届け!~彼にキスしたい私の話~
初投稿です。
「ね、キスして」
「…は?」
突然、私の彼氏が恥ずかしげもなくキスを強請ってきた。
私達は付き合い初めて漸く1年になる。
しかしこういったスキンシップを取ってくるのはいつも彼からで、私からはしたことが無い。
「なんか、いつも俺からでそっちからされたことないなって思って。だから、ね?」
そんな、あざとく首傾げられても困るんですけど…!
突然の事態に私は顔を真っ赤にして声を張り上げることしか出来なかった。
「ね?じゃないでしょ!」
「たまにはいいじゃん」
そんなうるうるした子犬みたいな目で見てくるんじゃありません!
「だっ、そ、そなこと言ったって…」
「ね?お願い」
「…っ!」
そう言ってどんどんと距離を詰めてくる彼から思わず後ずさっていると、いつの間にか壁に追い込まれていた。
横に逃げようとすればそっと手をおかれ退路が立たれる。
…に、逃げられない。
どうしよう…と狼狽える私を彼は無言で見下ろしていた。
が、その顔は完全に私を小馬鹿にして面白がっている。
それを見て恥ずかしさよりも苛立ちが込み上げた。
こ、この野郎っ!完全に私で遊んでやがる!
馬鹿にしてっ…!
「やればいいんでしょ!やれば!私にだって、その…き、キスくらい簡単に出来るもの!!」
「本当?じゃあ早速よろしくね!」
そう言って彼は私から少し距離をとると目を瞑った。
因みに、壁に置かれていた腕はさり気なく私の腰に回されているため逃亡は叶わなかった。
「ん」
「…っ」
改めて思うけど…何この状況。
これ、実は私がただただ恥ずかしいだけじゃないの?ねぇ!?
くっ…!頑張れ自分!女は度胸!
私は覚悟を決め、恐る恐る彼の顔へと距離を詰めた。
…が、ここで問題が起きた。
…届かない。
そう、彼との身長差がありすぎて私では全くといっていいほど届かなかっのだ。辛うじて顎…口元には到底及ばない。
…いつも私に合わせて縮んでくれてたんだなぁ。
全然気づかなかった。寧ろ気づきたくなかった。
いや、まぁね。知ってましたよ?勿論。知ってたけどさぁ…
あまりの身長差に人知れずショックを受けた。
しかし、ここで言い訳をさせてもらいたい。
因みに誰がなんと言おうとする。するったらする。てか聞け。
これにはれっきとした理由がある。決して私の背が人よりも小さいとかそんなことでは無い。断じて違う。違うったら違う。
私は至って普通サイズだ。
じゃあなんなのかと言うと、単に彼がデカすぎるのだ。
そう何を隠そう彼、実は身長が190cmもある。もはや巨人。
その為、非常に悔しい事に私との身長差は約40cm。
そしてその身長の大半は実は足である。彼は嫌味な程に足が長い。どのくらいかと言うと彼の腰の高さはだいたい私の肩の高さと同じだったりする。
そんな奴いるの?と思われる方もいるかもしれないが実際にいるの度から仕方がない。
その為、彼と並ぶと私は通常より小さく見られる。屈辱だ。
外を歩いていても年の離れた兄妹に見られがちなのだから困りものである。何が困るって、彼がロリコン認定されるのだ。まぁ、彼はさほど気にした様子は見せないのだが…私が気にする。
だから、彼をロリコン認定する方々に言いたい。
私はロリじゃない!!!
こんな見た目ですが私達同い年なんですよ!
なんなら私の方が数ヶ月年上ですが。何か?
なんて、私が軽く現実逃避をしていると待ちきれなくなったのか彼がソワソワしだした。
「まだ~?」
彼は呑気にそんなことを言っている。
おい。さっきからバレてないと思ってるのだろうけど、薄目開けてこっちをチラチラ覗き見してるのわかってるんだからな。
口元が緩みそうなの必死に抑えてるのもバレバレだから!
そんな彼にイラっとした私は無言で彼のお腹目掛けて渾身の右ストレートをぶち込んだ。
「ぐっ!何で…」
「黙って待ってろ」
「はい…」
シュンと項垂れた彼を見て少しスッキリする。
さて、とは言ったもののどうしたものかなぁ。
ここで諦めて縮めって言うのは何か負けた気がして凄く嫌だし…
あぁもぉ!!こうなったら意地でもキスしてやるんだから!この位の身長差何ともないから!絶対届くし!!だって私、小さくないもの!!
