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4話 勇者VS魔王

「ユーリ! 俺達のパーティに戻って来てくれ!」


 玄関の扉の向こうから響いて来たのは、例によってアレスの声だ。


「……今更もう遅い」


「おい! ふざけるな! 話を聞いてくれよ! 頼むよお! 戻って来てくれ! お前が必要なんだよ!」


 鍵を掛けて放っておいてもいいがうるさくされても厄介だ。

 俺の部屋のハンモックでリタが安らかにお昼寝しているので、起こしたくなかった。


「とっとと開けやがれ! クソ雑魚ユーリの分際でよお!」


 俺は仕方なしに木の扉を外開きに勢いよく開く。


「いってー! いきなり開くんじゃねえよ!」


「あ、ごめん」


 アレスは俺が開いた扉にぶつかって倒れ込んでしまったらしい。

 ……まあワザとだけど。


「とにかく今日という今日はお前を俺のパーティに引き戻してやるぜ!」


「だから今更もう遅いって」


「何がもう遅いだ! ふざけてんじゃねえぞ! 復活した魔王の脅威は刻一刻と迫っているんだ! 勇者の血筋を持つ世界最強の俺が魔王を倒さねえと、大変な事になるだろが!」


 あ……そう言えばそうだった。


 世界のどこに行っても平和なのですっかり忘れていた。「復活した魔王軍が攻めて来るかも知れない」とかいう噂があったので、俺は王に頼まれて勇者アレスのパーティに入ったのだった。


 今更アレスに協力する気は全くないが、魔王軍が攻めて来て困る人がいたら気の毒だし、ここは俺が一肌脱いでやるとするか。


 勇者の子孫が自分の地位を高める為に勝手に作った「勇者が魔王を倒さないといけない」という妙なしきたりがあったので、勝手に魔王をどうこうするのは遠慮していたが……まあ俺は勇者に追放された身だしこの際いいだろう。


「じゃあ俺、ちょっと魔王と話付けてくるから――自己転移ヒール




 俺は魔王城の禍々しい玉座の前へと自己転移ヒールした。玉座には魔王が足を組んで座っている。

 その姿は、黒い角を生やした長い黒髪の女性だった。


「お邪魔しまーす」


「何だ……貴様は……勇者か?」


「勇者じゃないですけど。出来れば悪い事はやめてくれませんか?」


「この力は……!? お前は……いや……あなたは一体!?」


「俺はユーリっていいます。しがない元冒険者で、今は引退して森でスローライフしています」


 魔王の不審そうな表情は、驚愕の表情に変わっていた。

 そして魔王は俺の前に跪く。


「ユーリ様……とんだ無礼を!」


 上手く行ったみたいだ。


 モンスターは、自分より強い相手には付き従う習性がある。

 その習性を利用して、自分より弱いモンスターにあの手この手で自分の強さを知らしめて従わせるのがテイムだ。

 俺はユニークスキルの『SSSSランクテイム』により、近付いただけで簡単にモンスターに自分の力を伝える事が出来るので、テイムは得意だった。


 魔王にも通用するかは不安だったがどうやら通用するらしい。


「自分より強い者には臣従するのが魔族の定め……あなたの実力は十分に理解出来ました。我々魔王軍はあなたの軍門に下ります」


 玉座の間にひしめく親衛隊らしき鎧姿のモンスター達も、魔王に倣って仰々しく俺に向かって跪いて頭を下げた


「どうか我々をあなたの配下に……」


「別に配下とかにはならなくていいよ。面倒くさいし。ただ、人に迷惑かけたりとか、悪い事しないでくれたらいいから」


「ハッ! この魔王ギラル……誓ってもう二度と悪い事は致しません!」


「ただ、一つだけ頼みがあるんだ。……ちょっと来て欲しい」


「ハ! 何処へなりとも!」


「じゃあ頼むよ。範囲転移ヒール


 俺は魔王を連れて自宅の玄関へと戻った。



「ユーリ! どこに隠れてやがった!? てか誰だこの女! おっぱいでっかいなあ! ツノもかっけー!」


「おいおい。あんまり失礼な事言うなよ」


「……で、誰なんだよこの人」


 アレスは鼻の下を伸ばしてギラルを舐め回すように見つめながら、急に小声になって尋ねて来る。


「ああ、紹介するね。……さっき俺の仲間になってくれた魔王のギラルさん」


「……魔王ギラルだ」


「魔王ですかー! 面白いギャグっすねー! あ、俺アレスっていいまーす! 一応勇者やらせて貰ってまーす!」


 妙なノリになったアレスを、ギラルは冷たい目で見下していた。


「ユーリ殿……このゴミを殺す許可を頂きたい」


「いや、殺さないであげて。一応知り合いだから」


「ユーリ殿がそう仰るなら……」


 俺が諫めると、ギラルは右手に蓄えた魔力を打ち消してくれたが、アレスは留まる事を知らなかった。


「あのー! もしよかったら今度酒でも飲みにいかなーい? ユーリとかいう雑魚は抜きで! ね?」


「ユーリ殿に対する侮辱は許さん!」


「……まあまあ、落ち着いて。アレスも止めろよ!」


「うるせーなあ! お前はとっとと俺のパーティに戻りやがれ! てかマジでギラルさん紹介してくれよ! 俺めっちゃタイプなんだけど!」


 魔王が俺の仲間になって世界の脅威が無くなれば、アレスが俺を荷物持ちにしたがる理由も無くなると思ったが、やっぱり上手く行かなかった。


 アレスの『面の皮の厚さ』『物分かりの悪さ』『しつこさ』はチートじみている。……もちろん悪い意味で。


「……なあギラルさん! クソ雑魚ナメクジ以下のユーリなんかほっといて二人きりで話そうぜ! な!」


「もう許せん! ……殺す!」


 ギラルの両手に、黒く歪んだ膨大な魔力が集まって行く。


「何これ!? なんかヤバい感じするけど? どうなってんの?」


「……勇者アレス! ユーリ殿を侮辱した罪、その身を持って贖え!」


「えっ……? 何それ!? やめ……やめてくれえええええええ!!」


 アレスが涙目で崩れ落ちたところで、


「――強制転移ヒール


 俺はアレスを王都の辺りに飛ばしておいた。


「ユーリ殿! 何故あのような下賤の輩を!」


「まあ、ムカつくけど一応知り合いだから、死なせたら寝覚めが悪くなるし」


「……これは出過ぎた真似を。ですが……もし心変わりなさる事があればいつでもご命令を。あの愚かな勇者の首をすぐにでも斬り落としてご覧に入れましょう」


「はいはい」


「ではお暇させて頂きます」


「朝食食べて行かない?」


「いえ……ユーリ殿にそこまでされてしまっては、配下として申し訳が立ちません。では」


 ギラルは黒い靄になって消えていった。

 この分だと魔王はもう悪い事はしないだろうし、世界は安泰だろう。



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