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深水家の Three Men  作者: 宗田 花
深水家の Three Men
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22.恋の行方

 昌は自分の恋が順調なのだと思っていた。

「昌くん」「彩ちゃん」呼びをしているのだ、そう思って当然だろうと。だが学校に来るようになってそれが疑問になって来る。

「吉住さん!」

 そう頻繁に名前が出てくるのが分かるのは、隣のクラスだからだ。昌の席は廊下側だから、窓を開ければ特によく分かる。女子はもちろんのこと、男子からも相当な回数、呼ばれている。

 ちらっと親友となった中西に聞いてみた。

「隣のクラスの吉住さんって人気あるね」

「そりゃ! ダンス部だし頭いいし優しいし! 俺だって憧れてるよ!」

「え……」

「なんだ、お前もか? ま、その他大勢の列に並ぶんだな、みんな並んでんだから」

「ひょっとして体操部でも人気ある?」

「キャプテンなんか入れ込んでるぞ。お前の入る隙なんて無いって!」

「だって俺、学校に来るの一緒だし」

「ああ、それ事件になってたぞ。でもたまたま家が近くだからだろ? この前吉住さんがそう言ってたの聞いたよ。なんだ、それで特別だと思っちゃったわけ? 吉住さん自身は何とも思ってないって公言したんだから無理なんじゃないの?」


 ショックだった。こんな風に人を好きになったことが無い。そうなのだろうか、彩にその気は無かったのだろうか。

 朝はほぼ一緒に学校まで来ている。だが、帰りは部活やらなにやらで時間が合うことは少ない。委員会も一緒だが、それが恋の成就と言えるわけもなく。

(スケートだって……)

あんなに体操部に入ったことを喜んでくれたのに。こうなれば、何もかもが疑心暗鬼となって来る。第一、当の本人が『ただのご近所の人』と明言したと言うのだ。

(俺、チャンスなかったってこと? 片思いだった?)


 次の日は朝早くに家を出た。こんな気持ちで彩の顔を見るなんてできない。辛すぎる、それほどに好きになっていた。

 結局その週は家を早く出て、彩には会わなかった。学校で会うこともあるが、なにか言いたそうな彩からつい顔を逸らしてしまう。

「昌、元気ないけどどうした?」

 汐に聞かれて「別に」と答えた。父にも聞かれる。

「なにかあったのか? なんでも相談に乗るよ」

 それにも「なにもない」と答えた。失恋だなどと言いたくない。学校生活は色褪せてしまい、体操部に行くのも、スケートに行くのも気が乗らない。

「帰り、早いじゃないか」

「部活……どうしようかと思って」

「あんなに打ち込んでたのに?」

「……」

「スケートは? 昨日も休んだだろ」

「もう放っといてよ!」


 汐と大樹はこっそりと話した。

「あれ、反抗期かな」

「また反抗期になったってこと? 心臓が治るまでもずっと反抗期だったのに?」

 大樹はおろおろしてしまっていえる。

「とにかく様子を見ておこう。今あれこれ聞いてもこじれそうだし」

 大樹は心配で堪らないが、汐のアドバイスに従うことにした。



 翌朝、早い時間にチャイムが鳴った。ちょうど出る支度をしていた昌が玄関に出た。

「彩ちゃん……」

「おはよう……」

 人の来た気配で汐も玄関に出てきたが、訳ありそうな二人の様子に奥に引っ込んだ。

「どうしたの?」

「もう出る?」

「……出るけど」

「一緒に行ってもいい?」

「……いいよ。待ってて」

 昌はバッグを取りにリビングに戻った。汐が顔を向ける。

「なんかあった?」

「大丈夫。行ってくるね」

「ならいいけど。行ってらっしゃい」


 外に出るといつも通り、人はまばらだ。無言の彩に、昌は思い切って聞いた。

「なにか用だった?」

「私……なにかしたかな」

「なにかって」

「朝も会えないし学校でも……部活も休んでるしスケートも来ないし……私のせい?」

 昌はなんと返事していいか分からない。彩はいつになく積極的だった。

「もう、私に会いたくない? スケート、私がやめたらいい? ごめんね、会いたくないほど嫌われてるなんて思ってもいなかったから。でもお願い、理由だけ教えて」

「嫌いだなんて! ……俺、聞いたんだ。彩ちゃんが……俺のこと、なんとも思ってないって。ただのご近所づきあいだ、って」

「そんなことない! ……そんなこと、ないよ」

 昌は立ち止った。彩はなにを言いたいのだろう。

「ご近所づきあいじゃないなら何? 友だちってこと?」

「違う! ……昌くんはどう思ってるの? 私のこと」

「俺は……好きだった、彩ちゃんが。バカみたいだけど、彩ちゃんもそうかなって勝手に思い込んじゃって、だから一緒にいるんだって思ってたんだ。ごめん、俺の方こそ迷惑かけて」

「迷惑じゃないよ、……私、一緒にいて嬉しかったよ。『好きだった』って、もう終わりってこと?」

 昌の胸は高鳴っていた。これは新しい始まりかもしれない。

「確認していい? 俺、彩ちゃんが好きだ。彩ちゃんは? 俺のこと、好きなんだって思ってもいいの?」

 彩はこっくりと頷いた。

「ならなんでご近所づきあいって」

「恥ずかしかったんだもん! まだ昌くんに何も言ってもらえてないし……私の思い込みだったら、って」

「思い込みじゃないよ! 彩ちゃん、俺たち付き合っていいってことだね?」

「うん。いいのかな」

「いいよ! ね、これみんなにバレても構わないってこと? 恥ずかしいって言うんなら内緒にしたいってこと?」

「バレたって構わない。昌くんこそいいの?」

「いいに決まってるよ! わ、俺両思いだ!」

 今さらながら、彩は赤くなっていた。

「大声はやめて。じゃ、部活もスケートも休まない?」

「もちろんだよ! ずっと一緒にいたい!」

 こうしてちょっとした心の行き違いでダメになるところだった二人の可愛い恋は、実を結んだのだった。

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