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7話 勇者VSインフィニティドラゴン

 俺は木陰のハンモックで揺れながら、青空をゆっくりと流れて行く雲を見上げていた。


 芝生の庭ではゼーラとリタが、楽しそうに追いかけっこをしている。

 ……スローライフって感じがしていい感じだ。


 心地よいまどろみのままに俺が瞼を閉じようとした時、見上げた視界の隅に妙な影が映った。


 ――あれは……ドラゴン?


 やがて、羽音と共にドラゴンの影は段々と大きくなって来た。


「……久しいなユーリ」


 庭に降り立った大きな赤ドラゴンは、インフィニティドラゴンのインドラさんだった。

 インドラさんは南の火山で聖獣として崇められているSSSSランクモンスターだ。

 1年前に飛行ヒールで旅していた時に出会って以来、たまに尋ね合う仲になっていた。


「おお、久しぶりですねインドラさん。何か用ですか?」


「信徒がミノタウロスの肉を貢いでくれたんじゃが……一人では食べきれんのじゃ」


 ……そうだった。インドラさんは見かけによらず小食なんだよな。


「それなら丁度いい。燻製を作ろうと思ってたんです」


 俺はインドラさんから肉の包みを受け取り、赤レンガを組んで作った縦長長方形の燻製器へと向かった。

 燻製の準備をしていると、後ろからリタとインドラさんが話しているのが聴こえて来た。


「ユーリ様のお友達ですか?」


「インフィニティドラゴンじゃ……インドラと呼ぶがいい」


「インフィニティドラゴンってあの有名な聖獣様ですか!?」


「……そんな所じゃ」


「すごい! 歴史の本で読みました! 確かマグマを放ってこの大陸を作ったお方ですよね?」


「……あの時は大変じゃったのお」


 二人の会話を聞きながらも、網に自家製チーズやコカトリスの卵を配置していく。そして、インドラから貰った肉の包みを開く。


角切り(ヒール)


 手から魔力を放ち、大きなミノタウロスの胸肉をサイコロステーキのように角切りにして網に並べて行く。


火魔法ヒール


 最後に火魔法ヒールでチップに点火し、木の蓋をして二時間ほど待てば完成だ。


「リタ、お客さんに紅茶を淹れてくれるか?」


「はい! ユーリ様!」


取り出し(ヒール)


 俺は取り出し(ヒール)で大椅子を亜空間から取り出し、インドラに座るよう促す。


「ありがとう……しかし……お主といると心が休まるな……」


「……何かご心労でも?」


「ワシは自分で言うのもなんじゃが、偉いからのお。じゃが……誰からも崇められるのは少し億劫での」


「俺も本当は崇めた方がいいかなと思うんですが」


「それは止めてくれ。ワシはお主とは対等な関係でいたいんじゃ。最も、お主はやろうと思えばワシをテイムする事も出来るんじゃろうが……」


 俺は軽く苦笑しながら切り株の椅子に座り、膝に飛び乗って来たブルースライムのゼーラを撫でる。


「流石にしませんよ……そんな不敬な事は」


 俺はインドラさんの近くでは『SSSSランクテイム』を抑える事にしていた。


「お主のその人柄をワシは気に入っておるんじゃ」


「……恐れ入ります」


 暫く切り株の椅子に座って安らかな気持ちで青空を見上げていると、聞き覚えのある声が耳に入って来た。……勇者アレスだ。


「おいユーリ! 戻って来てくれ! 俺達のパーティに!」


「今更もう遅い」


「なんだとお! ってなんだこの赤トカゲ?」


 ……流石に聖獣に赤トカゲはまずい。


「おい! 頼むから身の程を弁えてくれ!」


 立ち上がってアレスを手で制そうとしたが、


「身の程って何だよ! ただの赤トカゲじゃねえか!」


 ダメだった。


「ふぁっふぁっふぁ! まあ良いじゃろう! 面白い若者じゃ!」


 インドラさんは気にしていないようだが……


「でも……流石にまずいですよ」


「いいんじゃよ」


 まあ、いいんならいいか。


「まあ良く分かんねーけど、ユーリにテイム出来るんだから相当な雑魚モンスターなんだろうな」


「ふぉっふぉっふぉ! まあそんな所じゃのお」


「でも結構見た目は格好いいじゃねえか!」


「そうじゃろ? 照れるのお」


「でも顔がちょっとデカいな」


 ――その瞬間、場の空気が凍りついたのがはっきりと分かった。


 恐る恐るインドラさんの表情を盗み見て見ると、鼻に皺を寄せて緑の瞳をギラつかせてアレスを睨んでいる。……まずい。


「ここまで完璧にワシを侮辱しおったのは……5億年前のエビルグリフィンの阿呆以来……お主で二人目じゃのお」


 エビルグリフィンがインドラさんの頭の大きさをからかって、腹を立てたインドラさんが地団駄を踏んで大陸に海峡が出来たという伝承を聞いた事があったが、本当だったらしい。


「あれ? 俺なんかやっちゃった?」


「今の内に謝った方が良いぞアレス。……エビルグリフィンみたいに全身の毛をむしられたくなかったらな」


「何で俺が謝るんだよ! だって実際顔デカいじゃん!」


 ……駄目だこいつ。もうどうにもならない。


「消え失せろ! 小童がァ!」


 蒸気が吹きあがるような音と共に、インドラさんはアレスへと激しい鼻息を吹いた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアア! ユーリ! 今度こそお前を引き戻してやるからなあああああああ! ……うわああああああああ!! 死ぬうううううううううううう!」


 アレスは情けない叫び声をフェードアウトさせながら、空の彼方まで吹き飛ばされて行った。


「すみませんね。俺の知り合いが失礼な事言ってしまって」


「お主は悪くない。……じゃが、次にあの小童がワシを侮辱したら手加減できんぞ」


「……はい」


 もうアレスとインドラさんを引き合わせるのは止めた方が良さそうだ。


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