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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第0幕 〜妄想図鑑と神代魔法士〜

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11/66

姉妹とゴクトー 前編



 


 神々は天界から下界を覗く。



「ビヨンドに着いたか。やっと動き出したな……」


 黒銀の目を持つ友は、ため息をつく。


「年甲斐もなくワクワクしてきたな。ちょっと、あやつらの物語に口を挟みたくなった……」


「やめておけッ!」


「ここからは、天の声が紡ぐぞぃ!って、感じはどうだっ!?」


「ええッ! 声も若がえった? てか、おいシロっ!」


 まさに天界から飛び降りる勢い。

 神シロと黒銀の目の友は、じっと下界を眺めた。








◇(主人公ゴクトーが語り部をつとめます)◇




 

───ギィィ…



 新設されたばかりだけど、臭いな。


 ビヨンドの冒険者ギルド支部に入った途端に感じたこと。


 酒とタバコの匂いが俺の鼻を刺激する。

 ふと、目についたケンタウロス種族の男をじっと見る。

 普通、ケンタウロス種族は、並いる冒険者の中でもランク上位の者が多い。


 ひょろひょろだな、ってか、それで大丈夫なの?、と心配になりながらも周囲を見回す。


 初めて足を踏み入れる支部に、俺は少しだけ緊張していた。

 

 ま、ちょっとだけだがな、思ったりもしてなくはないが。

 ギルド支部の所々から、ドワーフ種の笑い声や、獣人種の話声が聞こえてくる。

「おお、お前さんは『B級』、ワーウルフ(獣人種)のベルカスだろ?うちのパーティーに来ないか?」

「そう言うあんたは、『A級』のビットか?エルダードワーフ(土人種)だよな?……いいぜ。こっちこそ、よろしくな」

 

 亜人種同士、パーティーを組む算段をしていた。


 独特の雰囲気。それに呑み込まれそうになる。

 まだ、師匠と一緒だった頃には感じなかった違和感。

 慣れないな、と思いながらため息をつく。


 師匠と離れてもう2年が経つ。

 時の流れは早い。でも、師匠の顔は今でも頭から離れない。


 「はっはははは」って、変な笑い声もな。

 

 あの時のーー銀翼を靡かせるフクロウが思い浮ぶ。


 とはいえ、今はそんなことを考えている暇はない。


 もしかしたらーー師匠がここに来るかもしれないのだ。


 あの人、好奇心旺盛でワクワク屋だからな、なんて苦笑したりも。


 思考を逡巡させる中、何かを踏む感触。


「足……踏まないでいただけるかしらん?」

「あ、すまない」


 隣の別嬪な女魔導士が眉を吊り上げて、真紅のローブを翻す。

                   

 っえ? 胸でかっ……!


 思ったさ。 じとっとその女魔導士に見返されて、目のやりどころに困ったがな。 その胸元から黒いレースがちらつき、まさに妖艶って感じの雰囲気。


 紫髪の女魔導士は俺を一瞥し、掲示板へ向かった。


 もちろん、肩をすくめながらため息をつくさ。 

 女の人には慣れてないんだ。

 今までシスターか、孤児院で一緒に育った友達の女の子としか話なんかしたことないんだぞ。 


 あ、いらん情報か。 

 それはさておき。

 

 一呼吸置いて、俺も受付に向かった。

 

 ギルド職員が数人でデカイ張り紙を用意していた。

 なんだか急に騒がしくなったな、と思ったのも束の間。


 案の定、一人のワーフルフが指を差して叫んだ。


 「あれを見ろよ! 掲示板にダンジョンの詳細が張り出されたぞ!」


 人だかりに俺も足が止まる。


 ったく、そこの赤髪、どかねぇかな、と思いながらも後ろから眺めた。


 「ん? 字が小さいな」


 目を凝らす。

 掲示物にはこう書かれていた。


『勇気ある冒険者たちに告ぐ!新たに発見されたダンジョンの探索を募る。

 挑め!そして探れ!報酬はたっぷり用意しているぞ! ーーアドリア公国辺境子爵 :領主イイダル・コス・ハルツーム』



 読み終えると、俺は心の中で叫んだ。

        

 ……ってか、領主ッ!貴族は魔力(マナ)の量が多いからって、

 ずいぶん偉そうなんだなッ!


