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チェイン・ストーリー  作者: しば
3章 非業と監獄、侵入、奪還
13/17

5

 ―――ソイル監獄所。

 堅牢な砦に守られ、罪の重い者たちが収容、処刑される場所。

 その内部は地上だけではなく、地下にまで張り巡らされているという。

 マティスたちは深夜、その砦の外壁にたどり着いていた。

「……で、これからどうする気だ?まさかそのまま入るつもりか?」

「バカか……。いま認識魔法をかける。これは『目立ったことをしなければ気付かれない』魔法だ」

 『深層<ロア>』と詠唱したマティスは、次に外壁に沿って足場を作った。

 ひょいひょいとそれにジャンプして外壁から余裕で侵入すると、直ぐに物陰に隠れた。

「良いか、今からぐるりと地上の牢を確認してきてくれ。騎士の視界にはなるべく入らないようにな」

「マティスは?」

「僕は中央の監視塔から地下を探る。何かあったら監視塔で落ち合おう」

「わかった、じゃあ後で」




 監視塔内部にはすぐに侵入できた。

 なかには騎士の詰め所があったが、体が触れる事が無い限り気付かれることは無い筈だった。

(……ん?)

 ふと、机の上に置いてあった書類に目が留まった。

(何かの、設計図……?)

 そこには、火薬の扱い方が書かれていた。

 安定した状態。

 指向性。

 操作できる爆発動作。

(……)

 なるほど、やはり繋がっていたというわけだ。

 あの男は実験台で、データを取るための囮だったというわけか。

 腸が煮えくり返りそうな感情を抑え、マティスはそのまま階段を下りて行った。

 最下層は牢獄になっていて、ぐるりと見渡したところ騎士は居なさそうだった。

 慎重に牢を順に見ていくと―――

 ―――そこに、リファが居た。

 しかし、予想外の事が一つ。

「……でね、あたしはつくづく運が悪いなぁって話なのよ」

「そうなんですね……大丈夫、いつかツキが回ってきますよ」

 ……何やら仲が良さそうに談笑している獣人族の相手がいたことだ。

「……リファ」

「きゃっ!」

「わぁっ!?」

 いきなり声をかけられ姿が見えるようになって驚いたらしい。二人共声をあげた。

「ま、マティスさん!?何でここに……」

「助けに来た。急いでここを出るぞ」

「え、え?」

 戸惑うリファに対し、傍らの女は元気に聞いてくる。

「はいはーい!あたしも助けて貰っちゃったりしていいのかな?」

 ちっ、と舌を打つ。

「お前、罪状は?」

「無実」

「犯罪者はみんなそういう」

「ほんとだってば!」

「ま、マティスさん、リンさんは良い子ですよ?」

「……」

 マティスは檻を腕で捻じ曲げ、穴を作ってやった。

「ぷっはー!アリガト、黒い人♪」

「別にお前の為にやったんじゃない」

「ありがとう、マティスさん」

 檻から出た二人に、認識魔法をかけるマティス。

「良いか、声を出さなければ見つからない魔法をかけたから、二人共僕についてこい」

「あ、はい……」

「あいさー!」

「うるさい!」




 牢獄から階段を上っていくとき、騎士とすれ違った。

(まずいな)

 二人が居なくなったことはすぐにばれるだろう。

 ならば、直ぐにここを立ち去るほかない。

(急ぐぞ、お前ら)

(はい)

(あいさ)

 途中、詰め所に誰も居なかったので、例の資料を丸ごと取ってやった。ばれやすくなる危険はあったが、これを放置する方が危険だろう。

 それと、置いてあった籠からリファの剣と、リンとかいう奴の槍を取り戻した。

 階段を上り、監視塔の下に出る。そこには既にヴァイルの姿があった。

(よう)

(お、そっちの首尾は良かったみたいだな……って)

 マティスの後ろを見たヴァイルの目の色が変わった。

「兄ちゃん!?」

「リン!?」

(こらバカ、大声を……!)

 丁度その時だった。監獄中にサイレンが響き渡ったのは。

「あ……」

「っ……全員ついてこい、外壁から逃げるぞ!」

 マティスはそういうと手近な外壁に向かって走った。

 そして『足場』を出そうとしたのだが……

「!?」

 急に足を止めるマティス。

 しまった、僕としたことが……!

