悪魔使いは悪役令嬢と王都に行く⑦
「──さっきの客、王子殿下らしいぞ!?」
「それは本物なのか!?」
囁く使用人達の声をモリーはひと睨みで一蹴していく。その視線は彼女の息子キースよりも鋭く何処か貫禄がある。それもその筈、彼女はエミリアの母付きの侍女として輿入れの際にノースブルック侯爵家にやって来たのだ。そして、同時にエミリアの乳母でもあった。当然ノースブルック侯爵家にいる期間も長い。以前の騒動で多くの古参の使用人達が解雇されてしまった後であるので尚更だ。今現在、古参の使用人を呼び戻している最中であった。
「…………」
応接室の周辺でヒソヒソと話し合う使用人達を追い払うと応接室の前で立ち止まった。そして応接室の前に盗み聞きしようとしている面々に鋭い視線を向け、溜息を吐いた。そこには彼女が大事に大事にお世話してきたお嬢様──エミリアの姿もあったからだ。
「お嬢様まで何をなさっているのですか?」
モリーが低い声で言うと、くるりと気不味そうな顔が3つ彼女の方を向いた。レヴィを先頭にケイシー、エミリアの順で並んでいる。
──全くもって悪影響しかないわ!
モリーは内心憤慨した。エミリアは由緒正しき侯爵家の令嬢である。少々内向的な面はあっても、常に礼儀正しい淑女であった。たとえ他人にどう思われていてもモリーにとってはそうだった。断じて盗み聞きをするようなお転婆な娘では無かった。
──ロベルトさんも何を考えていらっしゃるのかしら?
正直、エミリアに友人が出来ること自体は大変喜ばしい事と思っている。しかし──。
──じゃじゃ馬娘と変わり者なんて!!
せめて貴族らしいもう少しお淑やかな令嬢であれば良かったのだが、と内心で嘆息した。
ケイシーは確かに由緒正しき貴族の娘ではあるし、レヴィは護衛としては申し分ない。あれでいて、二人ともマナーや礼儀は弁えておりそれなりに教養もあるので、無い物ねだりと言えないこともないが、「何かが違う!」と思うモリーだった。
「モリー……ごめんなさい」
エミリアが気不味そうに顔を俯かせた。その姿を見てモリーは少し心が痛んだ。
「エミリア様、令嬢が立ち聞きなど無作法です。気付かれる前にお部屋にお戻り下さい」
モリーが出来るだけ表情を変えないように厳しく言うと、エミリアは悲しげに眉を寄せ二人を連れて部屋に戻って行った。
──これもエミリア様の為よ!
モリーは内心で密かに奮起した。
◇◇◇
「モリーを怒らせてしまったわ」
エミリアは部屋に戻ってから何回目かの溜息を吐いた。しょんぼりするエミリアにレディとケイシーは顔を見合わせた。
「別にモリーさんは怒って無いですよ」
「そうかしら?」
苦笑するレヴィにエミリアは首を傾げた。「そうだよ」とレヴィが言うと、ケイシーも同意する。
「それより、どうしてモリーさんに侯爵様が心配だから様子が気になったって言わなかったのよ?」
ケイシーが少し口を尖らせる。彼女はまどろっこしい事が嫌いなのだ。口調も何時の間にか砕けているがこれはエミリアの希望でもあるのでそのままになっている。
「言ったら、きっとモリーを心配させてしまうわ」
エミリアが困った様に眉を八の字にすると、二人は苦笑した。
「そう言えば、レヴィは王子殿下とどうやって知り合ったの?」
「それは買い出しに行って……」
「違うでしょ」
「むぅ」
ケイシーが容赦無く突っ込むと、レヴィが口をへの字に曲げて黙り込む。
どう見てもさっき知り合いましたという気安さでは無かったとエミリアとケイシーは感じたのだ。実際、レヴィとエドワードが会ったのは2度目であり、その考えは正しい。しかし、一度目に会った事はレヴィもエドワードも忘れていたし、気安いのレヴィの性格故であり、ほぼ嘘は無い。しかし、そんな事は知らないエミリアの頭に疑念が浮かぶ。
──レヴィは実は何処かの貴族の子女なのでは無いかしら?
立ち振る舞い、礼儀作法は下手な令嬢子息よりもきちんと身に着けられていた。旧ローズブレイド帝国の元貴族であるレヴィの養父──ヨハンの影響だとしても素地がある様に思われたのだ。
──ローズブレイドでも高い魔力を持つものは貴族に多いというし……。黒髪を厭うローズブレイド貴族が産まれたレヴィをスラムに捨てた、というのも有り得ない話では無いわ。
等々一人想像力豊かに働かせては、納得するエミリアであった。
──あまり、問い詰めては駄目ね。
エミリアはそう結論付けた。今はそれどころでは無いのだ。
「──まあ、今はいいわ」
渋い顔をしていたレヴィにエミリアが言うとレヴィの表情がぱっと明るくなる。
「もう暫くしたら、デポラ夫人がドレスを持って来るそうなの。貴方達にも用意を手伝って欲しいの。いいかしら?」
エミリアが二人に尋ねると、レヴィの赤い瞳が輝いた。
「夜会の準備ですね!!」




