16話 勇者VS泉の女神
「ハッ! ハッ! ハッ!」
俺は泉のほとりにある切り株に座り、ブルースライムのゼーラ君を撫でながらリタの素振りを眺めていた。
リタは輝く汗を散らしながら、真剣な眼差しで木剣を振っている。
リタの剣は以前にも増して鋭さを増していた。
もうアレス程度では手も足も出ないだろう。
「そろそろ休憩しない? レモンティーもあるよ」
「はい! ありがとうございますユーリ様! あっ!」
リタの木剣はすっぽ抜けて泉に落ちてしまった。
「あ……! どうしましょう!」
俺は回収を唱えようと泉に手を向けた。
しかし、妙な事が起きた。
「ユーリ様! 何か泉が光ってます」
確かに……何か泉が神々しい輝きを放っている。
しばらく様子を見ていると、白いワンピースを身に纏った美しい女神が泉から浮き上がって来た。
その傍らには金の剣と銀の剣がそれぞれ浮かんでいる。
「あなたが落としたのは……この金の剣ですか? それともこの銀の剣ですか?」
柔らかく微笑みながら問いかける女神に、リタは正直に答えた。
「どちらも違います。私が落としたのは木の剣です」
「……あなたは何て正直な方でしょう。その正直さを称えて金の剣と銀の剣を差し上げましょう。もちろんこの木剣もお返しします」
「ありがとうございます!」
リタがお礼を言うと、女神は微笑みながら泉へと潜って行った。
「よく正直に言えたねリタ」
俺が頭を撫でてやると、リタは嬉しそうに微笑んだ。
「ユーリ! こんな所にいやがったか! 今日という今日こそ俺達のパーティに戻って来て貰うぜ!」
「今更もう遅い」
「チクショー! ん?」
アレスはリタが握っている二振りの剣に気付いたらしい。
「何だその剣! おいガキ! どうやって手に入れやがった!」
「あなたには関係ありません! 木剣を泉に落としたら、優しい女神様に貰ったんです!」
「なんだとお!? なら俺も落としてやるぜ!」
アレスは肩に下げた剣を抜き出し、泉に投げ捨てた。
途端に泉は神々しく光り輝く。
出て来た女神は露骨に不機嫌そうだった。
「……またですか?」
「チーッス! おっ! 結構可愛いじゃんかー!」
「…………」
「あ、いきなりナンパとかダメ系? じゃあ本題に入るけど俺、さっき剣落としちゃってさあ」
「……そうですか」
「そうですかじゃなくて、返してくれない?」
「……まあいいでしょう。あなたが落としたのは、この金の剣ですか? それとも……」
「――どっちも違う! 俺が落としたのは伝説の剣! 勇者しか装備できない最強の奴だぜ! もちろん見た目もカッコいい奴だ!」
女神はゴミを見るような目でアレスを見下ろしている。
……無理も無いが。
「え? 無いの? 無いなら今ある金の剣と銀の剣でもいいぜ! ああついでに鉄の剣も落としたからそれも返してくれ」
「あなたは……とんでもない大嘘つきですね……」
「えー? 俺は嘘なんかついた事一回も無いけど? 特に君の美しい瞳を見つめている間はね……! なんつって! どう? この後お茶でもしない? あ、俺一応勇者やらせて貰ってまーす! 俺いい酒場知ってるんだよね……二人きりでどう?」
「黙りなさい!」
女神の手に集まった魔力が、水鉄砲となってアレスを吹き飛ばした。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア! マジで死ぬうううううううううううう!」
結構すごい勢いで空の彼方まで飛ばされていったが……まあ死にはしないだろう。多分。
「ユーリ様……やっぱり正直が一番ですね……」
「そうだね」
森の泉は、いつも通りの静けさを取り戻していた。