「どうした、早く……!」

「外壁周りが魔封じの罠になってる!これじゃ足場を造れない!」

「何!?」

「正門から逃げるしかない!急げ!!」

 呻きを上げる監視塔の下、4人は見張りの騎士たちをいなしながら正門を目指した。

「見えた!」

 マティスが叫ぶ。正門の先は橋になっており、今ならそのまま突破できるはずだった。




 ―――そう、『彼』が居なければ。

「!?」

 急に橋が上がった。

 マティスは横にあった詰め所にレバーがあると思い、そこに向かおうとして―――

「―――飛燕」

「っつ!?」

 ―――いきなり斬撃が飛んできて後退る。

「……残念だったな、咎人どもよ。ここは我らが守る大監獄。出ていくなら私を倒して貰おう」

 鎧の揺れる音と共に正門の前に立ったのは、煉魔騎士を束ねる最強の騎士。

「―――デュラン―――!!」

 分が悪いなんてもんじゃない。格が違い過ぎる―――それを知っているマティスは体中から汗が噴き出すのを感じた。

 情けない。姿を見ただけでこれだ、こんなんだから僕は―――。

 その時、いきなり肩を叩かれ、ビクッとして振り向いた。そこには、ヴァイルが居た。

「団長相手とは腕がなるじゃないか、サポート頼むぜ!」

「マティスさん、指示を下さい!」

 リファが剣を構えながらこちらを横目で見る。

「……皆と一緒なら、大丈夫ですよね?」

「アタシも力になるぞー!」

「……お前ら」

 ……不思議と、汗は退いていた

 同時に勝機を見た。

「―――よし。行くぞ―――!!」

 マティスはその言葉と共に、頭上に魔方陣を展開した。

「暴虐の竜、その力得んと欲すれば!!」

 チリ、と周りの空気が火花を散らした気がした。

「―――『イクリプス・フレア』!!」

 マティスがそう叫んだ瞬間、魔方陣からデュランに向かって極太の熱線が発せられた。

 しかし、デュランは熱線を大剣で受け流している。

「どぉりゃあぁ!!」

 そこに向かってヴァイルが、足への斬りを浴びせた。

「わぁっ……!す、すごい……私もっ!」

「おぉ……あ、アタシついていけるかな?」

 圧巻の光景に気後れしていたリファとリンもデュランに突っ込む。

「スラッシュフィン!!」

「『旋巻』<スライドルネド>!!」

 リファは全力の一閃を、リンは体を回転させながらの突きを放った。

 しかし―――

「ぬぅっ……『龍威』!」

 デュランが両の手で大剣を地面に突き刺すと、彼の周囲に衝撃波が発生した。

「きゃあっ!」

「ぐっ……」

 それを受けたヴァイルとリンが吹っ飛ぶ。

「ふん。まとめてかかってくれば敵うと思うか。―――飛燕!」

「っ……ウィングル!!」

 デュランとリファの飛ぶ斬撃がぶつかる。しかし―――

「っきゃあ!」

 ―――リファの斬撃は打ち返され、ダメージを受ける。

「食らえッ!!」

 マティスが火球を打ち出す。が、それは剣を一振りしただけで消滅した。

 デュランはそのままマティスに向かって走り、連続斬りを浴びせる。一撃でも当たればただでは済まない斬撃。

「っと、―――『回守』!」

 そこにリンが割って入り、槍を高速回転させてマティスを守る。

「う、くうぅ……!!」

「―――どこまでもつかな?」

 デュランは連続斬りを続ける。

 リンの守りが限界に入る―――と。

「リンッ!」

 ヴァイルがデュランの兜を狙い、斬撃を浴びせる。

「ぐっ、小癪な」

 デュランはヴァイルを薙ぎ払うが、後退って避ける。

「っち、もう少しで兜をはがせたんだけどな」

「貴様ら……」

「……その力……」

「ぬっ!?」

 リンの体によって隠されていた魔方陣が、再び火を噴く。

「イクリプス・フレア!!」

「ぐうぅっ」

 地面スレスレに発せられた熱線は、防ぐデュランの体勢を無防備にした。

「『斬壊』!!」

「ウィングル!!」

「連続突き―ッ!!」

 そこに容赦なく浴びせられる3人の攻撃。

「……おのれぇえ!」

 それをまとめて薙ぎ払うように、デュランが回転斬りを放つ。

「ぐっ!」

「あぁっ!」

「きゃあ!」

 3人とも、それぞれ別の方向に吹き飛ばされ、再び立ち上がる。息は既に絶え絶えだった。

「……愚か者どもが。そのような攻め方で体力が持つものか」

「―――そうだな。確かに勝つための戦い方じゃない」

 そう言葉を発したマティスにデュランが向き直る。

「ほう。ならば何のための戦い方だと?」

 ―――その時、デュランは正門を背にしていた。

 だから分からなかったろう。

 『それ』が何の轟音か。

「暴虐の竜、その力得んと欲すれば!!」

「何!?」

 正門の橋が、下りていた。そして3人は既にそこに向かっている。

「逃がすか―――」

「―――イクリプス・フレア!!」

「!!」

 詠唱を終えていたマティスが魔法を放ち、デュランはそれを防ぐしかなくなる。

 魔法が尽きた頃、3人は橋を渡り切っていた。

「―――なるほど、貴様の火球は橋のロープを焼き切るためのものだったか」

 くぐもった笑いが聞こえた。

「―――それで?貴様一人が犠牲になるとでも言うのか?」

「違うね。……知ってたか?僕にはこんな能力がある事を」

 マティスが走り、デュランを飛び越す。そして、二人の間に巨大な『壁』を造った。

「!!」

 そのままマティスは橋を渡り切り、振り返った。

「―――それでは、デュランさん。もう二度と会わない事を祈ってますよ」

 『壁』を消失させ、代わりに『腕』を巨大な槌に変化させて、橋を叩き潰した。

 完全な戦術勝利だった。

 4人はソイル監獄を急いで後にしたのだった。




「―――ふ。まさかこのような形になるとはな」

 デュランは独り言ちた。

「……橋を即刻修理させろ!私はカロルへ戻る!」

「はっ」

 デュランは転送方陣を発動させ、カロルへのワープを開始した。

「……マティス。次に会う時は―――」

 そう言い残し、デュランは姿を消した。




「はあ、はあ、はあ……」

 監獄から走って数十分。

 4人は誰ともなく足を止め、ハイタッチをかました。

「よくあそこから抜け出せたもんね~!」

「マティスさんが体を張ってくれたおかげですね」

「俺だってよくアレ相手に渡り合えたもんだと思うんだがねえ」

「……ああ、皆よく耐えてくれた」

「わ、マティスさんが褒めてくれるの、久しぶりです」

「……撤回する」

「なんですって~?さっきアンタの事守ってあげたじゃない!」

「頼んでない」

「シャーッ!!」

「あははは」

「ふふふっ!」




 仲間達はいつの間にか4人に増えた。

 そして、目的地はいよいよ近づいている。

 魔都クローレ。それは目前に迫っていた……

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