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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第一章
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悪魔使いは悪役令嬢を仲間にする⑧

 バチェラー商会を見送った後、所用で出掛けるというオーガストの後をロイドは尾行することにした。


「で、何でお前までついてくるんだ」


 ロイドは呆れた様子で自分の後ろにいるケイシーを見る。彼女は榛色の瞳でキッと睨んでくる。


「私だけ置いてきぼりなんて許さないわよ!」

「何でお前を連れてかなきゃならない……」

「顔だけのあんたを心配してあげてるのよ! 感謝しなさい!」


 ふん!と胸を張るケイシーに対して、ロイドは面倒な。と心の中で悪態をつくと大きな溜め息を吐いてケイシーを見る。


「まぁいい、邪魔だけはするなよ」


 それだけ言ってロイドはオーガストの動きに集中する。オーガストは執務室から出ると屋敷の中を早足で進んでいく。中庭を通り過ぎて今は使われていない旧館の前まで来た。旧館は屋敷の奥にあり、森に面しているコの字型の建物のだ。手入れされておらず壁には蔦が巻き付いており、何とも不気味な佇まいだ。


「オーガストのやつ出掛けるんじゃなかったの?」

「……」

「旧館なんて何のようかしら?」

「……」

「やっぱり、オーガストも何か関係が?……って聞いてるの?」

「うるさい。行ってみれば分かるだろ」


 耳の横で一人喋るケイシーを鬱陶しげな目で見るが、直ぐに意識をオーガストに戻す。適度な距離を取りつつ、後をつける。

 オーガストは旧館の中を早足で進んでいく。コの字型の建物の曲がり角をオーガストが消えた。


「もしかして、気付かれた?」

「いや、多分それは無い」


 ロイドは周囲を見回した。ここで匂・い・もぷっつりと途切れている。転移魔法の類いならば、魔法の残債が残るからロイドにならば分かるだろう。そもそも、オーガストに魔法の素質は無かった。


「この付近を探すぞ」

「わかったわ」


 二人は周囲の部屋も隈無探すがオーガスト処か何も見つからなかった。


「一体何処へ行ったのかしら?隠し通路でもあったりして」


 そう言ってケイシーが壁をコンコンと叩いていく。僅かに音が変わった。


「! ここ音が違うわ」


 ケイシーがロイドを見るとロイドも頷く。


「何処かに入口がある筈だ。だが、取り敢えず一度戻ろう。アイツが消えてから時間も経ってる。戻って来て鉢合わせると面倒だ。夜にもう一度来て確かめる」

「そうね。わかったわ」


 二人は急いで侯爵邸に戻って行った。






 ◇◇◇






 エミリアはモリーから一枚の紙を受け取った。そこにはずらりと人の名前と特徴が書かれていた。


「これは?」


 エミリアは訝しげにモリーに尋ねる。


「居なくなった使用人の名前と特徴、消えた時期です。それと…」


 モリーが言い難そうに顔を歪める。


「使用人がいなくなり出した時期と、オーガストが雇用された時期、バチェラー商会と取引を始めた時期と重なるのです」


 エミリアは目を見開く。声が震える。


「それはつまり、お父様もこの件に関わっているかもしれないということ?」

「その可能性は高いかと」

「そんな……!」


 エミリアは顔を青くする。オーガストとバチェラー商会を屋敷に招き入れたのは侯爵だ。何も関わっていない筈がない。モリーは両手をぎゅっと握りしめる。


「商会が絡んで来た時点で、使用人達は拐われて売られたと考えらるのが打倒かと」


 この国で人身売買は重罪だ。そんなことが分かれば爵位が剥奪されてしまう。下手をすれば、斬首刑だ。モリーは心の内で侯爵に対して悪態をついた。


 ああ! なんて人なのかしら! よりにもよって、人身売買に手を出すなんて!捕らえられればお嬢様は修道院で一生を終えるか、下手をすれば家族揃って斬首刑に処されてしまう。それを知らないわけじゃないでしょうに。こんな事なら、あの愚か者とメイヴィスお嬢様との結婚をもっと反対するべきだったわ!


 メイヴィスお嬢様とはエミリアの母で乳母のモリーはメイヴィスの元侍女だったが、姉妹同然に育っていた。侯爵への怒りでモリーは身体を震わせる。


「モリー、私どうすれば良いのかしら……」

「お嬢様……」


 エミリアはか細い声で問い掛け、モリーの手を握った。泣きたいだろうに、必死で堪えている。その姿にモリーは内心の怒りを忘れてエミリアを優しく抱き締めた。


「本当にお父様のせいなら、私も償わなければならないわ」

「お嬢様……」


 暫くしてエミリアは凛とした顔をモリーに向ける。


 ──バチェラー商会が本当に誘拐した使用人の売買をしているならば、オーガストから使用人の引渡しはバチェラー商会が侯爵家を訪れた日に行う筈よね。今引き留めなければ新しい被害者がでてしまうわ!


 ──私にはモリーしかいない。モリーの協力がなければ何も出来ない。モリーを説得しなければ。


「まずは、消えた使用人達の行方を探さなければいけないわ。バチェラー商会を急いで呼び戻して。私がダレルの相手をするわ」

「そんな! 危険です!」

「大丈夫よ。貴方はその間にバチェラー商会の荷馬車の中を探して頂戴。お願いよモリー、私には貴女しかいないの」


 エミリアはモリーを真っ直ぐに見据える。


「お父様の事だから、きっとまた騙されているだけかもしれないわ」

「ええ、きっとそうです。本当に愚かな人。…バチェラー商会を呼ぶ手配をします」


 モリーはぎゅっとエミリアの手を握りしめた。





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