14話 勇者VS牛
「ふぁーよく寝た」
爽やかな朝だ。時計を見ると7時半。
少し早起きしたが二度寝をする程ではない。
――久々に乳絞りでもするか。
白ローブに着替えた俺は、木桶を持って牧場へと向かった。
「牧場転移」
モンスター牧場には、いつものようにアルティメットフェニックスの群れが飛び回り、巨大なアビスエレファント達が色とりどりの果物を美味しそうに食べている。
俺は安らかな気分でその光景を見物しながら、牛舎へと向かった。
「オハヨウゴザイマス!」
「おはよう」
小さな緑のモンスター、ゴブリンのゴブラが挨拶して来た。
ゴブリン達はかつて人を襲う悪いモンスターだったが、俺がテイムしてからは改心してモンスターや動物の世話をしてくれている。
彼らも平和なモンスター牧場を気に入ってくれているようだ。
「ちょっと乳絞り用に牛を借りたいんだが」
「カシコマリマシタ!」
ゴブラが連れて来た牛は、白黒まだらでホルスタインといった感じだった。
「ナマエハイザベラデス」
「イザベラか……よろしくな」
「モオオオオオオ」
ゴブラがイザベラの紐を波打たせると、イザベラは足を進めて俺の傍に近寄って来た。
「範囲転移」
俺はイザベラと共に家へと戻った。
イザベラの紐を畑の柵に縛り付け、乳頭を聖水で綺麗に拭いていく。
桶を置いて乳頭を絞って行くと、勢いよくミルクが迸った。
駆け寄って来たリタは、イザベラを見て驚いていた。
「ユーリ様! 何ですかそれ!」
「ああ、これは牛さんだよ。名前はイザベラ。ミルクを出してくれるんだ」
「へえ……これが牛さんですか」
「ちょっと絞ってみる? まずは聖水で手を綺麗にしてね」
「はい!」
リタは、恐る恐るといった感じでイザベラの側面にしゃがみこんだ。
「まず親指で根元をしっかり握り込んでくれ」
「こうですか?」
「そうそう。後は人差し指から小指まで上から握って行く感じで絞ってくれ」
「わっ!」
「上手いぞリタ。その調子だ」
「ありがとうございます!」
そんな感じで木桶はミルクで満たされて行った。
ガラスのコップにミルクを注ぎ、喉へと一気に傾ける。
「うん! うまいな!」
「おいしいですユーリ様! ありがとねイザベラちゃん!」
イザベラはリタを無視して呑気に庭の芝生を食べている。
芝生を食べられるのはちょっと嫌だが……すぐ生えるしまあいいだろう。
「おい! ユーリ! 俺のパーティに戻って来てくれ!」
またアレスだ。
「……もう遅い」
「モオオオオオオオオ」
タイミング悪くイザベラが鳴いたのでダジャレみたいになってしまった。
「てか何だよこれ? 牛か?」
「あっ……後ろに立ったらダメだぞ。牛は死角である背後に立たれると、反射的に後ろ蹴りを出してしまうらいしからな」
「あ? 何か言ったか?」
……もう遅かった。イザベラの後ろ回し蹴りがアレスの膝に炸裂した。
アレスは膝を抱えて芝生の上でのた打ち回っている。
「ギャアアアアア! いってえええええ!!」
「治療」
「あ、何か治った! やっぱ俺は最強だな!」
……全く調子がいいやつだ。
「モオオオオオオオ」
「ひいっ!」
アレスは牛を恐る恐る見つめながら、一挙一動ビクビクしている。
……蹴られたせいで牛がトラウマになってしまったのかも知れない。
「まあ……今日はなんか調子悪いみたいだし、牛がいるから勘弁してやる! だが次は無いからな!」
「ミルクいる?」
「……いる」
アレスはミルク缶を受け取ると、とぼとぼと帰って行った。
「すごいですね牛さん……こんな美味しいミルクを出してくれた上に、アレスさんを返り討ちにしてしまうなんて」
「ほんとだねえ」
俺とリタの感心の眼差しを知ってか知らずか、イザベラは何事も無かったのかのようにのんびり芝生を貪っていた。




