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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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行こう!キヌギス砦へ!! 

 













「おお、ヒッポグリフを使役しておるのか……さすが『八支族』、やりおる」


 神シロは顎を撫でながら、じっとゴクトーたちを眺めていた。


 妻の女神東雲は悪戯っぽい目を向けた。


「あら、わたくしも使役していましたわ。下界にいた頃は……」


「いや、そなたの天馬(ペガサス)はもちろん知っておる。だが、そなたは妹に託したんではなかったか?」


 妻に問い返す神シロのその表情は暗い。

 一方、女神東雲も暗い過去を引きずるように声を漏らす。


「ええ、妹の東風(こち)に……あの子は太古の対戦で、ガーランドの呪詛を受け、女児しか産めぬ身体に……つい不憫に思ってしまって」


 その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「そうじゃったな……。忘れぬものか、あの太古の合戦を……」


 神シロは東雲の肩をそっと引き寄せ、優しく抱きしめた。


 他方、黒銀の目の友こと、トランザニヤは顔を朱くして咳払いする。


「ん、おほん」

「そういうのは帰ってからやってくれっ!」


「ああ、すまん。 今、帰るわけにはいかんからな」


 即答した神シロは、照れたようにさっと妻から離れる。

 女神東雲は手は伸ばしたまま「あなたァ」と、名残りを惜しんだ。


 そんな中突然、薄黒い影が七色に輝く天上の城を包みこむ。

 およそ数百年は吹いてないであろうーー背中が凍えるような風が吹く。

 

 トランザニヤの顔が次第に曇っていく。


「ゴクトーの奴、思わぬ敵と遭遇するかもしれない……」


 彼は真剣な眼差しで下界を見下ろす。

 神シロと女神東雲もただならぬ空気を察し、二人は下界の動きを注視した。



 その頃、ゴクトーは『ロカベルの魔法薬材と薬店』の裏で衝撃を受けていた。 





 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇





 一頭のヒッポグリフが小さく「グルッグギェー」と鳴いたーー。


 その声は胸に響き渡り、思わずアカリが目を丸くして後ずさる。

 俺の腕を強く引き寄せる彼女には、かすかな動揺が感じられた。


 彼女の『麝香(ムスク)』の香りがさらに強まる。

 その瞬間、鼻の『香りん』にコツンと叩かれた。


 あ、これは俺の妄想ね。

 

 思いながら誤魔化すように感嘆する。


「これが、ベルマなんだな……」


 ミーアは赤い翼のヒッポグリフに近づき、優しく頭を撫でる。


「よしよし、ベルマ、いい子にしてた?」


 ベルマは目を細めるようにミーアの手に応えた。

 その仕草は荒々しい外見からは想像もつかないほど、優美で繊細。

 見た目とは違って、”おとなしい”ようだ。


 俺は恐る恐る尋ねる。


「ミーア……この魔獣、グリフィンじゃないのか?」


 その言葉にミーアは振り返り、顎に指を添え丁寧に説明を始めた。


「これはヒッポグリフ。グリフィンと同じ系統だけど呼び方が違うの。ハイエルフの古い伝承で、ヒッポグリフは移動手段の『従魔』として使役されてきたの」


 そう言いながら、黄色の翼を持つヒッポグリフの頭も撫でる。

 二頭のヒッポグリフは、挨拶でもするかのように嘴で彼女の手をツンツンと突く。

 ミーアは二頭の嘴を押さえながら優しい声で続ける。


「黄色の翼のこの子は『シグマ』。ミンシア姉様が育てた子よ」


 その言葉は月明かりの中、暗い空き地に溶け込むように消えていった。

 ここは『ロカベルの魔法薬材と薬店』の裏の空き地。

 風もどこか冷たくなったように感じる。


 丁度その時、ガチャッと勝手口のドアが開いた。


 姉のミンシアが驚くべき姿で、"ボヨン” “ボヨン”と胸を揺らし、軽やかな足取りで近づいてくる。


 思わず目を見張った。


 スタイル抜群な彼女はグレーの上下のウェア。それはスポーティーかつアグレッシブだった。バストとヒップの白い蛍光ラインが際立つ。その上には黒い文字で『Caravan・Climbキャラバン・クライブ』と記されていた。


