず、男の左目を正確に貫く。

 刹那、眼窩から鮮血が迸る。

 男は声にならない悲鳴を喉に詰まらせ、痙攣するように足元を崩した。


 バッタンッ!


 鈍い音を立てて床に倒れると、瞬く間に血の海が広がる。

 

 一方最後のひとりは後退りしながら、悲鳴じみた声を漏らす。


「お、お前ら、何者だ? 頼む、見逃してく──」


 そんな言葉など耳に入れる価値もなしーー。


 無表情かつ迅速に動く。

 

巫代(ミシロ)流刀術──【無月斬(むげつざん)】!」


 逆手に構えた【桜刀・兼松桜金剛】を逆袈裟に切り上げた。


 シュンッ!


 風が突き抜ける音とともに、闇を宿す黒曜の鋭い刃が男の胴を深々と斬り裂いた。


 バシャッ!


 鮮血が噴き出し、男は崩れ赤黒い血華を床に咲かせる。

 瞬きする間もないーーその瞬間。俺の顔に血が飛び散った。

 

 追撃で【桜刀・兼松桜金剛】をそのまま突き刺し、男の命を確実に刈り取った。 


 ここまで俺は残虐だっただろうか? 

 冷静ではいられない俺の心は昂っていた。


 そんな思いを馳せながら佇む。


 一方俺に寄り添い、返り血で染まった顔を、頬を朱く染めながらアカリがそっと拭ってくれた。


「はい。拭い終わりました」


 彼女は小さく微笑み『OK』のサインを出した。

 その仕草はあまりにも繊細で優しく、そして凛々しい。

 心も少しだけ落ち着きを取り戻す。


 そんな中でも、アカリの手には冷たく輝く桜刀、【黄金桜千貫】が握られていた。動かずにいると彼女の赤碧色の瞳を見つめてしまう。

 

 俺は胸が一瞬詰まった。


「ありがとう…」


 自然に零れた言葉に、アカリは艶やかな笑みを浮かべた。


「ダー様、笑った時のその八重歯が……可愛いですわね」


 その声はどこか柔らかく、且つ悪戯っぽい響き。


 カチッとした音が脳内に響く。

 その瞬間ーー胸の『江戸っ子鼓動』が飛び跳ねた。

 

「旦那、アカリさんに”ほの字”ですかい?」


「鼓動! 揶揄うな!」

 

 内心で命じる。

 ただちょっとだけ照れてしまったのは事実。

『妄想図鑑』に消え入るように収まる鼓動に、少し腹が立った。


 妄想と現実ーーアカリには『鼓動』の姿が見えてしまったようだ。


 そんな俺の腕をアカリは掴みチラリと見上げる。


「ダー様の神代魔法ーー《具現想霊》は、磨きがかかっていますわね」


 そう言って彼女は、満足げに口元を綻ばせていた。


 おい、”むにゅっ”は嬉しいが。

 今は、やめてほしいんですけども……。

 しかし、見えるってことはアカリも……?


 戸惑うがここは気を取り直して、アカリとミーアに指示を出す。


「行こう」


 次の行動に集中する中、ミーアが一歩先に部屋を出た。

 

 続こうとしたその瞬間ーー突如、視界いっぱいに飛び込んできたのは、ミーアの引き締まったモデル脚。

 

 彼女の足が空中で”バタバタ”と容赦なく動く。


「「ミーア!!」」


 叫ぶ俺とアカリの声が重なる。

 突然のことで俺たちは面を喰らった。


 一方のミーアは激しくもがきながら、怒りの声を絞り落とす。


「うぐぅーっ…離せっ!…このっデカブツッ!」


 焦燥と緊張が走る中。

 その正体を知る間もなく、アカリとともに咄嗟に部屋を飛び出した。


 砦の奥から吹く生ぬるい風。

 松明の炎が青白く揺れ、男の影を妖しく揺らめかせる。


 アカリは凝視しながら零す。


 「で、でかいですわね……」


 声は震え、彼女が後退る。


 その瞬間、視界に飛び込んできたのは圧倒的な巨躯。

 身長は10メージ(m)を軽々と超え、その存在はまるで聳え立つ黒い巨塔ーー周囲の大気すら震わせている。


 漆黒の髪を片手で掻きむしり、その深い紅い瞳で俺たちを見下ろす。

 その奥には不気味に煌めくーー鋭い金色の光も宿していた。


「ぐふふふ…」


 不気味な笑みを浮かべながら、その巨軀が口を開く。


「そこの可愛いお嬢さん、お前さんもこのエルフと同じように、愛でられたいのか?」


 巨軀はその筋骨隆々の身体を前屈みにしながら、威圧をかける。

 一方、抵抗を続けるミーアの髪が、その男の”厚い胸板”に触れた。


 「こちょばゆいなぁ」


 彼の大きなハルバード(先斧槍武器)が揺れ動く。

 まるで破壊を象徴するかのように。そして低い声が響く。


「そこの黒いの!お前はすぐにあの世へ送ってやる!」


 その言葉に巨躯を見上げ、圧倒されつつも、俺はまだ冷静さを保っていた。

 巨大なハルバードを持つその姿は、誰が見てもまさに破壊の具現と呼ぶにふさわしいだろう。


 周囲の空気までもが、男の存在で凍えるようだ。

 

 俺たちを睨みつける巨軀の眉が吊り上がる。


「この黙示のゴルバ様率いるーー『サブカラー傭兵団』に刃を向けるゴミ虫どもめ!! 冥界の底で頭でも擦り付けながら懺悔しろ……!」


 その怒声が砦の土壁に反響し、空気が震えた。

 凄まじい威圧感が押し寄せる中、頭に血が昇り身体中の血が滾る。

 だが、冷静に視線を定めたーー俺に迷いはなかった。


 ゴルバの左手首を狙い、無言で【桜刀・黄金桜一文字】を居抜く。


 "シュン”


 放たれた一閃。 刃が抜かれる音が静寂をも斬りつけた。


 ドッバァァァァァッ! 


 【桜刀・黄金桜一文字】が白く輝き、巨軀の左手首を肉ごと断ち切った。


 ゴルバの左手首が宙を舞うーーその瞬間。

 土埃を含んだ赤い雨が噴き出し、錆びた鉄の匂いとともに、俺の顔を濡らした。

 他方、切り取られた手首とともに「ゲホッ、ゲホッ……!」と、咽せるミーアも血沫を浴びながら"ドサッ”と床に落ちた。


 アカリがその手首を引き剥がし、ミーアを支えてすぐに詠唱を始める。


「【エクストラ・ヒール】!」


 淡い緑の温かな光がミーアの身体を優しく包み込む。

 次の瞬間、蒼白だった頬に徐々に血の気が戻り、朱みが差していった。


「ミーア!大丈夫っ?」


「ありがと……もう大丈夫。それよりあのデカブツを!」


 それを見届け、アカリはほっと胸を撫で下ろした。

 しかし、安堵に甘んじることなく、アカリは視線を鋭くゴルバへ向ける。

 瞼を閉じ深く息を吸い込む、そしてーー詠唱を始めた。


 一方で、烈火の如き怒りを顕にする巨軀は声を荒げた。


「いてぇだろうが〜何してくれんてんだぁッ?」

 

 そして、天空から闇が差し込むような低い声で紡ぐ。


「このっ、ゴミ虫があああああ!!!」 


 その怒声は砦全体に響き渡ったーー。

 











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