悪魔使いは悪役令嬢と夜会に行く⑨
会場とは反対の回廊から小走りに駆けてくる銀髪の少年の姿が目に入った。
「ロイド!」
レヴィは反射的に名前を呼び彼に向かって手を振った。それに対してロイドは軽く手を振り返す。そして、彼はあっと言う間にレヴィの前まで来るとレヴィの手を両手でぎゅっと握り締めた。
「レヴィ何処に居たんだ!? 控室に行ってもいないから心配した!」
ロイドは何故か酷く慌ている様で、レヴィは首を傾げた。しかし、直ぐに理由に気付き、苦笑いを浮かべた。
「えっと……彼は?」
横から青年が尋ねた。レヴィとロイドは揃って彼の方を向くと、彼は不思議そうにレヴィとロイドを見返していた。
「誰だ、こいつ?」
ロイドがレヴィだけに聞こえるように小さな声で尋ねる。
──この人がいるとロイドと話が出来ないな。
そう思い、レヴィは笑顔を取り繕った。
「彼は僕の相棒です。何か問題があった様で……。会場はあちらに真っ直ぐに行けば着きますので、申し訳ありませんが、僕はこれで失礼させて下さい」
レヴィが丁寧に頭を下げると、彼は少し間を置いてから「分かった。ありがとう。気を付けて」と言って会場の方へ歩いて行った。何故か名残惜しそうにしている青年には気付かない振りをした。彼とは初対面でそうされる覚えがない。
「…………」
「ロイド?」
レヴィがロイドに目をやると彼は青年が去った方をじっと見ていた。基本的に他者に興味を持たないロイドの様子を不思議に思いレヴィが声をかけるとロイドはほっとした様子でレヴィの方を向いた。
「レヴィ? 何があった?」
真剣な様子で問いかける。
「歩きながら話そう」
レヴィはロイドに握られたままの手を引っ張って控室に向かって歩き始めた。
◇◇◇
「──精霊女王に会った?」
ロイドはレヴィから話を聞くと眉間に皺を寄せた。彼もリード領での上級精霊との事を思い出したのだろう。元来、悪魔使いと精霊は相性が悪く、か弱い低級精霊等は姿を隠してしまう。
「何かされなかったか?」
心配そうにロイドがレヴィを見つめるので、レヴィはロイドを安心させる様に笑った。
「何も。ただ……顔をじっくり見られただけだよ」
「顔?」
怪訝そうにロイドが眉を顰め、今度はロイドがじっくりとレヴィの顔を見つめる。彼の薄紫色の瞳は真剣そのもので、レヴィはつい吹き出しそうになった。
──何だか、今日は矢鱈と顔をじっくりと見られる日だなあ。
何時も長い前髪で顔を隠しているので、前髪を上げた状態でじっくりと見られるのは落ち着かない。レヴィは少しそわそわと身動ぎをする。
「別に何もついてないが……」
「まあ、そうだろうね!」
暫くしてから、ロイドは口を開いた。その言葉にレヴィは苦笑いを浮かべた。きっと、精霊女王もレヴィの顔に何かついていたから見ていた訳では無いだろう。「でも……」とロイドは続ける。
「レヴィは前髪を上げている方がいいな!」
ロイドが満面の笑みで言った。レヴィは目を瞬かせた。
類稀なる美貌を持つロイドだが、基本的に無表情である事が多く、氷の様に冷たい印象を与える。こうして微笑むとまるで、蕾が花が開く様な美しさなのだ。レヴィですら滅多に見られないその微笑みは貴重である。
「ケイシーは『詐欺だ!』って言ったよ」
少し気恥ずかしくなり、レヴィは苦笑した。まあ、詐欺とは随分と失礼な話だが、レヴィは出来れば目を隠していたい。
「きっと彼奴が素直じゃないだけだ。エミリア嬢もこっちの方がいいと言っていた。ヨハンも、アナもきっとこっちの方が良いって言う」
「ヨハンも?」
真剣な面持ちでロイドが力説する。今日の彼はとても饒舌だ。
──ヨハンにも良いと言われたら悪くはないかな……。
レヴィは地味な養父を思い浮かべた。彼にはよく叱られるが、無理強いはされた事が無い。一応レヴィの意志は汲んでくれているのだ。
──悪くは……ない、のかも?
ちょっとだけ心が揺れた。
◇◇◇
──その後、何も無く夜会は閉会した。帰りにの馬車の中で精霊女王に会った事を告げると、
「まぁ! レヴィ精霊女王様にお会いしたの!?」
とエミリアに酷く驚かれた。精霊女王の姿は国王陛下以外見る事が無いといわれているのだ。
その数日後、レヴィの元に一通の招待状が届けられた。
『ノースブルック候爵家護衛騎士 レヴィ
貴殿を我等三賢人率いる研究塔に招待する』




