悪魔使いは悪役令嬢と夜会に行く①
「──詐欺ね!」
ケイシーは馬車の前で開口一番に言った。
折角、可愛らしいドレスに身を包んでいるのに腰に手を当てて、口をへの字にしている姿は何だか勿体ない。
「詐欺は言い過ぎではないかしら?」
同じく白いドレスに身を包んだエミリアが後からやって来て苦笑する。彼女達が何について話しているかというと……実はレヴィについてなのである。もっと言うなればレヴィの容姿の話なのである。
「とても良く似合ってるわ。レヴィ」
「ありがとうございます」
エミリアが微笑むと特製の騎士服を着たレヴィが前髪のあたりを触りながら落ち着かない様子で礼を言った。レヴィの騎士服は一般的な黒の上着に金の飾りがついている。そして、襟元と袖には瞳と同じ色の真紅の差し色がしてあるのだ。因みにロイドは薄紫である。
何時もは長い前髪で紅い瞳を隠しているが、今日は肩にまで伸びた髪を切り揃え、ハーフアップにしている。そのためレヴィの顔がはっきりと分かるようになっているのだ。その為、ケイシー曰く「詐欺だ!」と言われる程に印象がかなり違っているのだろう。
白い肌に映える黒い髪、そして何よりも神秘的な紅い瞳。何時も絶世の美男子たるロイドの側にいるせいで印象薄いのレヴィだが、地味なだけで決して不細工では無いのだ。
──だからと言って詐欺とは!?
少々、いや大分心外である。
勿論、それをしたのはクリントン商会の女主人──デボラ夫人である。レヴィは大いに拒否反応を示したのだが全く受け入れられなかった。あれよあれよという間に整えられ、完成した姿を見て「私の勘は正しかったわ!!」と高笑いしていた。その姿は何処かお伽噺に出てくる悪い魔女のようであり、レヴィはちょっと羨ましくなった。何故ならば──
──僕は最近悪役らしい事をしていない!
そう思い、内心で奮起してはいるものの行動が伴っていないのだ。
まあ、最初から悪役らしい事など一つもしていないのだが、それは置いておいたとしても此処最近のレヴィのしている事と言えば、真面目にお仕事──エミリアの護衛である。護衛とは言いつつ、ケイシーと共にエミリアのお茶の相手をしたり、ダンスの練習相手をしたりもしている。結構ほのぼの充実した日々を送っていたのだ。
──何か事件でも起きないかなぁ……。
とあまりにも平凡過ぎて不謹慎極まりない事を考えていたりする。
「──やっぱり詐欺だわ!」
「まだ言うの?」
三人は一緒の馬車に乗り込んだ後もとジトッとした目でまだ見てるケイシーにレヴィ苦笑した。
「ところでロイドはお父様と一緒なの?」
「そうだよ」
名目上はロイドもエミリアの騎士となっている。ロイドはレヴィと一緒に乗りたがっていたが強制的に候爵の馬車に乗せられてしまっていた。しょんぼりと下がった耳と尻尾の幻影が見えた気がしたがレヴィは完全に放置する事にした。にしても、マーティン共々随分と候爵に気に入られたようだ。本人は嬉しくなさそうだが。
「ケイシーは王城でお兄さんと落ち合うの?」
「ええ、そうよ」
ケイシーは兄弟が多くその中の一人王城で騎士をしているらしい。彼女と同じ真っ赤な赤毛の為すぐ見つかるだろうという事だ。
他愛ない話をしていれば、あっと言う間に王城の入口についた。貴族街から王城迄は実はとても近いのだ。そして、場所によっては馬車で大通りを行くよりも歩いた方が早かったりする。
日が暮れかけている事もあり、会場となる王城は照らす灯で一層煌めいて見える。レヴィは手順通りに先に馬車を降りて、エミリアに手を差し伸べた。その手をエミリアが緊張の面持ちで取る。
それを見ていた周囲の人々──先に着いていた出席者や王宮の使用人達主は思わず息を飲んだ。まるで、お伽噺話の中から出て来た美しい姫君が馬車から降りてくるのだ。自然に目が惹きつけられない訳がない。
「あれは?」
「ノースブルック候爵家か!」
「実に美しい!!」
「問題を起こしたばかりなのに図々しい!」
「あのドレス素敵だわ」
レヴィがエミリアをエスコートして一歩一歩進むごとに賛美する声や中傷する声が聞こえてくる。エミリアの手からは緊張が伝わってくるが、レヴィはこの状況にほくそ笑んだ。
──これでこそ悪役令嬢のデビュー!
レヴィの内心が伝わったのか、ケイシーのジトッとした視線を感じたが、レヴィは気にしない。
先に到着していたマクシミリアンの前までエスコートするとレヴィは一歩引きロイドと並んだ。
「行ってくるわ」
エミリアが二人に声をかけるとレヴィとロイドは二人並んで騎士らしく頭を下げた。
「「行ってらっしゃいませ」」




