1話 勇者VSスライム
「ユーリ! 頼むから俺のパーティに戻って来てくれ!」
「今更もう遅いんだが」
ユニークスキルである『万能ヒール』と『無制限補助魔法』と『SSSSランクテイム』を持っている俺は、王に頼まれて勇者パーティに入った。
しかし俺は、「お前のような雑魚は荷物持ちがお似合いだ!」と異様に物分かりが悪い勇者アレスによって荷物係にさせられてしまった。
その上邪魔だとか無駄だとか言われた挙句、俺は「荷物持ちしか能がない雑魚」の烙印を押されて勇者パーティを追放されたのだった。
だが追放されたのは結果的に俺にとって都合が良かった。
俺は何者にも縛られないスローライフがしたかったのだ。
そんな訳で森に小さな家を建てた俺は、今日も木陰のベンチに座りブルースライムのゼーラを膝に乗せてのんびり撫でていた。
勇者が性懲りも無くやって来たのはそんな時だった。
「頼むよユーリ! 戻って来てくれ!」
「……もう遅い」
「俺にはお前の力が必要なんだよ!」
「俺にはあんたの力は必要ないんだが」
「頼むよお! 戻って来てくれ!」
俺は必死に縋り付く勇者を見下ろしながら、小さく息を吐いた。
「『荷物持ちしか能がない雑魚』ってあんたは言ったよな?」
「すまん! 正直に言うと、俺はずっと荷物持ちを馬鹿にしていた! でも違ったんだ! お前の荷物持ちは完璧だった! 新しく雇った荷物持ちは荷物をすぐこぼすし、整理も出来ないしで全然ダメだったんだ!」
俺は唖然としてしまった。
「おい……あんたまさか俺を荷物持ちとして雇う気なの?」
「そうだ! 1日銀貨1枚の破格の待遇で迎え入れよう!」
ダメだこいつ。話にならない。
「……もう帰ってくれない?」
「なんだとお! 荷物持ちしか能がない雑魚ユーリの癖に調子乗ってんじゃねえぞ!」
俺は別に何も思わなかったが、ゼーラは俺の膝から飛び降りて、アレスの前に立ってプルプルと小刻みに震え出した。
「どうしたゼーラ……」
「ピイイイイイイ!」
ゼーラは俺の為に怒ってくれているらしい。
「ケッ! こんな雑魚スライム役に立たねえだろ! とっとと捨てちまえよ!」
――む……今のは少しカチンと来たな。
「頼むよユーリ! 俺のパーティに戻って来てくれよ!」
「じゃあ俺のブルースライム、ゼーラと戦ってお前が勝てたら考えてやる」
「いいぜ! こんな雑魚スライムに俺が負ける訳ねえからな! 楽勝に決まってる!」
俺は無詠唱でゼーラに補助魔法を掛けていく。
――アタックブースト、ガードブースト、スピードブースト。
ゼーラの全身が光り輝いていく。
普通の補助魔法には効果に限界があるらしいが、俺の場合ユニークスキル『無制限補助魔法』のお陰で効果に制限は無い。
ケガしないようにガードを極限まで上げて、適度にスピードとアタックも上げて行く。
「ゼーラ、一応殺さないようにしてあげてくれ」
「ピー!」
アレスは背負った長剣をゆっくりと抜いた。
「ケッ! 馬鹿にすんな! お前こそ大事なスライムをグチャグチャに潰されて泣くんじゃねえぞ!」
芝生の庭先に向かい合って立ち、睨み合うアレスとゼーラ。
先手を取ったのはアレスだった。
「死ねえええ! クソ雑魚スライムがあああああ!」
戦いは一瞬で終わった。
「――グハアアアアアアアアアアアアアア!」
ゼーラの体当たり攻撃がアレスのみぞおちに炸裂した。激しく突き飛ばされるアレス。
「ゲエッ!」
アレスは森の木に激突して無様に崩れ落ちていた。
「そんな……馬鹿な……この俺がスライムなんかに!?」
「――治療」
少し可哀そうだったので一応治療してやる。
「クソッ! 妙な小細工をしやがって……! 俺がスライムに負けるなんてありえねえんだよ!!」
「ゼーラ。勇者様がまだ戦いたいって言ってるけど?」
「ピイイ!」
ゼーラは元気に飛び跳ねているし、やる気満々なようだ。
しかし、勇者は悔しそうに下唇を噛みながら首を横に振った。
「……今日は調子が悪いから帰ってやる! だが俺は諦めない! お前を絶対に俺のパーティに引き戻してやる! 憶えてろ!」
邪魔者がいなくなったので、俺はゼーラを膝に乗せてナデナデを再開した。
「よしよし、良くやってくれたなゼーラ」
「ピー!」
小さな赤レンガの家には、いつも通りゆるやかな風が流れていた。