8話 勇者VSチキン南蛮
この話は勇者視点です。
「いててて……何だったんだあのクソ赤トカゲ……」
王都近くの森まで飛ばされた俺は、王都の冒険者ギルドへと向かった。
扉を開けるとすぐ、いつもの二人が俺に気付いて近寄って来た。
同じパーティメンバーの魔術師のキャシィと、戦士のオデロだ。
「アレス兄貴―! もう薬草取りクエストは嫌ッスよー!」
「オデロも……腰が痛い……」
キャシィは口うるさいし茶髪の三つ編みが野暮ったいが、可愛い所もあるし頭もキレるし、妹みたいなもんだ。
オデロはちょっと馬鹿だが、ガタイがいいし素直だし弟みたいなもんだ。
そんな家族同然の二人が苦しんでいるのを見るのは、目下の奴に優しい俺にとっては辛くてしょうがなかった。だが……
「我慢してくれ……ユーリを引き戻せれば、魔王なんか簡単に倒せる! そうすりゃ俺達は億万長者だ! もう少しの辛抱だ!」
「でも……本当にユーリさんを引き戻せるんスか? アレス兄貴の方から追放したんじゃないスかー!」
「オデロ知ってる……キャシィもユーリのこと馬鹿にしてた」
「オデロさんは黙っててくださいッス!」
「分かった……オデロ黙る」
「とにかく、ユーリさんを引き戻すなら何か作戦を考えといた方がいいッスよ! アレス兄貴何回返り討ちにされたんスか?」
「ぐっ……!」
俺は思わず言葉に詰まってしまった……もう5回以上は雑魚ユーリにあの手この手で追い返されている気がする。
「もう私もオデロも限界なんスよ……兄貴の交通費稼ぎながら食い繋ぐの……」
「オデロも……お腹すいた……」
「そりゃ俺だって悪いとは思ってるよ。……でもこの前マヨネーズやったじゃねえか。それで勘弁してくれ」
「滅茶苦茶おいしかったッスけどお腹は膨れないッスよー!」
「オデロ、マヨネーズまた食べたい」
「喰わせてやるから我慢してくれ! もう少しの辛抱だ!」
「兄貴……ユーリの家にマヨネーズある? オデロ、ユーリの家行きたい」
ユーリの家に行きたいだと……!?
「その手があった! 俺達三人でユーリの家に行けばいいんだよ!」
「なるほど……三人で行けば、ユーリさんが説得に応じなくても無理やり連れ戻す事が出来るって訳ッスね!」
「そういう訳よ! どうよこの作戦!」
「完璧な作戦ッス! 流石兄貴!」
キャシィもオデロも目を輝かせてやる気になったらしい。
「ねえ兄貴! ユーリが戻ってきたらオデロ、マヨネーズ食べていい?」
「ああ、いくらでも食べていいぜ!」
「やった! オデロ頑張る!」
「よっしゃ! 決まりだ! 今度こそユーリの馬鹿を連れ戻すぞ!」
「「オオー!」」
俺達はなけなしの金を使って馬車に乗り込み、東の森にあるユーリの家へと向かった。
――待ってろよユーリ! 絶対に今日という今日は俺のパーティに引き戻してやる!
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「おいユーリ! 戻って来てくれ!」
「今更もう遅い」
「黙れ! 遅いもクソもねえんだよ! 行くぞ二人とも!」
「おうッス!」
「オデロ、頑張る」
作戦通りキャシィとオデロが前に出て、ユーリを取り囲んだ。
「キャシィにオデロか……久しぶりだな」
「ユーリさん! あんた弱い癖に調子乗り過ぎなんスよ! アレス兄貴が引き戻してやるって言ってるんスから、早く戻って来るッス!」
「もう遅いから無理」
「ぐううう! 強情ッスねえ!」
「ユーリ、戻って来て……オデロ、マヨネーズ食べたい」
「今更だから無理」
「そんなあ……オデロ悲しい」
やはり雑魚の癖に調子に乗っているユーリには、何を言っても無駄らしい。……こうなったら。
「お前ら! 最後の手段だ! ユーリの馬鹿を殺さない程度に痛めつけて、無理やりにでも連れて行くぞ!」
「はいッス!」
「オデロ、分かった!」
しかし、どういう訳かユーリが何か呟くと、ユーリの姿は急に消えやがった。
「野郎……どこに行きやがった!?」
俺が辺りを伺っていると、ユーリがデカい皿を抱えて正面から突然姿を現しやがった。
「うわっ! どこいってやがったユーリ!」
「丁度良かったよ。今日はコカトリスの肉でチキン南蛮ってのを作ってみたんだけど、作り過ぎてしまってね。食べる?」
「食べるッス!」
「オデロも! オデロも食べる!」
「あっ! お前らふざけんじゃねえ!」
俺の制止も聞かず、キャシィとオデロはチキン南蛮とかいう白いソースが乗った変な肉をバクバク食べだしやがった。
「なにこれえええええええ! うまいッスよ! 何なんスかこの味! この上に乗ってる奴がトロットロでマヨネーズ以上にうまいッス!」
「ああ、これタルタルソースっていうんだ」
「オデロ……こんなうまいの初めて食べた……」
「まだあるからどんどん食べてくれ」
「やったー! ありがとうッス! ユーリさん! 良く見たらイケメンッスね! 黒髪が素敵ッスよ!」
「そりゃどうも」
チクショー!! ユーリの野郎キャシィをたぶらかしやがって!
「ありがとユーリ。オデロとても感謝してる!」
「どういたしまして」
クソ……オデロまで……!
「アレスはいらないの?」
「グッ……! いらねえよ! 腹いっぱいだしな!」
俺の言葉と裏腹に、腹の虫が勝手に鳴き出しやがった。
チクショー!
「ほんとにいらないの?」
「……やっぱりくれ!」
俺はチキン南蛮とかいうのをフォークで取って、口へと運んだ。
「うんめええええええええええええええ! 何だこりゃ!! うまいにも程があるだろおおおおおおおおお!」
「そうかい、そりゃあ良かった」
ユーリに手玉に取られているようで少し悔しいが、この際我慢してやろう。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「あーもうお腹いっぱいッス……」
「オデロも……久々にお腹いっぱい食べた……」
俺も満腹だった。チキン南蛮は最高に旨かった。
だが、それとこれとは話が別だ。
「お前ら! 腹ごしらえも済んだしユーリをボコって捕まえるぞ!」
「でも悪いッスよー! こんな美味しい物ごちそうして貰ったんスよ! 無理やり連れて帰るなんて出来ないッスよー!」
「オデロも……ユーリは優しい」
「チクショー! なら俺一人でもやってやる!」
「止めてくださいッスよ! 最低ッスよー!」
「オデロも……酷いと思う」
クソ……! 言われたらちょっと悪い気もして来た。
「仕方ねえ! 今日の所は引いてやる! だが次は無いからな! 絶対にお前を俺のパーティに引き戻してやる!」
「もう遅いけど頑張ってねー」
「ありがとうッスユーリさん! また来るッスからねー!」
「オデロも……またチキン南蛮食べたい!」
「ああ、これあげるよ」
俺達はユーリからタルタルソースの瓶を貰って、王都へと戻って行った。
……なんかまた上手い事ユーリにしてやられてしまったが、今度こそは絶対にユーリの雑魚を引き戻して俺のパーティの荷物持ちにしてやる!
そして、魔王を倒して億万長者になってやる!




