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滑り出し

 第5層、真っ白な世界が俺の視界いっぱいに広がる。降りた途端に寒さでガタガタと身体が震える。吐いた息は真っ白で、呼吸もままならないほどだ。確かにここは『雪火の山岳』の名に相応しい雪山だった。階層全体が雪が深く積もる険しい山で、歩くだけでもかなりの体力を消耗する。


「そうだ……<炎柱(フレイムタワー)>」


 俺は寒さを凌ぐために、リカが別れる直前に使っていた魔法を使ってみることにした。俺の発声とともに驚くほど簡単に、手のひらの上に小さな炎の柱が出現する。俺の袖や肩に一瞬で積もった雪がじわじわ、と溶け、ようやくまともに呼吸が出来るようになる。


── これは強力……だな。


 魔法とは本来、仕組みを学び脳で決まった魔法陣を構築することで使うもののはずなのに、『魔道の極み』はその過程をすっ飛ばして使えるようだ。というか、見ただけなのに魔法の名前も何故か分かったな。


 俺がそんな『魔道の極み』の効果に慄いていると、ボスっ── という、雪が踏み潰されるような音が後ろから聞こえた。

 振り返れば、大きな象がこちらを見下ろしていた。ただの象では無い、体のあちこちから火を噴く象。そいつが、こっちをじっと見ていた。


「っ!? <鑑定(アプレーザル)>!」


 馬鹿なっ、いつの間に気配もなく! と、慌て驚く俺の心と対照的に俺の体は冷静にスキルを発動させる。表示された名はイグニッションエレファント、単純な物理攻撃と火炎を使った攻撃によって多くの冒険者を屠ってきた下位Aランクの魔物。5層でも強い方の魔物だ。弱点は火の噴出孔らしいが……


「どう攻めろと?」


 荒ぶり狂いながら、こちらに猛スピードで突進してくる巨体に俺はそうボヤく。


「<瞬歩><空中歩行>!」


 積もった雪という足場の悪い環境で戦うのは得策では無い、避けるついでに俺は空中に移動する。イグニッションエレファントの視界は狭い、奴からすれば突然俺が消えたように映るだろう。


「<飛蔦連扇(アイヴィテンタクル)>!」


 扇状に広がった蔦が逃れる場所なく対象を拘束する木魔法、帝国のトーマスがエレナに使っていた魔法だ。その攻撃がイグニッションエレファントに上空から襲うのと同時に俺の発声で奴に俺の場所は把握される。


「パォォ゛ン!!」

「なっ!?」


 奴は背中から特大の炎を噴出し、瞬く間に俺の魔法を焼き消したかと思えば、火の勢いはそのまま俺に襲い来る。それを俺は空中で身をよじって間一髪で避けようとするが、左腕が炎に巻き込まれてしまう。


「っ()ぇ!! ……くっ、<治癒(ヒール)>!」


 ジュワッという音と共に左腕に強い痛みが走る。肉が焼き潰され、皮膚がズルズルに溶けている腕に、俺は涙ぐみながらもどうにか<治癒(ヒール)>を発動させる。

 

── くそっ、思い上がっていた。


 そう、思い上がっていた。ここでは簡単に命が失われるというのに。

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