 彼女の姿は月明かりに照らされ、その汗が艶やかに光り輝く。

 エルフ種独特のミントのような香りが、冷たい風を爽やかに感じさせる。

 まるで”森の妖精ジム”で運動を終えたかのようなーーそんな姿だった。


挿絵(By みてみん)

(*ミンシアのスポーツウェアのイラスト)


 間髪入れずーー俺の妄想眼”死線”が吸い寄せられてしまった。

 圧倒的なその破壊力に思わず口から零れる。


「死線をこうも容易く軽々と……さすが魔性のエルフ」


 それほどまでに、ミンシアの姿は印象的かつミステリアスだった。

 

 耳まで赤くしている俺を見て、アカリがどこか不機嫌そうな表情を浮かべる。

 二人の身体に纏う【覇気】は凄まじく、火を渦巻くような空気が、バチバチとした緊張感を漂わせる。


 ミンシアの姿が仮に龍とするならばーー咆哮をあげる猛虎との一騎打ち。

 そんな魔物対猛獣の戦いを見ているようだった。


 ……まぁ、俺の妄想だ。そんな気がしただけなんだが。


 アカリの対抗意識という猛火は、"琥珀の目”と化したその瞳をメラメラと燃やし続ける。


 ……ファンタジー小説じゃないんだぞッ!

 ん? これって前世の?


 ツッコミがらもふと頭をよぎった記憶。

 ますます頭はこんがらがるばかり。

 

 そんな俺を他所に、不機嫌さを隠そうともせず、アカリが顔を覗き込む。


「ダー様……?」


 彼女の瞳に一瞬心奪われ、意識は違う方向へと傾きそうになる。

 その様子をジュリとアリーもじっと眺めていた。


 危ない、妄想スイッチが入るところだったーー。

 なんで毎回こうなる? やれやれだよ全く……。


 心境は複雑。


 爽やかだった空気も急にどんよりと湿りだす。

 いつもながらの混沌タイムが始まった。


 仲間たちの視線には軽蔑が込められ、この状況に耐えられず、いたたまれない。 

 そんな俺に、ジュリがここぞとばかりな一言を寄越す。


「はぁ……男って本当にバカよね。…っていうか、ベルマを見に来たのよ!忘れてないわよね!」


 そう言って彼女は呆れたように肩をすくめた。

 

 肌に刺す冷たい風が俺の熱くなった耳たぶを撫でる。

 

 それはまるで風の精霊が揶揄うかのようーー。

 ……ってか、詩人かッ!俺ッ!


 再び自身にツッコム。無論口にも出さない。

 何とも言えない焦燥感に包まれる俺、居心地は最悪だった。


 

 一方で、ミーアが姉の所に歩み寄る。


「ただいま、ミンシア姉様。……その格好、最新のセットだからって、見せびらかすのやめてよね。……はぁ」


 ため息まじりのその言葉に「うふふふ」と、軽く笑うだけのミンシア。


 呆れたような表情でミーアが紡いだ。

 

「それより、リーダーがキヌギス砦を見たいって言うから、これから案内するの。みんな連れて行くし……シグマ、あの子を貸してもらえる?」


「っえ?……誰がシグマに乗るの?」


 シグマを貸す話題にはーー慎重な顔を見せるミンシア。

 

 自分の”今の姿”など、まるで気にしない様子。

 

 今ここに若い男が現れたら、どうなる? 

 いきなり襲われてもおかしくないようなーー姿格好なんだぞッ!

 いや、逆に誘ってるのか?

 やはりハイエルフが『肉食』ってのは、本当なのか?


 思いながらも目を逸らせず、ゴクリ…と喉を鳴らしてしまった。

 

 他方に目を向ければ、アカリは眉を吊り上げ、ジュリは頬を膨らませる。

 一方で、ベルマに目が釘付けのアリーが、無邪気な笑みを浮かべ興味津々。


 それはさておき、話を戻そう。


 ミーアがミンシアを説得し始めた。


「うちはリーダーと乗る。うちの命令なら、あの子たちは誰でも乗せてくれるし……だからシグマも安心して貸して!」


 ミーアは笑顔で説得するが、その言葉に即応ーー今度はジュリの瞳が炎を宿す。


 言い方に、いちいち反応しないでくれーー!