「ぐぬぬ…」
最初の羞恥心もどこへやら。私は必死になって背伸びをした。
が、それでも届かない。
もう既に彼の服の襟元を思いっきり引っ張り、彼の顔を私の方に引き寄せているのにもかかわらず唇には届かなかった。
何で届かないの?!おかしくない?!!
ったく、もおー!!
「あの、もう…」
「もう少しだから!黙って待つ!」
「はい!すいませんでした!!」
ビクッと肩を跳ねさせ敬礼をした彼を見てある方法が思い浮かんだ。
…あ!ジャンプすればいいんじゃない?!!
え、ヤバい。超名案じゃない?私って頭良い~!
因みにこの答えに辿り着くまで10分もかかっているのだが…まぁそんな些細なことは置いておこう。
そして私は最後の手段と称し、彼の唇に目掛けてえいやっとジャンプをした。咄嗟に目を瞑ってしまったがきっと予定通りの場所に上手くできたはずだ。
やった!やっと届いた!!
どうだ!これで満足か!
と彼を見上げると…何故か可哀想な子を見る目で私を見下ろしていた。
…彼には何故か、私渾身のキスはお気に召さなかったらしい。
「えー、何その顔。私超頑張ったじゃん」
「うん、頑張ってたのは知ってる。でも…」
「でも?」
そう言って、彼は私がキスしたであろう唇…ではなく顎に手を持っていった。
「顎にしてとは言ってない」
「…口にしたよ」
「残念ながら顎です」
あんなに頑張ったのにも関わらず、結局顎っていうね…。
ま、まぁ。待ちたまえ。
両手を彼に突き出しとりあえず弁明を開始する。
「あの、まぁあれですよ。キスはキスだし良くないですかね?
…あ、それに!キスしてとは言われたけど場所の指定はされてない訳だしさ!ね?!」
別に良くない?ねーいいじゃん!と、私は必死に言い繕ったが彼は誤魔化されても、許してもくれなかった。
ただ無言で顔を両手でゆっくりと覆うとそれはそれは心底呆れましたと言わんばかりの深ーーーい溜息を吐いた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁーーーー…」
その瞬間、私の怒りは最高潮に達した。
「…そ、そんな呆れなくてもいいじゃん!私頑張ったじゃん!てかさ仕方なくない?!!身長差どんだけあると思ってるのさ!…ちょっと、ねぇ!聞いてるの?!」
その時、彼がボソ…と何か言葉を零した。
「…かよ」
「なに?!」
「もー!可愛すぎかよぉ!!」
「…は?」
突然何言ってんだこいつ…
「んもー!何?俺をどうしたいの?!!超可愛い!俺の彼女が超可愛い!知ってた!!でもさぁ、あんなに頑張って背伸びしたり俺の襟元を真剣な顔して必死に引っ張ったりしたのにそれでも届かなくてさ!それだけでも既に可愛くってやばかったのに!最終的にはジャンプし始めてっ!しかも1回じゃ届かないからって何回も!で?何?やっと届いたと思ったら結局口じゃなくて顎!顎チューだよ?!それなのに本人は口にしたと思ってか達成感で満ち溢れた顔しちゃってさぁ…その時点で俺を萌え殺す気かよって思ったよね。その後も、私頑張ったのに!って涙目で俺のこと上目遣いで見つめながら必死に言い訳してきちゃってさ!!本当にもうっもうっ!!俺はも~どうすればいいの?!なんかもう、俺の彼女が可愛すぎて辛い!心臓が痛い!!死にそう!でも死なない!彼女が可愛すぎて死にそうだけど、可愛いからこそ死ねない!」
…私の彼氏が壊れた。
もはや何言ってるのか分からない。分かりたくもない。
そっと彼から距離を取ろうとしたその瞬間。
ガバッと腕を広げた彼は、これでもかと力いっぱいギュウギュウに私を抱きしめるとそのまま私の顔中にキスの雨を降らせた。
「ちょ、やめ!」
「はー!可愛い!好き!」
「聞けや!」
「可愛い可愛い可愛い」
「真顔こわっ!…あ、ちょやめ!」
恥ずかしすぎる行為に限界を迎えた私は顔を真っ赤に染めあげながらも何とか叫び声を上げた。
「い、いい加減にしろー!!」
最後までお読み頂きありがとうございました!
拙い文章ですが楽しんでいただけたならば幸いです。
この作品は顎チューという単語に心惹かれて衝動的に書いただけの話だったりします。
因みに、作中にあった主人公と彼の身長差(彼の腰の高さが私の肩の高さと同じ)…あれ実話です。
非常に悔しい事に、作者と従兄弟(同い年)の実際の身長差だったりします。
従兄弟、リアル巨人。