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CAR LOVE LETTER 「Brothers」

作者: YAS
掲載日:2009/08/17

車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。

貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?

そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。

<Theme:TOYOTA Mark2 Qualis(MCV21W)>


今朝もあいつがいる。

早く降りないと、もうすぐ父さんが出て来るぞ!

俺は自転車にまたがってあいつに注意するが、あくびなんてして、全く聞きゃしない。


すぐに父さんが出て来る。

「あーっ!またコイツは!」

父さんが怒鳴ると、軽い身のこなしでひらりと隣の庭にあいつは逃げて行った。


あいつとは、真っ黒のちょっと小太りな猫。

いつの頃からか、うちの近所にふらりと現れて、最近では父さんの車の上で日向ぼっこするのが日課らしい。


いつも父さんのクオリスの上にいるもんだから、俺と母さんはあいつのことをクオリスと呼び、たまにハムや牛乳をあげていた。

そうしたら、しっかりと居付いてしまった。


猫のクオリスは出来たやつで、うちの敷地でそそうはしない。父さんのクオリスに上る時も爪を立てたりしない。

音も無くひらりと飛び乗り、いつの間にか黒い父さんのクオリスと同化しているのだ。


せっかく洗車しても足跡が残ってしまうのが難点だったが、父さんも「動物のすることだからなぁ」、となかば諦めているようだった。


父さんが会社に行っている間は、父さんのクオリスの駐車場は猫のクオリスが占拠している。


日がな一日ゴロゴロしてて、ふらりと出掛けたと思ったら、スズメを捕まえて来たりする。

食事を終えると、庭のバケツの水を飲み、そして毛づくろいして、また日光に身を委ねる。

夕方父さんが帰って来る頃に、またふらりと出掛けて行って、気付くと父さんのクオリスのボンネットで丸まっているのだ。


そんな繰り返しの毎日。猫はのんびりしてていいよなぁと、俺は机の上の数1の参考書と父さんのクオリスの上の猫のクオリスをぼんやり眺めた。


ある日、夜半から朝に掛けて台風が来るとニュースで言っていた。


雨戸を閉めたり植木鉢を玄関に入れたりバタバタしている時に、また猫のクオリスがふらりと現れた。

俺は父さんの許しをもらい、猫のクオリスを台風が過ぎるまで玄関で一泊させる事にした。


俺は猫のクオリスに猫撫で声で近寄る。

いつもなら喉を鳴らして俺の手にぐりぐりすりよって来るのだが、今日のあいつは全く違った。


緑の綺麗な目の瞳孔を丸く開き、鼻筋眉間に皺を寄せて牙をむいた。

そして俺の目を睨みつけ、低く唸るのだ。


どうしたんだよクオリス。俺は一歩歩み寄った。するとクオリスはシャーっと俺に威嚇の声を出し、俺の手をひっかいたのだ。


猫のクオリスはそのまま一目散に俺の前から逃げて行った。

そんな。いつもあんなに仲良くしてたのに。裏切られた絶望感と、嵐の迫る焦燥感に、俺はただ猫のクオリスの名を呼び続けるだけであった。


その日を境に、猫のクオリスは俺達の前に姿を現す事はなくなった。

俺が悪かったのだろうか。後悔の念が俺の頭の中を支配する。


「きっとどこかの家の車の上で丸まっているわよ。」母さんが少し寂しそうな表情で俺を慰める。


「これで足跡に悩まされる心配が減ったな。」という父さんの言葉に俺はむっとする。

それを感じとったのか、父さんはまた、「意外に明日辺りには父さんのクオリスの上に居るかも知れないな。」と言った。


季節が変わり、少し肌寒くなってきた頃、俺が倉庫から自転車を出していると、後ろの方で聞き覚えのある声がした。


クオリス!俺は振り返った。

そこには緑の綺麗な目をした黒いスリムな猫がいた。


クオリス、か?

俺がそう呼ぶと、黒いスリムな猫は嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らして俺にすりよって来た。


あんなに丸々太って居たのに、こんなに痩せてしまって。

と思ったら、猫のクオリスの後ろから、小さな黒い仔猫が二匹と白い仔猫が一匹、不安そうな面持ちで小さくもしっかりとした鳴き声をあげて駆け寄ってきた。


お前、お母さんになったのか!太っていたと思ったのは、実はこいつらが入っていたのか!


出産間際の母猫は、非常に気性が荒くなると聞いた事がある。

俺が悪かったのではなかったのか?そう聞くと、猫のクオリスは俺のズボンにぐりぐりと顔をすりつけた。


かくして猫のクオリスとその子供達は、うちの家族の一員となった。


子供達に名前を付けねばなるまいと、父さんは頭をひねった。

母さんがクオリスなのだから、尻尾の長い黒猫はグランデ、尻尾の短い黒猫はアバンテ、白いコイツはルーセントとしよう。

車の三兄弟にあやかって彼らの名前はすぐに決まった。


正式に家族となった彼らは、それぞれ自分のお気に入りの場所を見つけた。


グランデは棚の上、アバンテはテレビの裏、ルーセントは俺のベッド。

そしてクオリスはやはり父さんのクオリスの上。


今日も猫のクオリスは、日がな一日ゴロゴロとしている。父さんのクオリスの上で。


俺はまた、猫はのんびりしてていいよなぁと、物理の教科書片手に猫のクオリスをぼんやりと眺めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] とても、ゆったりとした気持ちにさせる作品だと思います。猫と家族の様子が、温かい視線の中で語られていて、癒されますね。 人間には犬派と、猫派がいるようですが、私は昔、猫にひっかかれた記憶がある…
[一言] 可愛いなぁ、猫達…。 グランデ、アバンテ、ルーセント、クオリスですか。 なんてかっこいい名前の猫達なんだ(笑) 猫って言うもんは暖かい場所を知るとまたか!って言ってしまいたくなるほどそこに度…
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