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チェイン・ストーリー  作者: しば
3章 非業と監獄、侵入、奪還
11/17

3

 次の日。

 マティスたちは市場で旅の補給を終え、孤児院へと向かった。

「あ!リファねーちゃんたち!」

「あらら?」

 孤児院の門の前で待っていたのか、アルが叫び、こちらに走って来た。

「おそいよみんなー!ずっとまってたんだからな!」

「ご、ごめんなさいアル君」

「はしゃぎすぎだろ、ガキだな」

「むっ……いいからホラ、はやく!」

 アルに急かされて、3人は孤児院の中に入った。

 扉を開けた先の広間には、長テーブルにケーキやご馳走が乗っていて。みんなはすでに座り待っていた。

「あー!やっときたー!」

「はやくー、はやくー」

 みんなに促される様に、3人は空いている席に座った。

「はいはい、皆静かにしてね。ろうそくに火を点けますから」

 先生がマッチでケーキの先にたつろうそくに火を灯していく。

 つけおわったら、先生はそのまま部屋の明かりを消した。

 暗闇にぽうと輝くケーキ。みんなが一瞬黙り、そして言う。

『アル、誕生日おめでとう!』

 アルはその言葉と共にろうそくの火を一気に吹き消す。

 部屋の明かりが灯され、歓声の言葉が響き渡る。

「アル君、おめでとうー!」

「へへ、ありがとうみんな。リファねーちゃんも」

「さあ、ケーキを切り分けましょうね」

 先生がナイフをケーキに入れている間、リファはある事をアルに聞いた。

「ねえ、アル君は大きくなったら何になりたいの?」

「おれ?おれは、きしになる!」

 アルがそう言いながら右腕を大きく振り上げた。

「騎士?煉魔騎士団のことか」

「そう!そんでいっぱいかせいで、こじいんのみんなをらくさせてやるんだ」

 ふっとマティスが鼻で笑う。

「やめとけ、おまえなんかじゃ―――むぐっ」

 否定の意を示そうとしたマティスの口を、ヴァイルが塞ぐ。

「いいじゃないか、でかい夢は良いもんだ。頑張れ少年、応援してるぞ」

「へへ、ありがとなヴァイルのにーちゃん!」




 ―――それから、とりとめのない沢山の話をした。

 みんなもみくちゃになりながらご馳走を奪い合って、笑ったり、泣いた子も居たりして。

 それは楽しく、賑やかなひとときだった。

 そういう時間ほど、早く過ぎ去るものだ。

「―――えー、もうみんないっちゃうの!?」

「まだ、まだいいでしょ~!」

 子供たちの引き留めを宥めながら、3人は孤児院の外へ出た。外は小さい雨が降っていた。

「名残惜しいけど、みんな、ここで一旦バイバイだ」

「長居するときりがないからな」

「みんな、またね。私たちまた必ず来るから!」

 リファは子供たちの頭を一人ずつ撫でてあげながら、別れの挨拶をした。

 それが終わり、皆に見送られて孤児院を後にしようとした時、アルが孤児院の門を飛び出して叫んだ。




「ねーちゃんたち、おれ、ぜったいきしになるからな!」

 リファが、それに答えた。

「……うん!信じてるよ、頑張って―――」




 ―――瞬間、白の視界。

 そして爆発音と、地響き。

 何が起こったのか、恐らく誰も分からなかっただろう。

 3人は、そのまま気絶した。




「―――ん……ぁ、れ……?」

 大粒の雨に打たれ、初めに目を覚ましたのはリファだった。彼女は何が起こったのかと辺りを見回した。

 倒れたマティスと、ヴァイル。

 起こさなくては、そう思いリファは二人を揺さぶった。

「お、起きて下さいマティスさん、ヴァイル、さ……」

 ―――そこで、気付いた。孤児院の前に誰かがいる事を。

 



 血だまりの中に、アルがいる事を。

「―――ッ!!」

 リファはそこに向かって飛び出した。そして条件反射的に回復魔法をアルにかける。

「アル君、アル君!聞こえる!?大丈夫!?」

「……」

 アルの返事は無い。

 体が異常に冷たくなっていた。死にかけていると思った。

「アル君!!」

「おい、どうした!!」

「アルになにか、……!!」

 気がついたマティスとヴァイルが傍に駆け寄るが、二人も息を飲んだ。

「どうしよう、どうしよう、マティスさん、アル君が死んじゃいます……!!」

「……っ」

 リファは泣きそうな声でマティスにすがった。

 だが、血だまりの量を見たマティスは、言い出せなかった。

 『―――手遅れだ』、と。

「―――」

「ぇ……アル、君!?」

 アルの目が、微かに開いていた。それに、口も。

「―――ねー、ちゃん、さむいよ―――」

「っ、待ってて、今温めてあげるからね……!」

 リファはそう言うと精神を集中させて、さっきより大きな光を手の平に纏わせた。

 恐らくは、強力な回復魔法が発言したに違いない。だが―――

「―――」

 雨にびしょ濡れになっていくアルの体を懸命に治療しても、彼の顔に生気は戻らない。

「ねえ、アル君、何か喋って!?お姉ちゃん、頑張るから……っ!」

「―――と、ぅ」

「え……?」

 微かに聞こえたアルの言葉。

「―――ぁり、が……と、ぅ―――」

 ……そういって、アルは目を閉じ、呼吸を止めた。

「……ぁ」

 抱きかかえていたアルの体が、リファの膝元から崩れ落ちる。

「あ、うあぁあぁ……!」

 リファは、立ち上がった。今、彼女の頭を支配しているのは悲しみではなく、『敵』だった。

 リファは思い出していたのだ。

 黒い張り紙。

 爆発。

 『芸術の花火』。

 ―――この事態を引き起こした犯人が、どこかにいる―――

 そう考えたリファは、全力で走り出していた。

「おいリファ!?どこに行く気だ!!」

 マティスの静止も聞かずに―――




 マティスとヴァイルは、孤児院に残っていた皆の容体を確かめていた。

 壁に吹き飛ばされてかすり傷を負った者もいたが、その程度で済んだようだ。

 全員が正気を取り戻した後、アルの事を話した。

「アル……!!」

「ねーねーどうしたの?アルまだねてるの?」

「アル、おいおきろよー」

 無邪気な子供たちはアルの死を理解できず、呼びかけていた。

 マティスは歯を食いしばって目を背け、ヴァイルは子供たちにこう言った。

「……みんな。アルはもう、起きないんだ。幸せな所へ、呼ばれたんだよ」

「幸せな、所?」

「ああ」

 子供たちは賢かった。ヴァイルの言葉に騒ぐのを止め、アルの周りに寄り添った。

「……アル、ばいばい……?」

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