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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第四章
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第一王子は護衛騎士と捜査する④

 使用人達の大絶叫にエドワードは目を瞬かせた。


 ──何か自己紹介を間違えただろうか?


 エドワードは明後日の方向に考えを巡らせた。彼が関わる人間というのは元から彼が王子であると知っている人物か、彼が王子だと言っても信じない人物──王族とは縁も所縁も無いような唯の一般市民等だった。その為、ノースブルック侯爵家の使用人達のような反応は初めてだったのだ。


「此処で立ち話もなんですし、応接間にご案内します」

「ああ、頼む」


 気を利かせたノースブルック侯爵マクシミリアン・ブランドンがにこやかに言うとエドワードは頷いた。勿論、ノースブルック侯爵はエドワードが第一王子である事を知っていた。


 ──キースがノースブルック侯爵と知り合いならば、最初から訪ねれば良かった。


 ちらりとエドワードはキースを見るが、彼に表情の変化は無い。


 ──しかし、もうデビュタントの時期だったか……。


 このところオーガストの行方を探し回っていたせいですっかり頭から抜けていた。マクシミリアンにはエドワードと同じ年頃の娘がいる事は既に知っていたが、人身売買未遂事件の事もあり、正直今回のデビュタントは避けると思っていたのだ。


 ──にしても、本当に綺麗な娘だな。


 エミリアがエントランスに現れた瞬間、光り輝く妖精が現れたのかと思った程だ。

 日の光を浴びて輝く柔らかな金髪に白い肌、やや吊り目がちの大きな青い瞳は猫の様で愛くるしい。流石『社交界の薔薇』と謳われていた侯爵夫人の血を引いているだけはある。彼女の美しさは亡くなった今でも吟遊詩人に謳われるほどだ。


「エドワード様」


 不意にキースに呼ばれ、そちらを向くと何故か途轍もなく冷たい目で見られたので、エドワードはギョッとした。


 ──僕、何かしたか!?


 エドワードは考えを巡らせたが、思い当たる節がなく頭の中に疑問符を幾つも浮かべた。

 そうこうしている内に応接間に通された。エドワードはソファに二人の護衛はその背後に立った。応接室は質素に整えられていたが、調度品はよく見れば品のあるものばかりだった。


「早速だか、本題入らせて貰う」


 エドワードは居住まいを正して言うと、ノースブルック侯爵の顔が緊張で強張った。


「現在オーガストという男を此方でも探しているが、手掛かりが少なくてな。詳しく事情を聞きたい」

「どの様な事がお知りになりたいのですか?」

「オーガストとはどの様な経緯で会ったのかという事だ」


「ですが、それは既に報告書で伝えてありますが……」


 侯爵は小首を傾げる。


「それは分かっている。何か見落としている事があるかもしれない。もう一度話を聞かせてもらえないだろうか」


 マクシミリアンはオーガストと出会った日の事を思い返した。


「あれは……」



 ◆◆◆



 四年前とある夜会へ出席した時の事だ。その日は少し飲み過ぎてしまい、テラスで少し風にあたっていた。


「お加減がよろしくないようでしたら、別の部屋にご案内致しますが?」


 余程具合いが悪そうにみえたのか、背の高い声使用人の男がマクシミリアンに話し掛けて来た。


「いや、良い。少し風に当たれば良くなるだろう。声を掛けてくれてありがとう」


 そう言うと、使用人の男は驚いたかの様に目を見張った。


「では」


 直ぐに気を取り直して、を水の入ったグラスを侯爵に手渡した。準備していたのか水はよく冷えていた。


 ──まるで、ロベルトの若い時の様だな。


 背の高い使用人に、某執事の姿を重ねた。彼は何でも卒無くこなし、堂々としていて、尚かつ主人の前では一歩引いていた。マクシミリアン自身も雇うならば是非ともロベルトの様な執事が良いと思っていた。

 この頃、先代侯爵がマクシミリアンを後継者にと推挙したのだ。ノースブルック次期侯爵に選ばれたマクシミリアンは期待に胸を踊らせるよりも、不安の方が大きかった。何年も前から、侯爵自身にそう宣言されてはいたが、同年代で能力的にも優れた親戚は何人もいたし、そもそも誰も信じていなかったのだ。何より彼自身が信じていなかった。


 ──私も現侯爵様の様になれるだろうか……。


 そう一人思考に沈んでいた。


 それから暫く経った頃。先代侯爵が亡くなり、国王に拝謁する為、王都を訪れた時の事だった。


「出て行け!」


 馬車の外から怒号がした。同時に水の音もした。

 マクシミリアンが馬車の窓からその様子を伺う。水をかけられたのだろう背の高い男がびしょ濡れの状態で立っていた。


 ──あれは……?


 マクシミリアンは男に見覚えがあった。数年前の夜会で声をかけてくれた使用人だったからだ。侯爵は慌てて馬車を停めると男に声をかけた。


「──以前勤めていた伯爵家が没落し、新たな貴族のお屋敷で勤める事になりました。しかし、ご覧の通り……。お恥ずかしい限りです」


 男は俯きがちに言った。そこでマクシミリアンは閃いた。


「なら、家の屋敷で働けばいいよ!」


 ──名案だ!


 そうその時のマクシミリアンは思ったのだ。



 ◆◆◆






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