2話 勇者VSジャンケン
外で昼寝したいが、今日は少し寒かった。
――そうだ……こんな時はモフモフだ。
俺は巨大な羊モンスター、エビルシープのシールの力を借りる事にした。
「――牧場転移」
俺は5年前牧場作成で異空間に作ったモンスター牧場へと牧場転移した。
俺のヒールはユニークスキルの『万能ヒール』のお陰で万能になっていて、大抵の事は出来てしまう。
というか、今まで試して出来なかった事が無い。
世界破壊とか、神殺しとかもやろうと思えばできるのかも知れない。やらないけど。
モンスター牧場には、アルティメットフェニックスの群れが飛び回り、巨大なアビスエレファント達が色とりどりの果物を美味しそうに食べている。
俺は広大なモンスター牧場をのんびり歩きながらシールの姿を探した。
巨大なモフモフ……シールは崖の近くの草原で草を食んでいた。
「メエエエエエ……」
シールが寄って来た。
「ちょっと今日は冷えるからな。来てくれるか?」
「メエエエエエエ」
「ありがとう――自宅転移」
自宅の庭に戻った俺は、早速巨大なシールの白くてモフモフした体毛に埋もれた。
「ああ……暖かい……」
肌ざわりもモフモフで最高だ。
そのまま柔らかく輝く白い繊維の海の中を泳いでみる。
「メエエエエ……」
シールは気持ちよさそうな鳴き声を上げている。
そのまま仰向けに寝そべって、繊維の水面にぼんやり輝くオレンジの太陽を見上げてみる。
何だか幻想的な光景だ。
「……30分タイマー」
俺はそう呟くとゆっくりと瞼を……
「おい! ユーリ! 今日こそ俺のパーティに戻って来てもらうぞ!」
勇者アレスの声だ。
面倒くさかったが、このままじゃどのみち眠れない。俺は仕方なくシールのモフモフから首を出した。
「ユーリ! 頼むから戻って来てくれ!」
「……だから今更もう遅いって」
「うるせえ! 荷物持ちしか能がない雑魚の癖にイキがりやがって!」
「めんどうくさいなあ……もう眠いから帰ってよ」
しかしアレスは帰る気は無さそうだった。
「頼む! 戻って来てくれ! 俺のパーティの荷物持ちを任せられるのはお前だけなんだよ!」
「知らないし、どうでもいいし、もう遅い」
「そこを何とか頼むよお!」
「……眠りたいから帰れ」
「そうだ! 俺とジャンケンしろ! ジャンケンで勝ったら俺のパーティに戻って来てくれ!」
ジャンケンか。俺が前世の記憶を元に仲間内でやっていた手遊びだったが、なんか王国中で流行っているらしい。
「それならいいよ」
俺はシールのモフモフから右手を出した。
「よっしゃああああ! 後で嘘とか言うなよ! 行くぜ雑魚ユーリ! ジャンケン……ポン!」
俺はパー、アレスはグー。俺の勝ち。
「チクショオオオオオオ! もう一回! もう一回頼む!」
「……何回でもいいよ」
「ジャンケンポン!」
俺はパー、アレスはチョキ。俺の負けだ。
「よっしゃああああああああああ!! 約束通り戻って来てもらうぞ!!」
「――時間逆行」
俺がそう呟くと、空間が歪みながら時が巻き戻って行った。
最初にアレスに勝った所まで戻して、俺は時間を再生する。
「チクショオオオオオオ! もう一回! もう一回頼む!」
「……何回でもいいよ」
「ジャンケンポン!」
俺はグー、アレスはチョキ。俺の勝ち。
「チクショオオオオオオ!! もう一回だ! 俺が勝つまでやるぞ!」
「……お前の気が済むまでやってやるよ」
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
そんな感じで俺はジャンケンで負ける度に時間を戻して、勝てる手に変えて行った。
「チクショオオオオオオオ!! どうなってんだ!!」
20連敗したアレスは悔しそうに地団駄を踏んでいる。
「もう今日は帰ってくれ。昼寝するから」
「クッソオオオオオオオ! 今日は運が悪いみたいだから引いてやる! だが俺は絶対に諦めないからな! 今度こそ絶対にお前を俺のパーティに引き戻してやる!」
「はいはい。もう遅いけど頑張ってね」
俺は肩を怒らせて帰って行くアレスをぼんやり見送ると、シールのモフモフに全身を埋めた。
そして心地よいまどろみの中でゆっくりと瞼を閉じた。