表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第二話:彼方の空から花を摘む

ちょっとグロいかも(?)です


 「大丈夫です。」


囁いた声は優しく、そして力強かった。


ぐらりと揺れていた私の中心が、その声によって少しだけ定まる。


「っ!?」


かと思うと、夕菜の姿が不意に掻き消えた。


「安全な空間へ移送しました。まもなく回復するでしょう。命は保証します」


何をしたのかはわからなかったが、何かをしたのは明白だった。


命は保証します───その言葉を聞いた瞬間、身体から力が抜ける。


「…っあ」


我ながら情けない声を出しながら倒れると、その誰かは腕を差し伸べ受け止めてくれた。


だからようやく“その誰か”を見ることが出来た。


端整な顔立ちの、私より少し年上の男の人で。


すごく、綺麗な瞳をしていた。


しばらく私は、その瞳の中で燃える夕陽から、目を逸らせなかった。


だが、不意に体がふわりと浮く。


「───…えっ?!」


「まずは“あれ”を倒します。しっかり掴まっていて下さい。」


その人はこともなげにそう言った。


えーしかしですね?この体勢で何を掴めと?ってかこの体勢どーなってんのよ!


そう、私はその人に片手でお姫様だっこというか、つまり抱き抱え?(漢字にすると面白いな)られていた。


だから、近い。


「あっ、あの重いから大丈夫ですっ!」

私があわててその手から逃れようとすると、その人は余計にしっかり…。


「重くないですよ。それに…」


そう少し微笑して、うってかわって温度のない表情に変わった。


「貴女に害する者が、いますから。」


そしてその玲瓏として冷えきった瞳は、さっきの“何か”へと移る。


私もつられて、視線を注いだ。


そして、言葉を失う。


「───っ!!」


そこにいたのは、間違いなく、そして紛れもなく、人ならざるものだった。


シルエットこそ人だが、体は植物の蔦のようなもので覆われ、顔はおろか肌色は欠片も見られない。


いや、体の表面は僅かに見えている。だが、それは肌色と呼べるものではない。


肌を、血管を、神経を突き破り、植物が顔を覗かせている。


手首であった場所から血管が垂れていた。


植物の作用だろうか、“それ”の膝がかくんっと傾げ、突き出た骨はぼろぼろと崩れながら植物を支えていた。


異常。


それ以外に表せる言葉を、私は持たない。


「…なっ…なに…!!」


余りのおぞましさに体が震える。


身の毛もよだつ、という体験を初めてする。


「あ…あぁ…っ!」


絶叫しそうになった時、私を支える誰かが、ぐっと私の顔を引き寄せた。


「見なくていいんですよ───…今は、まだ。」


「…え…」


飛び込んできた瞳、私は世界を一度取り戻す。


だが急に、強い風が私を通り抜けた。


「…っ!!?」


否、大気ではなく風でなく───“私が動いている”。


そしてその人は、声を上げる。

「火炎よ、深淵で謳い、天を穿て───メルトラ!」


瞬間、世界が色を無くし、白が辺りを支配した。


次の刹那、その人が手を向けた先で、爆音が響く。


「───っ!?」


私は訳もわからず、たった今起こったことを脳内で再生してみた。


えーつまりですね?この人が呪文らしきものを言ったら爆発とか起きて、それがまた半端なくて、っていつの間にか私宙に浮いてるんですけど!!!


誰かこの状況を例の古畑さんみたく、鮮やかに説明して(泣)