 胸中叫ぶ。だが俺の表情が変わったのを察して、ミンシアが再び笑みを浮かべる。そして艶やかな唇を噛んだ。


「貸すのはいいけど……夜明け前には戻ってきなさいよ。ベルマもシグマも、もし誰かに見つかったら、”おおごと”になるからね」


 そう言いながら、ミンシアは意味深に紡ぎ続ける。


「それとミーア……その坊やを早く口説いちゃいなさいっ!

 まだ若いからーー【覇気】の自覚がないから、わからないのも無理はないけど」

 

 ミンシアのその言葉はミーアの表情を曇らせる。

 ミーアが口を開きかけたーーその瞬間。

 再びミンシアが言の葉を落とす。


 「彼にしかない古の波動……その【覇気】は貴重で希少なのよ。

 もし、あなたが無理ならーーこのワタシが」


「姉様、それ余計……」


 ミーアは顔を真っ赤にしながら反論した。

 ミンシアはその言葉にケラケラと笑い出す。


 おいおい、なんだそれ?

 俺の【覇気】が貴重で希少? 何言ってんだ?

 師匠はそんなこと何も言ってなかったぞッ!

 なんでこんな状況に……。

 

 思考が頭を巡りただ、呆然と立っているのが精一杯。

 そんな中、ふと仲間たちに目を向けた。


 アカリは怒りの表情を浮かべ、唇をギュッと噛んでいた。

 横のジュリも片眉をあげ、拳をぎゅっと握りしめる。

 二人は交互に俺とミンシアを、ジリジリとした目で詰める。

 

 他方アリーだけは、おっかなびっくりしながらベルマの翼を撫でている。

 

 「グルグルッ」

 

 ベルマの鳴き声が小さく囁かれる中、「早く準備して、行ってらっしゃいな」

と。

 そう言ってミンシアは、俺に向かってウィンクを投げた。


 今、この状況で?

 火に油を注ぐようなもんでしょうがッ!

 

 思いながらミーアに視線を移す。

 彼女もまた呆れ顔のまま口を開く。

 

「姉様っ! それが余計なんだってば! ちょっと待ってて、着替えてくるね」


 そう言い残し、朱くなった顔を隠すように背を向け、ミンシアと一緒に『ロカベルの魔法薬材と薬店』へ。


 店の中へ消えていく二人を見送った。

 

 その様子を眺めていた俺に、ジュリが拗ねたような声を漏らす。


「へんダー、何考えてんの?」


 その言葉に適当にお茶を濁す。


「いや、ちょっと……ヒッポグリフのことを考えてただけだよ」


 ジュリはその言葉にムスッと表情を歪める。

 一方のアカリも不満そうに頬を膨らませていた。


 場には嫌な緊張感が漂いつつも、思わず視線をアリーに向ける。


 相変わらずアリーは、そっちのけで今度はシグマの羽に顔を埋める。

 モフモフの感触が気持ち良いのか、シグマは目を細めていた。


 空き地には穏やかな空気が漂い始める。

 

 さすが獣人種と言うべきか。

 早くもヒッポグリフはアリーに慣ついていた。


 その穏やかな光景を見ているうちに、ようやく赤くなった顔も少しずつ元に戻り始めた。 


 流れに身を任せ、俺もそろっとベルマとシグマに近づいた。

 アカリとジュリも恐る恐る近づく。その歩みは赤ちゃんレベルで思わず口元が緩んだ。


 ーーやがて。


 ミーアが戻ってきて一言。


「お待たせ」


 その姿に俺の血圧は一気に上昇。

 収まったはずの熱が顔に戻り、大噴火寸前になる。


 月に照らされたミーアは、緑色の髪を靡かせ、艶やかな光沢を放つ『緑のレザーコスチューム』を纏っていた。

 首元には『黒のレザーチョーカー』が、揺れながら閃く。

 多分セットの一部だろう。


 挿絵(By みてみん)

(*ミーアの装備イラスト)


 その全身から漂う雰囲気は、まさに『魔性の狩人』。

 妖艶でありながらも、どこか危険な美しさを漂わせていた。


 ミーアは『アイテムボックス』から二つの馬銜(はみ)と鞍を取り出す。


 目を奪われていると、俺の顔を見て心配そうに声をかける。


「リーダー!! 顔が真っ赤だよ……具合悪いの? 大丈夫?

