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17話 勇者VS詐欺師

「ひいいいいい止めろ! 止めてくれ!」


 いつものようにアレスが俺を引き戻そうとしてきたので断ったら、剣を抜いて来て腹が立ったので、俺はアレスの頬を思いっきりつねっていた。


「マジ無理! 死ぬってマジこれ痛い! 痛い痛い痛い!」


「うるさい」


「死ぬ! ほんと死ぬから! 痛いいいいいい!」


 うるさいので離してやった。


「チクショー……どうなってやがる……」


 アレスの様子はどこかおかしかった。いつもだったら「今日の所は引いてやる!」とか言って帰って行く筈なのだが。


「おかしい……運を味方に付けた俺がユーリに負ける筈が無いのに……」



「……運?」


「そうだよ運だよ! 俺はずっとおかしいと思ってたんだ! 世界最強の実力を持つ筈の俺がユーリごときに毎回追い返される筈がねえ! 何かおかしな事が起きているに決まってやがる! そしてやっと気付いたんだ! 俺には運が無かったんだ!」


 ……運のせいにしちゃったか。


「俺が酒場で飲んだくれて、自分の運の悪さを酒場で愚痴りに愚痴ってた時だ。……占い師の婆さんが俺に声を掛けてくれたんだ。俺の強さも褒めてくれたし、中々話が分かる婆さんだったぜ!」


「ああそう」


「宮廷占い師だったっつー婆さんは『運さえあればあなたは最強ですじゃ!』って太鼓判を押してくれたんだ! そして、幸運を呼び込むっていう伝説のブレスレットをたった金貨10枚で譲ってくれたんだ!」


 アレスが右腕に付けているブレスレットは、銀色にテカテカと光っていていかにも安っぽい感じだ。


「騙されたんじゃないの?」


「な訳ねえだろ! アリシアさんに限ってそんな事がある筈……」


「ユーリ様!」


 リタが赤髪をゆらしながら笑顔で駆け寄って来た。


「アレスさんおはようございます!」


「……悪いが今はガキの相手してる場合じゃねえんだ」


「ガキじゃないです!」


「――ん!? おいガキ! 何で世界に一つしか無い筈の伝説のブレスレットをお前が装備してやがる!?」


「これですか? 露店で売っていて綺麗だったから、ユーリ様におねだりして買ってもらったんです!」


「そんな……」


 良く見たらアレスのブレスレットは、俺が銀貨一枚で昨日リタに買ってやったブレスレットと細部まで全く同じだった。


「俺は騙されてたってのか……! チクショオオオオオオ!」


 半泣きで去っていくアレスを見送りながらも俺は複雑な心境だった。


 アレスを騙した占い師の婆さん。……アレスを騙したのはどうでもいいが、俺を間接的に詐欺に利用したのはちょっと腹立つな。


「――自己転移ヒール


 怪しいグッズが大量に置かれた部屋の奥に、黒ローブのシワシワ婆さんが座り込んでいる。


「……アリシアの占いの館へようこそ」


 どうやら俺を客だと勘違いしているらしいが、


「俺は客ではありませんよ。久々ですねアリシアさん」


「こ……これはこれは! ユーリさん!」


「何かまた悪い事してるみたいですね」


「ゲッ! 何故それを……!」


「やめてください」


「……申し訳ございません! もう二度と悪い事は致しません!」


「ならいいけど、次やったら憲兵隊に通報します。あと、ちゃんと返金にも応じる事」


「わかりました!」


 ……これで良しと。

 結果的にアレスを助ける事になってしまった気がするが、まあいいだろう。


 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇


 それから一週間後、またアレスがやって来た。


「ユーリ! 戻って来てくれ!」


「だからもう遅いって……」


「じゃあせめて、伝説の緑汁の会員になってくれ!」


「は?」


「マルチマウスビジネスだよ! お前が会員になって、他の奴を会員に誘えば簡単に儲かるんだ! たったの金貨10枚で会員になれるぞ! 元なんて簡単に取れる!」


「……帰れ」


「頼むよユーリ……! もうお前しか頼れる奴がいねえんだよ……!」


「――強制転移ヒール


「チクショオオオオオオオオ! ついてねええええええ!」



 俺は軽く溜息を吐いてから居間に戻った。

 すると銀のブレスレットを着けたリタが抱き付いて来た。


「ユーリ様……私ユーリ様と出会えて本当に良かったです」


「そっか。俺もリタと出会えて幸運だったよ」


 俺はリタの髪を撫でながら軽く微笑み返した。



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