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提案

「私は君たちの復讐を援助したいと思っている」


 ユリウス陛下はこともなげにそう言って、少し笑った。


「……っ」

「まぁ結論を急ぐ必要はない。取り敢えずは話そうじゃないか」


 なぜ俺たちの目的を知っているのか。ウォーカーから聞いたのか、それともリカから聞いたのか。

 ウォーカーはどこまでユリウス陛下に話しているのか。魔王決戦が建前だということを知っているのか。シズクかどんな立場なのか知っているのか。

 そしてなにより、どうして俺たちに協力しようと言ってるのか。これもウォーカーの策略のうちか。それとも本心でウォーカーと敵対するつもりなのか。


 分からないことが多すぎて、突然の彼の言葉に対して誰も何も言えなかった。


「ひとつ聞きたいんだが、エレナ・ブラッディにはもう接触したか?」

「うん、接触どころか何度か戦ってるよ。それが?」


 俺たちに接するのと同じ言葉使いでシズクはユリウス陛下に対して普通に答えた。幼女みたいな見た目で王の威厳のかけらも無いようなリカはともかく、明らかに王族の雰囲気を漂わせる彼にそんな態度を見せるシズクに流石に俺は肝を冷やす。不敬で斬首されてもおかしくない。


 チラッと、陛下の顔色を伺おうとし、だが、その前に早歩きで詰め寄ってくるマサトが目に入った。


 「おまっ……この方を誰だとっ……!」


 シズクに殴り掛かろうとマサトだったが、ユリウス陛下がそれを手で制する。


「良いんだ、マサト。私は彼らと対等に手を組みたいと考えている、心無い敬語などその障害にしかならないさ」

「はっ……」


 その一声でマサトはユリウス陛下に深々と頭を下げ、またシズクに頭を下げた。


 ──気持ちのいい性格の人だな。


 論理的に考えれば、確かに先の陛下の言葉通りなのだが実際問題そんな風に言える人間はほとんど居ないだろう。少なくとも共和国の議員連中には存在しない。徹底した実力主義を採用している帝国の王として彼は相応しいように思えた。


「で、エレナがどうしたの?」

「戦ったならば分かるだろう? 奴は教王の加護の力を受けている」

「……そうだね。確かに聖なる力を行使していた」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」


 ユリウス陛下が言ったことをあっさりと肯定するシズクに、俺は戸惑いを隠せずにそう言ってしまう。


「共和国のエレナが教王の加護を受けている?? まさか、そんなはずっ……」


 有り得ない、というのが率直な感想。それほどに二国間の関係は悪いものだ、宗教上の理由によって。


 共和国と教国は実は同じ神を信仰している……のだが、しかし、神話の解釈や、タブーの差異、なにより神の意思の解釈の違いによって互いに互いを神敵として定義しているのだ。


 教国の考えでは、人間は女神が自身の悪の部分を消すために産んだ存在であり、この世界で正しく生きることで最後には女神の一部として回帰することが人間の使命であるとされている。悪とは欲望のことで、だから教国では無欲で質素な生活が重んじられているし、悪い人間は神罰が下ると言われている。

 一方、共和国の考えでは、人間は女神が自身に存在しない不完全を学習するために産んだ存在であり、論理にかける感情や欲望に駆られてしまう弱さといった人間らしさを、ありのままに生きて女神に鑑賞してもらうことが人間の使命であると考えられている。自分を偽って飾る必要は無く、不完全な人間を愛で包み込むのが女神ということだ。


 この正反対とも言える女神の意思の解釈の違いによって、教国と共和国は対立してきた。


 歴史上の事実として、これは決して魔王の話のようにハリボテのものではなく現実の被害として、両国の宗教戦争は苛烈を極め、虐殺、横領、拷問、強姦、ありとあらゆる惨いことが行われてきた。戦争犯罪を防止する旨の世界法律が制定されるきっかけとなったぐらいだ。


 ちなみに、基本的にこの世界の神と言えば女神ただ一つ表している。もちろん小国の中には国王を現人神として崇めている国や、文明を全て捨てるべきだと唱える自然崇拝の国、現世を地獄として看守である魔物を殺すことを禁じる魔物信仰をする国などもあるが、何らかの宗教を崇拝する人間の8割が女神様を崇めているらしい。


「教国が共和国と手を組み始めているのは事実だ。ウォーカーからの指示もあるんだろうが、それ以外にも頻繁に教王と首相が連絡を取っていることを確認している」

「わしの方でもそれは観測しておる、二国はそろそろ同盟を正式に発表するはずじゃ」

「そこで帝国としては対抗勢力を立ち上げる必要があったのだ。魔道国と我が国は宗教という面において同じ立場にある、それ故に手を組むのに最適だった。それに魔道国はウォーカーの手に落ちていない」


 教国と共和国が同盟を組む。信じられない話ではあるが、もしそうなってしまえば、無宗教である帝国は、何度も宗教戦争を仕掛けられている帝国は、さらなる苦境に陥るだろう。最悪、国が滅ぶ。だからこそこの魔道国との同盟、納得がいく話ではあった。


「さらに私は決断した。今ある盤をひっくり返す、つまりウォーカーを倒すと」


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