悪魔使いは三賢人に招待される③
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──5年前、ホーウッドの森
フォーサイス王国南西部に位置するホークウッドの森。
この森はフォーサイス王国と隣国の境目に当たり、精霊女王が張った結界の外部となっている。その為、魔素が多く特殊な薬草の生育している。しかし、一般人の薬草採取や新人兵の訓練に使用される等比較的危険度の低い森であった。
そして、結界の外──国外に当たるので、この森に入るには門を通らねばならない。其処で手続きをするのだが──。
「──君、本当に一人で行くのかい?」
「うん! 師匠に頼まれた薬草を摘みに行くの!」
「だがな……、誰かに摘んできて貰うんじゃ駄目なのかい? 誰かと一緒に森に入るとか」
人の良い大柄な門番の男が眉尻を下げて子供を見ると、フードをしっかりと被ったの子供は肩から下げたポシェットの紐をギュッと握って「僕が行くの! 行けるもん!」と一歩も引かない。
「君一人なのかい? 大人の人は一緒じゃないのか?」
「そうだよ。僕一人で来たの」
先程から何度も続けているやり取りを繰り返しながら門番が頭は抱えた。
──こんな子供を一人で森にお使いさせるなんて、どんな非常識な親なんだ。どうにか引き留めるか、誰かに預けるしかないが、下手な相手に預ける訳にはいかんしな…………。
ホークウッドの森は幾ら一般人も通う危険度の低い森といえ、全く魔獣が出ない訳ではない。森の浅い場所でも通常何人かで連れだってやって来るし、森の奥に行く際には護衛を雇ってる場合もあるのだ。子供を手伝いとして連れている場合もあるが、まず一人で森に入らせることはない。
「──国外なんじゃ、お前さん渋い顔して」
「さっさと手続きしておくれ」
「日が暮れてしまうわ」
頭を抱えている門番に、横から数人の老人が声をかけた。門番が顔を上げると三人組の老人が立っていた。
「こっこれは…………!!」
顔を挙げた門番は老人達を見ると慌てて立ち上がり敬礼をする。子供が不思議そうにその様子を見上げている。
「全く堅苦しい奴じゃ。おや? この子は?」
フードを目深に被った子供に気付いた老人の一人が門番に訪ねる。まじまじと子供を見ていた紺のローブを纏った老人は少し首を傾げた。
「お使いを頼まれた様ですが、流石に子供一人で森に入れることは出来ませんので」
「おや、一人でお使いかい?」
「薬草を取ってくるように言われてるの」
「偉いねえ」
「でも、門番のオジサンが入れてくれないんだ」
頬を膨らませて抗議する。老人の一人がほほほと笑った。
「ほほほ、奴は石頭じゃからのぉ」
「ドミニク様!?」
石頭と言われた門番がぎょっとした顔をする。ドミニクと呼ばれた老人が門番を無視して続ける。
「だが、彼奴も仕事じゃから許してやっとくれ。森には我等と共に入れば良かろう」
「良いの?」
「助かりますが、宜しいのですか?」
嬉しそうに紅い瞳を輝かせた。その側で門番の男が申し訳なさそうにするが、老人達は微笑んだ。
「良い良い。子供一人の面倒ぐらい儂等でも見られるわ」
「ありがとう! お爺さん達!」
「お前さん名前は?」
一番背の低い老人がレヴィの前にかがみ尋ねる。
「僕はレヴィ! お爺さん達は?」
「儂は薬師のドミニク。薬草の事なら儂に聞くと良い」
「医術師のイライアスじゃ。怪我をしても安心せい」
「我は魔術師のフレディ。確率は低いが魔獣が出ても我が倒してやるぞ」
軽い自己紹介を終えると、門番に見送られ意気揚々と4人は森へと入っていった。
◇◇◇
その頃、フォーサイス王国辺境の教会では──
「──アナスタシア様、レヴィを見ませんでしたか?」
茶髪で釣り目がちの凡庸な男ヨハンが、黒髪の妖艶な美女に話しかけた。先程から、養子のレヴィを探しているが見つからないのだ。
「あら、ヨハン。レヴィに何か用?」
妖艶な美女はにっこりと微笑む。彼女がこんな表情する時は何か企んでいるときなのだが、分かっていてもその笑みについ見惚れてしまう。咳払いをして本題に戻す。
「用と言うほどではありませんが、新しい本が手に入ったのであの子に読ませようかと思いまして。あの子を探していたのですが見当たらないのです」
ヨハンは手に持った古い本をアナスタシアに見せると、彼女は苦笑する。
「全くヨハンは勉強ばっかりねえ。レヴィはまだ子供なんだからそんなに勉強ばっかりさせなくても良いのに」
「──そういえば、俺も朝から見てないな」
「ウィルも探してるの? レヴィたらモテモテねぇ」
二人が話していると、ひょっこり金髪碧眼の美しい青年が顔を出す。彼はこの教会のウィリアム神父で希少な精霊使いでもある。理由は不明だか、辺境に左遷させられたらしい。
アナスタシアがからかうようにウィリアムに妖艶な笑みを見せるがウィリアムはそれを睨み付ける。
「あんた何か知ってるだろ」
ウィリアムに睨み付けられたアナスタシアはクスクスと笑うばかりで中々答えない。しかし、これこそ知っているという答えだろう。ウィリアムの目が更に鋭くなると、アナスタシアは口を開いた。
「ええ、少しお使いに行って貰ったの」
「お使い…………ですか? 言ってくだされば、私が行きましたのに」
肩を落として残念がるヨハンをうんざりしたような目でウィリアムが見る。
「あんたはアナが絡むと録な事がない。アナ、ただのお使いって訳じゃ無いだろ? レヴィは何処に行ったんだ?」
ふふっと、アナスタシアは笑って爆弾を落とした。
「ちょっとホークウッドの森までね」
アナスタシアが簡単に言ってのけたその言葉にヨハンとウィリアムは愕然とした。




