悪魔使いは悪役令嬢と夜会に行く③
◇◇◇
「──ブレッド、怪我の具合はいいのか?」
「ええ、もう大分良くなりました。訓練も通常通りしております」
「そうか、ところでキースは何処に?」
エドワードは会場に行く為の長い回廊を歩いていた。護衛は勿論ブレッドとキースであるが、何故かキースの姿が無い。
「『情報収集に行く』と言っておりました」
ブレッドから短い返答が返ってきて、エドワードは目を丸くした。
──行動早いな!
エドワードはキースの行動力に内心感心した。
「そ、そうか」
「それと」
言葉を続けようとしたブレッドは少しだけ目を泳がせる。その様子をエドワードは訝しんだ。
「それと?」
「キースから伝言で『殿下も情報収集頑張って下さい』と……」
エドワードはつい遠い目をした。
──何故直接言わない? 何故態々伝言にした?
エドワードの胸に様々な思いが渦巻き、一人悶々としていると、その時回廊の先で老人達の話し声がした。
「──今年は身込みの在りそうな子はいるかのぅ?」
「豊作だと良いがの」
「一昨年は良いのがいたが」
少し離れた場所にいるのは、フォーサイス王国三賢人と呼ばれる老人達だ。彼等三人は高齢であるが、それぞれ魔術、医術、薬術の部門を極めた有識者達だ。普段は研究塔に籠もっているが、デビュタントには毎年やってくる。今回もまた貴族の子息令嬢で素質のある子供を探しに来たのだろう。
彼等は夜会等華やかな場を好まないが、デビュタントの時期はちゃっかり参加している。そして、目ぼしい者が居なければいつの間にか姿を消しているらしい。
──自由な方々だ。
彼等三人を羨ましいと思うが、彼等はそれだけの功績成した重鎮達なので納得せざるを得ない。
──ゴォンゴォン……
エドワードは鐘の音とともに会場入りした。既に会場には今回の夜会の招待客達が犇めいていた。鐘の音とともに一同の視線が一身に注がれる。
エドワードの背筋は自然とピンと伸びる。昼間の会には何度か参加したことはあるが、それでも今夜の夜会程の規模では無かった。
エドワードは視線だけ動かし、出席者リストと照らし合わせた。何日も執務室に籠もって暗記したかいもあり、思い他スラスラと情報が出て来て、パズルのピースを嵌めるように当てはまっていく。
──あっ! あれは……エミリア嬢だ。横にいるのはノースブルック候爵。その横はリード子爵家のケイシー嬢……。
エドワードは顔見知りを見つけるとちょっとだけ嬉しくなった。特にエミリア嬢は華やかな衣装に身を包んだ出席者の中でも一際目を惹いた。
純白のドレスは一見シンプルに見えて、彼女が動くたびに静謐な刺繍が光の加減で浮かび上がる。勿論、美しいのは衣装だけでなく、それを着る彼女も美しかった。透き通る白い肌に大きな青い瞳。話に聞く上位精霊は非常に美しいと聞く、きっと彼女がその上位精霊であると言われても納得する程の美しさであった。思わず溜息を漏らしたくなる。
そして、エドワードには、もう一人気になる人物がいた。
──あれは恐らくミランダ・カーネル男爵令嬢……?
何か矢鱈と熱い視線を感じる。それは勿論彼女だけでは無かったが、それとは別に妙な違和感があった。ミランダ・カーネル男爵令嬢自身はふわふわとした茶色髪に大きな緑の瞳をした一般的に言えば可愛らしい令嬢である。具体的に何かと言われたら分からないが、エドワードは彼女をあまり好ましいとは感じなかった。
国王陛下の挨拶も終わり、此の度成人を迎えた貴族の子息令嬢の挨拶が始まった。
「エミリア・ブランドン!」
エミリアの番になり、彼女の名が呼ばれた。人混みの中から彼女が姿を現した。彼女は随分と緊張している様で表情が硬い。ふとエミリアと目があった。エドワードは彼女の緊張を和らげようと微笑んだのだ。しかし、彼女は俯いてしまい、エドワードは余計な事をしたと少し落ち込んだ。
「ミランダ・カーネル!」
挨拶も終わりに近づき、ミランダ・カーネルの名が呼ばれた。ふと、彼女とも目が合った。その瞬間、エドワードの背を虫が這うよなザワザワとした嫌な感じが襲った。
──何だ!?
エドワードは表情を変えないように努めながらも、内心酷く動揺した。対象的に目の前を去って行くミランダ・カーネルは愛らしく微笑んでいる。周囲も特に変化は無い。
──何だったんだ!?
王族への挨拶は一見恙無く終わったが、エドワードの内心は酷く荒れていた。エドワードは自身を落ち着かせる為に息を整えようとしたが、息つく暇もなく呆然としたままの彼の耳に硝子の割れる音と甲高い悲鳴が木霊した。




