第1話:紅が壊すのは日常と飛ばない鳥
ここで、よくある質問です。
『もし明日世界が滅ぶなら、貴方は何をする──?』
───そうね、取っておいたとっておきの紅茶で、ミルクティーでも飲もうかしら。
「───ぇかちゃん?聞いてる?」
と、そこで、私の思考は途切れる。
「…え?あーはいはい聞いてますってば」
「それはゼッタイ聞いてないかんじだね!」
「わかったから、ごめんって。聞く聞く」
私、彼方 冴香は只今帰宅中でございます。
そして目の前の我が友人、水鳥 夕菜(ミズト"リ ユウナ)はなにゆえ憤っているのでしょうか?
「だからね、叶手君、美星ちゃんに謝らなかったんだよ!」
「あー、例の更衣室で着替え中ばったり☆のあれ?」
「そうだよ。お互い好きだから意地張っちゃうのかもしんないけど、やっぱりきちんと謝んなきゃダメだなって思う…」
「赤峯いわく、『うわっ!ごっ!(めん!)』だったんでしょ?実質3文字。」
「わざとじゃないし、誰が悪いなんてない。だけど、あたしが美星ちゃんだったら、一言欲しいよ」
「気まずくて話してないんだっけ?さっさと付き合っちゃえばよかったのに」
「もー冴香ちゃんは!」
夕菜は栗色のセミロングの髪を、ふわふわと風になびかせながら苦笑した。
華奢な身体に大きなくりくりした瞳、可憐な顔立ちとくれば、おのずとモテる。
だけど。
「でもまぁ随分と、美星もといあの二人を応援してんのね」
「そんなことないよ?…あ!もしかして、冴香ちゃん嫉妬してる!?」
クスクスと可愛らしく笑いながら、上目遣いにこっちを見てくる。
「何に対しての嫉妬だよ」
「あたしが冴香ちゃんより美星ちゃんを気にしてること!」
「…はぁ?」
この上なく無邪気な表情でそう話す夕菜。おーい、着いてけないぞー。
「大丈夫!あたしのイチバンは冴香ちゃんだから☆」
そうキラッとかまして、柔らかく腕を組んでくる。
「そりゃどーも」
生返事もいいとこの生返事を返した。
こいつは百合っ気があるのかないのか、何処までが本気なのかさっぱりだけど、今のようなコントじみたものは、日常茶飯事だ。
まぁつまり天然?
って夕菜いっつも学年5位以内じゃなかったっけ…
「じゃーあねー♪」
そんな友人は元気に手を振りながら、曲がり角を曲がって視界を去っていった。
はー全く、天然というか、何というか…私にその気はないわよー
ってなんの話やねん
そう、下らない思考をしていた時、───。
悲鳴が、上がる。
ちょうど、あの娘が消えた場所で。
「っ!?」
急いで声の元へ向かう。
「夕菜ッ!どうした…の───」
その日は夕陽が綺麗で、紅い空はいつものように優しかった。
風はもう秋の匂いがして、だけど温かくって。
何気ない、日常のひとこまな筈だった。
なら、これはなんなの。
「…ゆ…うな…?」
むせ返る血の匂い。
赤い視界。
こっちへ向かってくる、奇怪な誰か。
そして───、倒れている知った誰か。
「嫌…い…やぁ…」
なんなのこれは。
膝がガクガクして立っていられない。
伸ばす手は余りに頼りない。
言葉が出ない。
自分の身体が何一つ言うことを聞かない。
そして、私を支えていた脆弱な糸が、途切れるその瞬間。
「───大丈夫です。」
誰かが、耳元で囁いた。