Ⅱ話
そのあとは、もうなんというか、狐につままれたような展開だった。
まず、フランソワの様子を見に庭園に向かうと、彼女は私を見るなり、私の名前を呼びながら走ってきた。
なんだなんだ、と身構えていると、とびきりの笑顔で抱きついてきた。
なんで、フランソワが私の名前を知っているんだ?私はこの世界に存在していたのか?など、様々な疑問が頭の中を駆け巡った。
けれど、美しい金髪をなびかせエメラルドの瞳で見つめられてしまった私はなんだかどうでもよくなってしまった。こんなに可愛い子に好かれているんだからなんだっていいだろう!
フランソワからはほのかにアルコールのような匂いがした。やっぱりザル設定なんだ、と実感する。
そのあと、フランソワに手を引かれ、どこかに連れていかれた。
どうやら宮廷のようだ。
フランソワは宮廷で重宝されている。
お酒の強さはおろか、知識や病気についてまでの幅広い知見があるからだ。
宮廷に着くなり、あろうことか、フランソワは私を国王に会わせた。
訳が分からない。流石に絞首刑を覚悟した。
しかし、小説の中で読んだ国王は、私の名前を親しげに呼んでお茶などでもてなしてくれた。
どうやら、ここの世界で私は既にフランソワや国王と親密な関係を築いている設定のようだ。
どう考えてもおかしい。おかしいのだ。
あまりに都合がよすぎる。
しかし、こんなことを考えている暇もなく、フランソワは私をたくさんの人に会わせた。
悪役令嬢のサリー、フランソワの兄のフィエ、大魔法使いのコズエバン。
どの人も私に好意的で、なんというかとてつもなく不気味な感じがした。
乙女ゲーとはまた違う、気味の悪いご都合主義。
でも、好意を無下にする訳にもいかないし、何より仲良くしようとしてくれているのに、わざわざ敵意を出す必要も無い。
気持ちの悪い優しさにあやかっているうちに、私はだんだん、違和感を忘れていった。
吹っ切れた後の、ここでの生活は、それはもう心地の良いものだった。
立派な部屋で寝食をして、昼間はフランソワやその仲間たちと楽しく過ごす。
小説では、ひっきりなしにトラブルが起こっていたけれど、私が転生してきたここではそんなことは起きなかった。
確か、輸入品や物価なんかの問題だった気もするが、私は記憶力がよくないので詳細までは覚えていなかった。
まあ、この世界では起きていないんだから、原作の知識を使って解決する!みたいな場面も訪れないわけだし、私にとっては都合が良かった。
楽しい日々が続く。それはまさに、パラパラ漫画のようだった。いや、どちらかと言えばフラッシュ暗算のような。
とにかく、数年単位で酔生夢死のごとく、時間は過ぎていった。
そして、先日私はフランソワの兄にプロポーズをされた。
転生者(?)の私に家族はいなかったけれど、フランソワや仲間達は盛大に祝ってくれた。
真っ白なウエディングドレスに身を包んで、婚儀を執り行い、永遠の愛を誓った。
それから1年も経たないうちに子供を授かり、病院で出産した。
子供は無事に産まれ、夫も涙を流して喜んでいた。
幸せの絶頂を駆け抜けていた。