 その瞬間、背伸びしてたら足が攣って、横のリザードマン(爬虫類種)の荒い鼻息が俺の頬にかかる。



 そいつをジロリ。


「お前、鼻水出てるぞ!」


 言ってやったさ。

 不機嫌そうな面で、そいつは俺の横からすっといなくなった。

 師匠といた時もそうだが、俺には独特の何かがあるらしい。

 大概キッと睨みつけると相手は逃げていく。まぁ昔からだが。


 掲示板を見つめる冒険者たちは皆、一喜一憂していた。


 その最中、ギルド内の空気が一変した。


 周囲の冒険者たちが揉め始める。



「お前!ぶつかっといて、挨拶なしか?」

「そっちこそ。他所見してんじゃねぇ!」


「お、面白そうだ。やれやれー!」 


 取っ組み合いの喧嘩が始まり、野次馬たちから歓声が上がる。

 まぁ、冒険者ギルドでは、良くあることなのだが。


 喧嘩を眺めながら俺もぼそり。


「フック、アッパー……ちぃ、そこで蹴りだよ……踵落としでもいいが。

 もう、お互い弱っちいな。見てられねぇよ……」


 ため息をつきつつ、受付の前に進む。


 目立つ目つきの悪い受付嬢から、じっと見られる。


 おお、制服が似合ってる美人だ、でも、その目は何?

 なんて思ったりもする。

 彼女が忙しそうに対応している間に、冒険者が列をなす。


 仕方ねぇ、と俺もその目つきが悪い受付嬢の列に並んだ。

 

 俺は話しが苦手だ。

 

 あがり症ってやつなのか、緊張しいなのか、自分でもよくわからん。


 昔から初対面で人と話すのが嫌いだ。

 いつもじっと見られちゃうし、特に女の人はすぐに頬が朱くなるからな。

 

 どうすればいいんだ……と、頭を悩ませつつ、声を絞り出す。


 「俺はソロでやっていきたいんだけど……ダンジョンに入るのは一人でも大丈夫なのか?」


 ゆっくりと、慎重に尋ねる。


 受付嬢は一瞥した後、淡々と答えた。


 「ソロでも入れますが、パーティー推奨ですね!」


 彼女がフッと鼻から息を抜く。まるで馬鹿にしているように見える。

 小さく咳払いをして、受付嬢は繰り返した。


「ソロでも入れます。 ですが、パーティー推奨ですね!!!」


 語尾が強めの受付嬢は『魔導端末』、さらに手元の名簿を取り出した。


 おいおい、2回言うか?、随分な対応だな。

 まぁ仕方ない、後ろにも屈強な冒険者が列を成してるしな。


 じっと見ないで欲しいと願うが、思わず受付嬢の紅色の唇に見惚れる。




  「……ソロで挑戦する人も、まぁ、いますけどね」


  少し待たされた後、つっけんどんに返された言葉。

  彼女は書類を見ながら続けた。

 

「やっぱりパーティーの方が、安全です。それと、冒険者カードの提示をお願いします。ランクも確認しますので……」


 そう言って彼女はまなじりを吊り上げ、迷惑だと言わんばかりに再び問いかける。


 「前衛?中衛?それとも後衛?どちらですか?」


 俺はその質問にムッとした。

 片眉を絞り、拳を握る。


 「脳筋だと思ってるのか?」


「だってそうでしょ? その身体付きを見ればわかるわ。あなた、頭はついてる?それ以外に、何があるの?」



 彼女のきつい口調に、胸の奥に苛立ちが募る。

 早口でパンチの効いたその言葉は、取り付く島もないないほど。

 さっきの喧嘩のパンチよりも早い。


 その言葉にため息をつき、受付嬢をチラリと見やる。


 胸に浮かんでいたのは、声にならない戸惑い。

        

 ストレートすぎだろ、ってかッ!

