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深水家の Three Men  作者: 宗田 花
深水家の Three Men
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3.いよいよ手続きへ

 大樹はパソコンを前に唸っていた、心の中で。

 昌にどう言おうか、それはこの際横に置いた。それを考えると時間がいくらあっても足りない。それよりまず必要な手続きを調べなくてはならない。

 こういう点、大樹には真っ当な感覚がある。『言いづらい』という気持ちはあっても『言わない』という選択はあり得ない。そこは自分の責任であると思う。どう言えばいいかは分からないが。汐にきっぱりと『自分でやれ』と言われ、少し目が覚めたところもある。


 さて、必要な手続きは何か。「引っ越しのノウハウ」というサイトを調べた。『本籍地変更』『住所変更』『戸籍変更』『高校の転校』、そして、それらに伴う各種変更手続き。

「こんなにあるのか!」

 それにまず驚く。まず、光熱費を止めること。そうだ、止めて来ていないのだ。自分でやらなくちゃならないなど初めて知った。今までは用意されたところに入居しただけだった。

 そして、銀行、クレジットカード、駐車場を探して車庫証明を取り免許証を修正する。郵便の転送もあった。

(どれ一つやってない……)

けれど面倒だとは思わなかった。


 昌については、認知の手続きがある。

(うわ、時間かかりそうだ)

一度読んでも分かりにくい。小さく声に出してみた。

「家庭裁判所に子どもの氏の変更許可をの申立てをする……『審判書謄本』が送られてきたら役所で入籍届を出す……認知の受理が終わったらその事実が記載され……記載?」

 そこで思考が止まった。自分の戸籍謄本を見たことはある。当然のように両親の欄があったが、そこに『認知』という文字が載るのか。それを見るたびに昌はどんな気持ちになるだろう……

 事実を伝えるだけでもショックは大きいはず。なのにその事実を戸籍謄本を見るたびにずっと突きつけられる……

「どうしよう……」

 それだけじゃない。昌は自分になにかしらの思いを抱いている。思春期の少年には重すぎる現実……


 一階に行くと汐は起きていた。

「ありがとう、これ、返すよ」

「どう? 結構大変でしょ」

 なぜ汐が詳しいかと言いうと、大学寮に入る友人の手助けであれこれ調べたからだ。その時に父もいろんなことを教えてくれた。

 大樹は小さく笑った。その笑いは情けなさそうな後悔が見えた。汐は優しく聞いた。

「リスト、プリントアウトしましょうか?」

「教えてくれれば自分でするよ。……俺はあまりにも物を知らなすぎるね。34だっていうのに……」

「誰にでも初めてのことってあるから」

 汐に言われるままにプリンターに接続する。出てきたリストを見て、汐が座った。

「一緒に考えましょうか?」

 大樹が打ちひしがれるのも分かるような気がする。優先順位の無いリスト。調べたものを片っ端から抽出したような。

「いいのかい?」

「今ちょっと調子がいいから。インターネットで出来る手続きからやりましょうか」

「インターネットで?」

「光熱費とかクレカとか。銀行も多分それで済むはずだから」

 大樹の目が見開く。

(汐くんは仏さまだ!)

 二階に行って財布を持ってきた。クレカは二枚だ。光熱費が日割り計算されることも初めて知った。

「こういうもんなんだね、引っ越しって。荷物の移動だけを考えてたよ」

「この先も必要になると思うから覚えててください」

「……出て行く時、だね?」

 汐は追い出すつもりで言ったわけじゃなかった。けれど今の言い方は冷たかったかもしれない。

「なにがあるか分からないから。大樹さんたちがここを出たいって思うかもしれないでしょ?」

「そんなこと! 頑張るからここに置いていてくれないか?」

(んんー、大樹さんって)

頭にぷあっと出てきたのがいつか見た画像。

(だめだ、あれに似てる!)

そう、まるでつぶらな瞳で指示待ちしているミーアキャットだ。

(笑っちゃダメ!)

汐は必死に堪えた。大樹は真剣に言ってるんだから。

 

「汐くん、本気で言ってるんだ、だから」

「一緒に暮らそうって言いだしたのは俺ですよ。だからそんなことないです」

「ありがとう! 良かった、もう今から出て行くこと考えろなんて」

 思わず『そんなに冷たい人間じゃない!』と言いそうになった。

「そう言う意味じゃないって分かりました?」

「分かった。それで、インターネットで手続きできるものからすればいいんだね?」

「ええ。一つ一緒にやってみましょう」

 汐は説明しながら電気供給の停止手続きをする。

「簡単だね!」

「でしょ? じゃ、その要領で他のもやってみて」

 汐のチェックを受けながらいくつもの停止手続きをした。


「住所は役所の住所変更の手続きが終わってからですね」

「それで……」

 大樹が指差したのは、昌の手続きの方だ。

「これ、裁判所が入るんだ。それで手続きすると戸籍に認知手続きした事実が残ってしまうからどうしようかと……」

「ちょっと待って。読んでみるから」

 汐は大樹の抜き出した事実を読んでみた。そして、自分なりにあちこちの関連サイトを覗いていく。

「すごいね、汐くんは」

「そんなことないです。大樹さんもこうやって一つだけじゃなくていろんなとこ覗いた方がいいですよ。ここ、分かりくいサイトだったでしょ。図解とかで説明しているところもあるし。ああ、これこれ。こういう風にね」

 確かにそのサイトは見やすくて分かりやすい。

「ここ! 本籍地変更する前に認知の手続きすれば記載が消えるって! じゃ、先に認知の手続きやっちゃいましょう! 役所には明日か明後日行って住所変更!」

「待って!」

 大樹が悲鳴を上げた。

「なに?」

「昌にこのこと……説明しなくちゃならない」

「ああ……そっか、その問題が残ってた…… 大樹さんは言う気がないの?」

「言わなくちゃならないと思ってる」

「その場に俺にいてほしいの?」

「……どっちがいいんだろう」

「俺は親子で話した方がいいと思うけど。俺がいると変な逃げ道作っちゃいそうだし」

「逃げ道?」

「二人で俺に相槌求めるんじゃないかなって。余計な人間、いない方がいいと思う」

「汐くんは厳しいね」

「血の繋がりがあるのは二人でしょう? 俺じゃない」

 ぴしゃん! と言った。混同しちゃいけないことだと思っている。

「どんな風に言えばいいか」

「それも自分で考えないと。昌に対して責任を持つって、そういうことだと思います」

 しばらく大樹は考えたが、汐の言う通りだと思う。

「いつ」

「早い方がいいです。手続きもだけど、今は引っ越したりして昌にとってもいろんな変化があるでしょ? その中で一番大事なことだと思う。今言わないと逆にいつ言うのかって話だし」

「明日……」

 汐が睨むからそこで言葉が途絶えた。

「…………今夜」

「そうしてください」


 取り合えず大樹は自分の部屋に戻った。部屋の真ん中に正座して、どよぉんと暗い顔になる。

 ノックがあって、飛び上がった。

「は、はい」

「俺!」

 勢いよくドアが開く。

「あのさ、汐の夕飯なんにしようかって思うんだけど」

 ほぉっと一息ついた。

「さっきはだいぶ具合い良さそうだったよ」

「だめ! 風邪って治りかけが肝心だって俺、よく言われたよ。朝卵雑炊だったから大樹、なにか考えてよ。買い物付き合って」

「はいはい。……うどんとか?」

「あ、それいい! 支度しよ、買い物!」

 昌に急かされて、大樹はスーツに着替えた。 

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