悪魔使いは悪役令嬢と夜会に行く④
◇◇◇
「ええっと……、キースさんはどうして此方へ?」
テーブルを挟んでレヴィとロイド、キースは向き合っていた。周囲には他の人の気配は無い。どうやら控室では無く、別の部屋。案内してくれた使用人が矢鱈とチラチラ此方を伺っていたのは、ロイドが美少年だったからでだけではなかった様だ。
「君達に聞きたい事があってな」
レヴィは何となく背筋を伸ばした。モリーによく似た雰囲気の彼の目付きが怖い。
──僕、何かやらかしたっけ?
レヴィはここ最近の自分の所業を思い返すが、思い当たる節が無いので首を傾げた。
──『何か事件が起きれば……』、なんて不謹慎な事を考えたけど、それだけでお咎めがあるはず無いし……。
ただ、彼には思考が読まれれていそうで怖いと感じるレヴィである。
「で、何を聞きたいのでしょうか?」
レヴィは無理矢理笑顔を作ってみたが、キースの表情は変わらない。彼の瞳は冷たい光を宿したままだ。
「君達はローズブレイドの出身と聞くが、事実か?」
「はい、そうですが。それが何か?」
レヴィは普通に答えたつもりだが、キースが僅かに眉を顰めたのに気づいた。
レヴィは「ああ、そういう事か」と何となくだが合点がいった。
フォーサイス王国はローズブレイド帝国の圧政に耐えかねた神官の一族が建国した国だ。元は一つの国で両者は言わば敵同士だ。
フォーサイス王国は精霊女王の加護を受けているが、それは元はと言えばローズブレイド帝国のものだった。ローズブレイド帝国は精霊女王を取り返そうと躍起になりフォーサイス王国に何度も間者や刺客を送っていた。
しかし、ローズブレイド帝国で革命が起きた後はローズブレイド帝国をローズブレイド王国と改め、新王が即位した今現在は両国の関係は改善されている。その証拠に今夜の夜会にもローズブレイド王国皇太子が招かれている。
とはいえ、ローズブレイド帝国時代の貴族はまだ現存しており、精霊女王を取り戻そうとする動きはまだあるらしい。
新王が即位したのはレヴィが生まれた頃であり、その頃の国内情勢は芳しくかった。もっと言えば、本当に最悪だった。その為多くの難民がローズブレイドから他国へと流れていたのだ。
その時にやって来た子供が現在フォーサイス王国の貴族、それも三大侯爵家の側にいると言うことはどういった事を意味するのか。考えれば一つの可能性に行き当たる。
──彼等は難民の振りをしてやって来たローズブレイド帝国の間者或いは刺客ではないか?……なんて!
レヴィは想像力を逞しくした。そして、間者、刺客の文字を思い浮かべ、なんて素敵な響きだろうと紅い瞳を煌めかせた。実際は全くの事実無根の話であるが、キースの眉間の皺が深くなったのに気付き自制する。
「僕等をお疑いですか?」
レヴィは目を細めて笑うと、キースも口元だけで笑う。
「可能性は0では無いな。ただ、間者や刺客については難民を受け入れる際の懸念事項であったが、それは君達だけに限ったことでは無い。それにフォーサイス王国は有能な人間であれば難民であろうと取り立てる。三大侯爵家の一つノースブルック侯爵家に仕えているのも偶然かもしれん。それに……」
キースはすっとレヴィの髪を指差した。
「その髪の色。その色はローズブレイドの特に帝国の時代の貴族達は忌み嫌う。特に高位貴族は尚更。そもそも、ローズブレイド出身だと言う必要も無かった筈だ」
「だから、黒では無いと?」
レヴィは自嘲気味に笑うと、横にいたロイドの目が鋭くなった。
「だが、白でも無い。言った筈だ。可能性は0では無いと」
キースは腕を組み直す。
「君達には怪しい箇所が多々ある。完全に信用するには事足りん」
──怪しい箇所ねえ……。
レヴィは過去の自分の振る舞いを振り返る。思い当たる節が有り過ぎた。
──まあ、希少な悪魔使いと人狼の組み合わせなんて怪しさ満点だよね。おまけに『悪の大魔導師になる!!』何て豪語しているし……。
此処にもしケイシーがいたならば、「自覚はあったのね!?」と、つい突っ込みをいれそうな事を考えていたが幸い此処にはケイシーはいないし、彼女がレヴィの思考を読むことも無い。
「! レヴィ!」
レヴィが思考に耽っていると、不意にロイドがレヴィの名を呼んだ。
「会場の方角から悲鳴が聞こえた。何かが割れる音も」
「は?」
「何だと?」
二人の注目がロイドに集まる。
「会場で何か……それって、まさかエミリア様の!?」
「エミリアお嬢様に何かあったのか!?」
レヴィとキースは椅子から勢い良く立ち上がった。
「違う」
ロイドが首を左右振ったので、一瞬安堵するも続いた台詞に二人して部屋を飛び出した。
「エミリア様が巻き込まれているようだ」