 酷いんですけども……。    


 受付嬢を睨んでそう思う。 

 眉をしかめずにはいられなかったよ。


 俺は糸のように目を細めたさ。


 それでも、師匠の教え───『ギルドの受付とは上手くやれ』を思い出し、必死でこらえていた。


 馬鹿にしたような彼女の視線が俺に向く。


 何なんだ、この視線は……師匠のおかげで、ランクが上がったのは確かだけど、一人受注って、そういえば初めてだな。 

 ここに来る途中、冒険者ギルドには何度か立ち寄ったが、全て張り出しの依頼ばかりだったもんな。


 張り出しの依頼は、『B級』以上。主に討伐をメインでやっていた。

 討伐の証明に、依頼書と魔物の耳か尾を持参すれば、報酬が簡単にもらえる。

 あまり話す必要がないからだ。

 ランクの高い無毒な魔物は、なるべく自分で解体していた。

 師匠から厳しく教わったからな。

 高ランクの魔物の素材は、ギルドで高く買い取ってもらえるし。



 そんな事情、この受付嬢は知らないよな。 

 仕方ねぇのか。だが、それでも───少しの気遣いぐらいあっても良さそうなものだ。


 肩をすくめ、諦めも交じりながら答える。


「ポジションは正直、わからない。師匠と二人で旅をしていたんだ。

 師匠はあまり手を出さない人で……ま、ほぼ一人で戦ってきたからな。

 連携はあまり、経験がないんだ。HAHAHA」


 頬を掻き、思わずコリン語で苦笑いしてしまう。

 コリン語は、俺が育った孤児院の聖地で使われる公語。

 育った孤児院はコリン教会が運営していた。

 コリン聖教皇国って国もあるぐらい、有名かつ大きな宗教団体だ。


 話が逸れたがーー受付の彼女は名簿に目を通しながら、指をなぞる。


 ……おいおい、該当するパーティーが見つからないのか?と、少し不安になるのだが、もう一つの思いがふっと浮かんでくる。


 また新たな冒険が始まる……か。

 ゴクトーは静かな決意を胸に抱くーー、

 なんてな、カッコつけすぎじゃねぇ?


 自分にツッコミを入れる。


 「妄想」と「名付け」が得意な俺。


 だが、ここから想像もしてなかった、新たな運命が動き出したんだ。



 



◆ (今から天の声、神シロが伝えるぞぃ)◆



 

 隣の受付にいるアカリは、【桜刀】に視線を向ける。


 (”師匠”……? それにあの【桜刀】……気になるわね。どこから来たのか調べてみる必要がありそうだわ)


 目を鋭く光らせながら彼女は思っていた。


 一方、その様子を見ていたジュリは声をかける。


「ねぇ……ネーのタイプじゃない?」


 姉に軽く肘を突きながら、からかうようにささやく。


 しかし、ゴクトーにはそんな会話は聞こえず、彼はただ書類を見つめるだけだった。

 アカリは興味津々にゴクトーに声をかける。


 「偶然だけど……私たちもパーティーを組みたいと思ってたところなの……」


 扇子を口元にあて、丁寧な仕草で一礼。

 その艶やかな声に、担当受付嬢とゴクトーの視線と耳が釘付けになる。


 その瞬間ーー受付嬢が目を丸く開いたまま、叫んだ。


「その髪色……噂の異国の冒険者……桃色姉妹じゃないいいいい!?」



 その声に場の空気が一変し、周囲の視線が集まる。

 

 だがしかし、受付嬢は気にせず続ける。


「桃色姉妹の大ファンなんです♡ 冒険者ギルドのSNSでも話題ですよ!いつも見てます!」


 ワクワクした表情で目尻を下げる。

 圧倒されたゴクトーは、口を開いたまま動けずにいた。

 その姉妹は「桃色姉妹」として名を馳せる、一流の冒険者。


 何もわからず、その雰囲気に呑まれるゴクトーだった。


 一方で、受付の横でジュリは隣の受付嬢と話していた。


「それで、どのようなスキルをお持ちで?」


「姉のアカリ・ミシロのスキルは【扇子舞刀術】、【治癒魔法】、【薬の生成】です」


 指先でカウンターをコツコツ、叩きながら説明する。


 「わたしは妹のジュリ・ミシロ。【転移魔法】、【治癒魔法】、それに【攻撃魔法】、特に火炎系が得意ですね。あと【気配探知】なんかのスキルも持っています。これから誰かとパーティーを組んで、ダンジョンに挑む予定です」


