第3話
絢音さんは『一生お世話します』という言葉の通り、何かと俺の面倒を見てくれようとするが、正直……ありがた迷惑だというのが本音だ。
いや、めちゃくちゃ美人だし、優しいし、そんな女性に世話してもらえる俺が幸せ者だという自覚はもちろんある。
あるんだが、絢音さんはいささかドジすぎた。
料理は作ったそばからひっくり返すわ、うっかりお茶を俺の体の上にこぼして悲鳴を上げさせられたことも数知れず、その他例を挙げればキリがない。
一番ひどい時にはチャーハンが血まみれになっていてギョッとしたものだ。具材を切る時に指を切ってしまったらしく薬指に絆創膏を巻いていた。
これ以上ドジを繰り返されてしまっては、絢音さんの方が危ないのではないか?
そう思った俺はやんわりと断ったりしたものだが、その度に泣かれてしまい、罪悪感を抱くことになる。
「わ、私……鈴木さんのお役に立ちたかっただけなのに……ぐすんっ」
美人の涙は破壊力がすごい。
仕方なく俺は絢音さんに構われ続けることになってしまったのだった。
だが、そんなある日のこと。
「すみません鈴木さん。今日は私、どうしても出かける用事があって家を開けなくてはいけなくて……。ひとときでも鈴木さんの傍にいられないと思うと不安でたまらないのですが」
「あはは、大丈夫ですよ。俺のことは心配しないでください」
なんでも絢音さんはアパート火災により実家に帰って来たため仕事を辞めていたが、再就職するつもりだそうだ。
もしも絢音さんが働き始めてくれれば、彼女がいない間久々に一人になれるはずだ。
そうなれば多少自由が持てる。ここ最近はずっと絢音さんがつきっきりで心が休まる時間がなかったからな……。
寂しそうな顔をしながら歩き去って行く絢音さんを見ながら俺は内心ホッとしていた。
だが、この時はまだ知らなかったのだ。絢音さんがどれほど俺のことを心配、いいや溺愛しているのかということを――。
「なんでアタシがアンタの世話しなきゃないわけ〜? こんなの理不尽でしょーが」
「いや……。俺だってこの状況は不本意なんだよ。それに元はと言えば俺に怪我させたの君だから。わかってる?」
数時間後、俺はなぜか雫さんと言い争いをしていた。
なぜなら絢音さんが雫さんに俺の面倒を見ておくように』と書き置きを残して出かけて行ったからだ。高校から帰って来た途端に俺のような男を世話しなければならない羽目になった雫さんとしては、確かにたまったものではないだろう。
だが、せめて俺を殴ったことに罪悪感を覚えるべきだとは思う。
……それにしても、どうして絢音さんはわざわざ雫さんに俺の世話を任せようとしたのだろう?
さすがに絢音さんほどおっちょこちょいではないと思うが、そもそも俺のことを「おっさん臭い」と嫌がっているようだし、ギャルだし、明らかに俺の世話係には向いていないのではないだろうか……?
「はぁもうマジ最低〜。こんなことだったらゲーセンでも行って時間潰してた方がよっぽどマシなんですけどー」
「嫌ならしなくてもいいんだぞ」
「そんなのできるわけないでしょ。ねーちゃんが怒ったらどんなに怖いか知らないからアンタは呑気なこと言えるんだよねぇ〜。ほんとこれだからおっさんは。……ま、しょーがないからやってあげるけどさぁ」
散々文句を言いつつも、一応は俺の面倒を見てくれる気はあるようだ。
俺としては不安しかないが、何せ動けないのでされるがままになるしかなかった。