 今、準備するからね。  ベルマ! シグマ!」


 彼女は俺の動揺を他所に、目の前にいる二頭のヒッポグリフーー翼を持つ従魔の顎を優しく撫でる。

 まるで幼い子供をあやすような、その仕草に思わず目が引き寄せられた。


 次の瞬間、ミーアは手早く鞍を二頭の背に固定し、馬銜を慎重にはめていく。

 実に慣れた手つきだった。


 一方で、アリーはベルマとシグマに何やら小声で話しかけている。


 獣人は魔獣とも話せるのか?


 そんな疑問が押し寄せる中、ミーアがこちらに振り向いた。


「準備できたわ。アカリさんとジュリさんはベルマに乗って。

 アリーちゃんは、どっちに乗るの?」


 ミーアが柔らかな笑顔で尋ねた。


 一方のアリーは、元気よく手を挙げて「ミーアと乗るにゃ!」と跳ねた。

 ニコッとした表情でミーアが紡ぐ。


「先にアカリさんと、ジュリさんを乗せるわね」


 ミーアは二人をベルマの背へなんとか乗せ、優しく指示を出す。


「アカリさん、馬銜をしっかり持ってくださいね。ジュリちゃんは、しっかり掴まってね」


 二人はその言葉に緊張したのか、それまでの険しい表情を引っ込め、大人しく頷いた。


「リーダーはうちに掴まって。アリーちゃんはリーダーに掴まってね」

「了解にゃ!」


 ミーアが先に軽やかに跨り、その後を追って俺もなんとか背に跨る。


 続いてアリーが「にゃ!」と、華麗にジャンプし、俺の背後へと着地。


「リーダー、しっかり掴まってね」


 そう言って、ミーアは俺の手をーー【デス級】とも呼べるような柔らかな感触へと誘導する。


 なんでッ?そこはちがーう。


 口には出さないが、顔から火が出そうになる。


 そんな俺をベルマに乗ったアカリとジュリが鬼のような目で睨んでいた。


 自分の意思じゃ、ないんだってば……。


 思いながら、口を開く。


「ミ、ミーア……この手、腰じゃダメなのか……?」


 動揺して思わず声が震えた。


「腰はくすぐったいからダメなの。リーダー、大丈夫よ。うちは慣れてるから……」


 ミーアは少し頬を朱らめながら、さらりと衝撃的なセリフを吐く。

 顔が大噴火したところで、アリーが空気を変えるような一言を寄越す。


「ゴクにぃ、僕が掴むにゃ。くすぐったくないかにゃ?」


「大丈夫だ……ありがとうな、アリー」


 ようやく沈静化した俺の気持ちを他所に、ミーアは満足そうに微笑んでいた。

 そしてミーアは手綱を握りしめる。


「行くわよ! シグマ! ベルマもついてきてね!」


 彼女が声をかけると、二頭のヒッポグリフが「グルッグギェー!」と小さく鳴き、翼を大きく広げた。

 

 空気が巻き上がり、羽ばたきの音が大地を震わせる。


 この時はまだ夜空の散歩だと。

 ただキヌギス砦の場所を確認するだけだーーと、俺は普通に思っていた。


 凍えるような風が肌を撫で、背筋には嫌な悪寒を感じる。

 

「行こう!キヌギス砦へ!!」


 ミーアの声が響くと同時に、二頭は一気に紺碧へと舞い上がった。

 そして大地がゆっくりと遠ざかっていったーー。









 お読みいただきありがとうございます。


 

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