19話 勇者VS露天風呂
「今日は寒いですね……」
「本当だなあ」
もうすっかり冬になってしまった。
庭にはうっすらと雪が積もっている。
「そうだ、いい事考えた――取り出し」
俺は金に輝く大きな蓋付きの箱を取り出した。
「これは……宝箱ですか?」
「うん。無限の大穴っていうダンジョンの最奥で見つけたんだ。何かに使えそうだから取っておいて良かった。リタは井戸の水をこの宝箱に注いでくれるか?」
「いいですけど……どうするんですか?」
「まあすぐに分かるよ」
レンガを組んで庭の隅にかまどを作っていく。
「ユーリ様! 水で一杯になりました!」
「ありがとう」
森で拾った木の枝をかまどの中に入れて、水でいっぱいになった宝箱を上に乗せる。ついでに木のすのこを底に敷けば完成だ。
「これもしかして……お風呂ですか?」
「大正解」
火魔法で薪に着火し、湯加減を調整していく。
直接湯はりでお湯を出すことも出来るのだが、それだとちょっと風情が無いしな。
「うん……いい湯加減だ」
俺は早速服を脱いで、完成したばかりの露天風呂に入り込んだ。
「ああ……いいお湯だ……あったまる」
「…………」
「リタも入っていいぞ」
「……あの……ちょっと恥ずかしい……です」
リタは顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
……そっか、リタもそういう年ごろか。
「布取り出し……裁縫」
俺は取り出した白い布を裁縫して湯あみを作ってやった。
「これならどう?」
「ありがとうございます!」
家に戻って湯あみに着替えたリタは、お風呂に入って来た。
「あったかいです……」
「ほんと……いいねーお風呂は……」
「ピーーーー!」
「ゼーラもお風呂入りたいか?」
「ピイイイ!」
入りたそうだったのでゼーラも入れてやった。
リタはどっぷりと肩まで浸かっている。ゼーラもプカプカとお湯に浮かんで気持ちよさそうだ。
普段は洗浄で体を洗っているので、お風呂に入るのは久しぶりだったが……いいもんだなお風呂は。また入ろう。
「じゃあそろそろ上がるか」
「はい!」
露天風呂をたっぷり堪能した俺は、フワフワのバスタオルで体を拭いてからいつもの白ローブを身に纏った。
「おい! ユーリ! 戻って来てくれ!」
「おお丁度いい所に来たなアレス」
「丁度いいだと!? じゃあ戻って来てくれるのか!?」
「それは無理だけど」
「チクショオオオオオオオオオ!」
「まあ折角だから風呂にでも入って行けよ」
「気が利くじゃねえかユーリ! それでこそ俺のパーティの専属荷物持ちだ!」
「別に荷物持ちじゃないけど」
「なんだとお! ユーリの分際でふざけやがって!」」
「偉そうにするなら入らせてやんないよ」
「嘘! 嘘だから! 寒いから入らせてくれ!」
「はいはい」
アレスは鎧と服を脱ぎ、宝箱に入った。
「あーいいお湯だぜー!」
「湯加減はどうだ?」
「ちょっとぬるいかなー」
追い焚きでお湯の温度を上げてやった。
すると、アレスの肌は見る見るうちに真っ赤になっていった。
「ごめんちょっと熱すぎたか?」
「いや……中々丁度いいぜ……」
「ほんとに大丈夫か?」
「勇者の俺にはこの程度どうって事ないぜ! ほら! 湯船に手を突っ込んでみろよ!」
「…………」
「どうだ! 熱いだろ!」
「いや全然」
俺は火属性の完全耐性を持っているので、溶岩の海に入っても別に熱くないくらいだ。これくらいどうって事無い。
「そうか……お前はこれが熱くないっていうんだな! じゃあ当然、俺も全然熱くないぜ! おいユーリ! 何ぼーっとしてやがる! もっと火を強くしやがれ!」
「いいけど――追い焚き」
「あっつうううううう……くねえ! 全然熱くねえええええええ!」
「あんまり無理しない方がいいと思うけど」
「お前は黙ってろ! ぬるいんだよこの程度! もっと熱くしやがれ! お前が火傷するくらいな!」
「はいはい――追い焚き」
「…………」
「おい大丈夫か?」
「チク……ショウ……」
「治療」
まずそうだったので治療してやると、途端にアレスは風呂から飛び出て来た。
「アッチイイイイイイイイイ! 死ぬウウウウウウウウ!」
「熱かった?」
「いや……全然熱くなかったぜ! このくらい余裕だ!」
「ああそう。また入ってもいいけど? もっと熱くしてあげるよ?」
「そうしたい所だが……用事があるからな! 今日の所は帰ってやる! だが次は無いからな! 憶えてろよ!」
「はいはい」
俺はリタと立ち並んで牛乳を飲みながら、とぼとぼと帰って行くアレスを見送った。