 一気に語り、さらに高らかに続ける。


「ネー、早く来て、手続きが終わらないよ。早く!」


 彼女の視線の先、アカリは優雅に歩きながら答える。


「なんなの、ジュリ? せっかちすぎるわよ。でも……」


 ため息をつき、彼女が眉を少し上げる。

 しかし、浮かべる笑みの中に、わずかに妹に対する優しさも垣間見える。


 どこか目のやり場に困るゴクトーの目と目が合う、ジュリの動きがピタリと止まる。彼女は眉を寄せ、睨み返す。


 次の瞬間、頬に朱を滲ませてゴクトーに言葉を投げる。


「ジロジロ見ないでよ!」


 しかし、心の奥ではーー(かっこいい……わたしのタイプ……)


 密かに惹かれている自分に気づく。

 一目惚れしたような、そんな視線を向けてしまう。

 

 一方、アカリは少し息を吸って、妹を軽く叱る。


 「そういう失礼な言い方はやめなさい……」


 恥じらいながらも、妹をなだめた。


 この時、アカリの目には、ゴクトーがはっきりと映し出されていた。


 姉妹の視線がゴクトーに集中し、静かな空気が流れる。

 ギルドの喧騒とは対照的に、そこだけ時が止まったように。


 やがて、恥じらいを隠しきれないジュリが、小声でつぶやく。


「まあ、横顔は素敵ね……」


「何か言った?」


 ゴクトーが問い返し、その後、二人の間に微妙な緊張感が漂う。


「痛っ!」

 

 八重歯を見せて笑おうとしたゴクトーが唇を噛む。


 姉妹たちはクスクスと笑い始めた。


 

 さて、話を元に戻す。


 気まずくなったゴクトーは……



 ◇(ここから主人公ゴクトーが語り部をつとめます)◇


 何気なくだったが俺は姉と目が合う。


 彼女の衣装はとても艶やかで、目を奪われるほどだ。


 桃色の髪を整え、黒い簪を差し直す姿に、「異国の舞姫みたいだな」と、秘めたる感嘆を漏らす。  もちろん極小だぞ。


 白く透き通る肌に、赤の瞳にも碧の瞳にも見える彼女の目が、光の加減で聡明かつ神秘的な印象を与えるんだ。


  俺が持つ刀と同じ鞘色、彼女の【桜刀】がカウンターにコツンと当たる。


 その瞬間、彼女が腰をひねり、スカートがふわりと舞い上がる。


 ショートスカートが太ももを大胆に見せ、黒の網タイツが美脚を引き立て目を奪う。無意識に、まるで、蜘蛛の巣みたいだな。 なんてちょっと思っちまった。

 桃色のブーツに身を包んだ魅力的な彼女の姿に、心が騒めく。


 そして、ふと心に浮かぶ言葉ーー



 セ ク シ ー


 ……この余白は、俺の複雑な感情の表れだ。

 思いながら顔に熱が籠った。


 一方で妹は、杖をトントンと床に叩き、髪を耳にかける。

 黒いレザースカートはまるで絶対領域のように、理性の狭き戦線を保つ。

 可憐さも秘めたジュリの姿に、俺は思わず息を呑む。


 ゴクリ

 

 喉を鳴らし、唾も呑み込む。



 今は、ダンジョンに挑戦する前なのだぞッ!

 理性を保て、俺ッ!


 その思いを巡らせながら、ふと思い出す。


 「桃色の髪……もしかして……?」


 過去の記憶を辿りながら小さくつぶやく。 


 師匠は”口蘇らせの魔法”でこう言った。


『ゴクトー、オレには桃髪の妹がいるんだ』


 その言葉を思い出し、口を開く。


「桃髪の姉妹……もしかして、ヤマトの人か?」


 その言葉に姉のアカリが視線を寄越す。

 彼女は少し考え、静かに答えた。


「あなた、その【桜刀】……どこで手に入れたの?」


 逆に問い詰められ、緊張が高まる中、言葉に詰まる。


「いや、その……この【桜刀】は……」


 どう答えていいかわからず、額から汗が滴る。


 一方で、その様子を見ていたハイテンションの受付嬢が「ハッ」と我に返った。


 俺を見た彼女が気まずそうに口を挟む。


「あのぅ……ゴクトーさんのランクなら……」


 その瞬間、姉妹の声が重なる。



「「えっ、ゴクトー!?」」



 一斉に目を見開き、驚いた表情だ。



 「呼び捨てかっ!」


 その見事なハモりに、思わずツッコミを入れた。


 姉のアカリは瞳を潤ませ、俺を見つめる。



「あなたって、ゴクトーさん……なの?」


 












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