第一王子は護衛騎士と捜査する⑤
「まさかあんな事になるなんて」
一連の騒動を思い出して、マクシミリアンは泣き笑いの様な顔をする。
「私は愚かなだけでなく、人を見る目も無かった。子供たちにまで迷惑を掛けて……! 亡き先代侯爵にも顔向けが出来ない!!」
マクシミリアンは膝の上にある掌をぐっと握りしめた。
「それは……!」
エドワードは言いかけて言葉を詰まらせた。
「悪いのはオーガストという男です。侯爵様を騙そうと近づいたのでしょう」
キースがエドワードの言いかけた言葉を代弁したかの様に言うが、マクシミリアンは首を左右に振った。
「私がもっと早く気付いていれば良かっただけの話です。気付く機会はあったでしょう。それにオーガストにも何か事情があったのかもしれない。今回の件ではノースブルック侯爵家の家名を汚し、エミリアにも心配を掛けました」
──あまりにもお人好しな……。
そうエドワードは思ったが、エドワードは何も言わなかった。マクシミリアンはオーガストという男に騙されたのだ。だか、彼が騙されていたのだとしても彼のした事は変わらない。それを一応は一国の王子の立場にある自分が言うのは憚られたのだ。
「相手は用意周到でした。もしかしたら、四年前の夜会も仕組まれていたのかもしれません」
苦々しい顔でキースが続けた。彼にとっては侯爵は身内の主人でもある味方をしたいのだろう。
──確かに……少し飛躍し過ぎかもしれないが、全く可能性が無い訳では無い。
貴族社会の次期侯爵という立場上、潰したいと考える輩も当然いるだろう。
「侯爵、正直に答えて下さい。四年前、一体誰がその夜会に招待したのですか?」
「それは……」
その質問にマクシミリアンは一瞬はっとしてから目を泳がせ、口篭った。
──なんだろう??
先程までと様子の違うマクシミリアンの様子にエドワードは眉を顰めた。彼の性格上自分の保身に走っているとは考えられなかった。
──誰かを庇っている?
「侯爵、どうされましたか?」
「エドワード様、その、招待した人物は何か罪に問われるのでしょうか?」
エドワードが尋ねると、おずおずとマクシミリアンかが尋ねた。
「場合によります。相手に悪意があった訳でなく、たまたまオーガストがその場に居合わせただけであるなら何の罪にもならないでしょう」
エドワードの答えを聞くとマクシミリアンは少しほっとした顔をした。
「実は……あの夜会に招待したのは……」
それでも躊躇いがちにマクシミリアンは言葉を続けた。
「第二王子のヨーゼフ様なのです。ですが、あの当時ヨーゼフ様はまだ八歳でした。何かを企む等ありえません」
この答えにエドワードと二人の護衛──キースとブレッドは互いの顔を見合わせた。そして、エドワードはどうしてこの件に自分が抜擢されたのか、その理由を理解したのだ。
──この件には現王妃派が関わっている!?
エドワードは肌を粟立たせた。
──きっと王様は現王妃様が関わっていると睨んでいる。故に第一王子である僕を抜擢したのだろう。
エドワードの背中を冷たい汗が伝う。気が遠くなりそうだ。様々な可能性がエドワードの頭の中を駆け巡る。エドワードは頭を抱えたくなった。
──確かに侯爵の言う通り八歳のヨーゼフが企んだとは思えない。だけど……。
ヨーゼフがその夜会にマクシミリアンを招いた理由はまでは分からない。しかし、ヨーゼフに悪意は無かった筈だ。ただヨーゼフの背後にいる者が彼を唆した可能性は否めない。
──でなければ、中立の立場にあるノースブルック侯爵が『現王妃派』の夜会に出席出来る筈が無い。
エドワードは考えを放棄したくなる。何とか表情を保っているが、時々表情が引きつりそうになった。
──下手をすれば、王妃派と対立する事になる。僕の平穏は何処に……!!
エドワードは迂闊にも『王妃派』の夜会に出席したマクシミリアンとその夜会に招待したヨーゼフを恨みたくなった。
「──侯爵、オーガストについてはまだ調査中です。今後も侯爵の協力を仰ぐ事となるでしょう。また、本日侯爵家を訪れた事はどうか内密にお願いします」
エドワードは絞り出すように言った。念の為、侯爵家を訪れた事は内密にするように念を押しておいた。
「はぁ……」
侯爵邸を後にしたエドワードは深い溜息を吐いた。