「…効いたか…?」


いやいや、こんなの効かなかったらお手上げっすわ、と心中で突っ込んでいると、またもや風が私を突き抜けた。


そして眼前に、黒い奇妙なシルエット。“それ”が私に飛び掛かってくる───


「っアウェルト!」


ドンッッ───…きつく瞑った目を開くと、遥か下の地面に“それ”が叩きつけられていた。


まさかその人が蹴り落としたのだろうか、何かを蹴った体勢をしている。


「…」


下を見て、視力が余り良くないことに感謝する。


ふとその人を見やると、少し辛そうな顔をしていた。


だが私の視線に気付いたのか、ふわっと微笑を浮かべて優しげな声で言った。


「何も心配することはありません───貴女は私が、守ります」


「───!」


そう言ったと同時に、急降下する。


頭が痛くなるかと思ったが、何の変化もないことに驚いた。


「…火炎よ、大気よ、乾きを求めるなら否定せよ、在らざる万緑を絶え果たせ───」


空気にノイズが走る。


地面はすぐそこで、笑顔で私達を待っていた。


「───イルヴィジア!」


その叫びはその人の手を透り抜け、いつしか小さな光となり、真っ直ぐに“それ”へと向かう。


光は私達が地面に向かうよりもっと速く、“それ”に急降下していった。


「───っ」


来るべき爆発に備え、私は目を瞑り、その人にしがみつく。


次の瞬間、───爆発は起きなかった。


「…ぁ」


だが、確かに何かが根本的に壊れる音がした。


「な…に…──!!!」


目を開けると、地面とキスする直前から急旋回で、ふわりと優雅に着地する私。


言葉の出ない動きに、やっぱり私は言葉が出ない。


一息つくと、その人は私に向き直った。


「…挨拶が遅れましたね、私はルノエル・メイフェイアといいます。」


「は…はい…」


やっと一息つけ、改めて私はその人───ルノエルさんを見た。


夕陽で髪の色は紅いが、おそらく金色、瞳は澄んだサックスブルーで、落ち着いた光が宿っている。


私より高い背は180くらい?すらりと無駄のない体つきだった。


随分かっこいいいい人だな…と、思わず見惚れてしまう。


───ピシッ


不意に、背後で───“それ”がいる場所で、何かが割れる音がした。


「なっ!?」

まだ生きてるの!?


私は恐怖でぴくりとも動けない。


背中が騒つく。


夕陽の赤が、夕菜を脳裏に甦らせる。


「…」


だが、ルノエルさんは私の背後に向かって歩きだした。


その瞳に映る感情を、なんというのだろう?


ルノエルさんは私を通り抜けて、音源へとたどり着いた。


私はまだ動けない。


張り詰めた緊張が心臓をわしづかむ。


だがそれを破ったのは、ルノエルさんの声だった。


「…冴香さん」


名を、呼ばれる。


どうして私の名前を知っているの、とかそんな疑問は浮かばなかった。


只、彼の言わんとしていることが、わかってしまった。


私は意を決し、後ろを振り向く。


そして、瞳が見開かれる。


「…な、どうして…?!」


そう、そこに倒れていたのは、まだ私よりも幼い少年だったのだ。


黒い不気味な何かではなく、どこにでもいるような、10歳位の・人間。


既にその幼い瞳に、光はない。


だけど異様なのは、ちょうど心臓の場所にある、小さな白い花だった。


まるでそれは少年を苗床にしているようで、傷付いた体の血を吸い、その白さは美しさを増していく。


「───嫌…!!」


視線が逸らせない。嫌なのに。私には関係のない事象なのに。


だが誰かが耳もとで囁くのだ。


これは、私のせいなんだ、と。


「───ぁあ…!」


再び絶叫が身を焦がしそうになる時、視線が途切れ、頬に手があてがわれる。


「貴女のせいではありませんよ」


何が起きたのかさっぱりわからないけれど。


それはとても温かくて、優しくて、切なかった。


そして少年が、唐突に消え去る。


「!?」


電子画面から消去されたように。


只残ったのは“花”だけで、その花も瞬く間に茶色く変色し、砕け散った。


「───…」


いいようのない絶望感。


あの少年は、一体なんだったのだろう…?


「あの…ルノエルさん…」


私が呼び掛けると、ルノエルさんはこちらを振り向いた。


立ち上がり、私の方へ向かって来る。


そして、静かに私に手を伸ばし、口を開いた。


「貴女を、お迎えにあがりました」


それは、ある夕陽が綺麗な日の出会い。


必然で、運命で、誰かの脚本通りの出会い。


だけど、私を変えた、出会い。


「…え…?」


直に日が沈む。


風が私を透り過ぎた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