イカのリングフライっていうのは
イカ。食べたくない。だって、イカだもん。
小さい頃、イカリングフライをレストランで出された時があった。母は笑っていたが、三歳児にそんなものが食べれる筈がない。こいつらは悪の組織の一員だったのだ。しかもイカの悪魔な怪人のお付きと来たもんだから、イカを食わせたいのは確かにだったろうね。でも私は三歳児。イカのような固めのものは食べられる筈がない。それでも出た。私は。
食べた。しかし、驚くほど柔らかい。なぜだろう。知らない記憶の中のイカは、こんなに柔らかくは無かった。歯がまだあまり強くない幼い私でも、噛み切れてしまう程の柔らかさだった。あとになって分かったことだが、私の世界では柔らかい食べ物はあまり良くない食べ物という認識があり、食べられないものは腐っているか、食べれるものは堕落した食べ物として扱われるのだということ。
私は幼心と以前の心が重なった。柔らかくなってしまった哀しみ。イカはこんなもんじゃない、イカは硬いのに。イカは、弱っている。確実に。私は、イカの戦闘員になることを決めた。
私は一度決めるとなかなか曲げない性質で、私は両親の手伝いを若い頃からするようになった。アヤシイ物品を所定の場所に置いたり、イカを市場に安く提供させるために、漁船から出てきた揚げたばかりのイカの選別をしたりした。もっと大きくなってからはイケナイ場所の女の子や戦闘員などをした。
こうして、イカの力は強まり、イカは世界を股にかける大組織へと成長したのである。
はーはっはっはっは。
あれ?
「もう許さない! 私はいい人の所へ行く!」
私は家を出た。イカが嫌いだったんじゃない。イカを使って悪いことをするのが嫌になったのだ。こんなの私の知ってるイカじゃない! イカのリングフライがこんなのだったなら、私は、イカなんか食べない! こんなの、嫌!
そうして、私はイカの悪魔な怪人に与している家から離れて、いい人の居るだろう街に行った。未練はなかった。仕事もあった。私は、イカをいつしか忘れたーーそして。
「ねえ、イカフライあるよ? 誰か食べない?」
思い出したのだ。イカフライ。しかし、棒だった。リングフライではなく、棒のイカフライ。私は、違うイカだが、食べてみたくなった。食べるよ、といって手で摘んで食べた。
かたっ。
硬かった。イカは驚くほど噛み切れず、ずっと噛んでばかりで飲み込めない。私は、泣きそうになりながら、それを口から出して捨てた。イカは確かに良い人で、強かった。しかし、強すぎるがゆえに、誰も寄せ付けない。なんだか。さみしいと、私は口に含んでみて思った。
結論からするに、イカというのは私に合わないらしい。あの通例も実はイカ大王の作った嘘で、硬いイカを食べさせるための口実に過ぎなかったみたいだった。それを教えた、突然できた友達とも、今は連絡を絶ったまま。
イカには未練はない。イカは悪かろうが良かろうが、変な匂いで柔らかく腐っていたり、噛み切れないほど硬かったりするからだ。イカは私を取ったつもりだったが、幼い頃はそうだったにしても、成長した私は前のようにはいかない。イカの悪魔な怪人だって、強くなるたびに倒してきた。それでも。少しも思わないなんてことはない。
イカ。どうか、私に食べさせないで欲しい。
私はイカを思うだけでいい。私の世界のイカは悪すぎたり、良すぎたりする。イカの過ぎる様を見て、自分の行いを正す。そういうイカでいいのだ。私に合うイカは、私の世界にはいないのだから。
だから、食べたくない。イカ。それでも生きろよ。イカ。イカの……馬鹿野郎ーー!!