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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第四章
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挿話 不思議な子

 その子と出会ったのは母である王妃が亡くなって間もない頃の事だった。


 ──フォーサイス王国王宮──


 此の国の第一王子エドワード・ヘンリー・フォーサイスは王宮の自室でひっそりと泣いていた。普段は皆がいる手前明るく振る舞っているが、自室に一人きりになると涙が溢れて来るのだ。そういった時は、ひっそりと枕に顔を埋めて泣いた。


 フォーサイス王国は精霊の丘を中心として、精霊が多く住まう地だ。其れ故、他国に比べ精霊の加護が強く、精霊使いを多く排出していた。此の国の筆頭である王族は、皆精霊の加護があり精霊の姿を見ることができた。

 しかし、七歳のエドワードには精霊の姿を見ることが出来なかったのだ。物心着く頃には見えるようになっているものなのだが。3歳下の異母弟は見ることが出来たし、父である国王は生まれつき見ることが出来たらしい。

 エドワードの母は王妃でありながら、エドワードが精霊を見ることが出来なかったことで、周囲から冷遇されていた。

 王である父は、政務に忙しく殆ど会えず、顔を会わせるのは侍従や家庭教師たちばかりだ。彼らはいつも小言ばかりだった。


 『──堂々としなければなりません。

 ──どんな時でも冷静でいなければなりません。

 ──弱みを見せてはいけません』


 そして最後には、必ず


『貴方は此の国の王子なのですから──』


 と言った。

 亡くなった母はエドワードにとって唯一の味方だったが、父には見捨てられているように感じていた。


「君が王子様?」


 枕に顔を埋めてどれくらいの時が経っただろうか、自分以外誰も居ない筈の部屋で突然声を掛けられた。


「だっ誰!?」


 驚いて顔を上げると開け放たれた窓の側に、子供が立っていた。フードを被っているが、年はエドワードと同じくらいだろうか。背はエドワードより拳一つ分くらい低い。

 風が吹いて、フードが捲れて漆黒の髪が顕になった。長い前髪の間から覗く瞳は血の様に赤い。


「ふふっ、驚いた?」


 彼は楽しげに笑っている。


「君は誰?何処から入ったの?」


 警戒したまま問いかける。ここは王宮の一室でしかも王族の居住区だ。いくら冷遇されていたとしても警備もあり、子供だろうと簡単に入れる場所ではない。


 ──この子はいったい何処からどうやって入ったのだろうか。


「何で泣いてるの?」

「……っ!」


 エドワードの問いには答えず、近づいて顔を覗き込んでくる彼にエドワードは頬を真っ赤に紅潮させた。


 覗き込む顔は凡庸だが、赤い瞳だけは爛々と輝いており印象的だった。ふと、エドワードに或考えが過った。


「──君は精霊なの?」


 思わずついて出たエドワードの言葉に彼は目を見開いた後、突然笑い出した。


「まさか! あり得ないよ。君は王族だろう? 何処をどうみれば僕が精霊に見えるのさ! 高位精霊は美男美女の姿をしているし、小さな者は、大人の掌ぐらいの大きさだろう?」

「……っ!」


 エドワードは自分の軽率な発言に益々顔を赤くさせ、ついにぽろぽろと涙を流し始めた。


「っ!? なっ何で泣くの?」

「みっ見たこと無いんだから知るわけないだろう!」

「ふぇ? 王族は皆精霊が見えるんでしょ?」 


 彼はきょとんとした顔をしている。彼は本当にエドワードが精霊が見えると思っていたらしい。


「もしかして精霊が見えないから泣いていたの? 一人で?」

「わっ悪いか!僕は弱みを見せてはいけないし、堂々としてなきゃいけないんだ。此の国の王子だから!」


 思わず怒鳴ってしまって慌てるが、彼は気にした様子もなくドカッとベッドに座り言い放つ。


「いや、しょうもないなって」

「なっ!?」


 ──しょうもないだと!?


 唖然として、口をパクパクさせている。


「君も、君の周りの人達もだよ。だって、君の価値は其だけではないでしょ。それに君は精霊に愛されてる」


 思わぬ言葉に呆然とするエドワードをお構い無しに続ける。


「精霊たちは君を心配しているよ」


  何を根拠に。とエドワードは思ったが、自分に優しく微笑んだ彼の顔は嘘には見えなかった。


「君は精霊が見えるの?」

「精霊だけじゃないけどね」

「?」


 恐る恐る訊ねるエドワードに対して、彼は悪戯っぽく答える。


 ──精霊以外とは何だろう。


 とは思ったがエドワードは聞かないでおいた。


「ところで、君は何をしに来たの? いや、そもそも、どうやって此処に入ったの? 警備の兵だっていたでしょ?」

「警備兵? そんなの居たっけ?」


 彼が惚けて小首を傾げるので、睨むと彼はにやりと笑った。


「どうやって入ったかは秘密だよ。でも、目的は教えてあげる」


 エドワードはゴクリと喉を鳴らした。


「僕はね、未来の敵を見に来たのさ」

「は?」


 未来の敵?何の事?

 エドワードが訝しげに彼を見ると、


「僕の見立だと、君は立派な王様になる」

「精霊も見えないのに?」


 ──精霊が見えない事で冷遇されている僕が此の国の王に? 寧ろ王に相応しいのは、異母弟の方だ。


 エドワードは悔しい気持ちになった。


「其だけが君の価値ではないって言ったでしょ?」 

「……?」


 彼の言う事が理解出来ず首を傾げた。


 ──僕の価値──王族で在ることだろうか。精霊が見える事ではないのなら、王族である事も違うのだろう。なら、僕の価値って何だろう。


「何せ僕は歴史に名を残す悪の大魔導師になるのだから、君は僕の敵でしょ?」

「は?」


 エドワードの思考は一瞬にして停止した。

 爛々と輝く瞳に、拳を握り締めどうだと言わんばかりに、物騒なことを言っているが、雰囲気からして本気らしい。


 ──普通英雄(ヒーロー)に成りたがる物ではないだろうか?


 エドワードだって物語の英雄に憧れてはいる。しかし、何故彼が悪役に成りたいのか理解出来ない。


 ──なんか考えるのが馬鹿馬鹿しくなって来た。


 そう思うと自然に笑みが溢れていた。


「……僕は立派な王様になれるかな?」

「なれるよ」

「本当に?」

「本当に」


 彼の言葉は本当かどうか分からない。けれど、自分が認められたようで嬉しかった。


「だから、僕は立派な悪の帝大魔導師になってみせる!!」


 最後の一言は余計だけど。そもそも"立派な"悪の大魔導師ってなんだ。


「じゃあ、僕達はライバル?なのかな?僕も頑張って立派な王様になるよ」


 ──君に負けないように。 彼は僕に価値があると言った。精霊が見えない僕の価値が何なのか分からない。けれど、目標は定まった。此の国の第一王子だからではなく、彼に負けない為に僕は、此の国の立派な王になると。


「──っと。そろそろ僕帰らないと」


 夜を告げる鐘の音に徐に彼がベッドから立ち上がり、窓の方へ近付いていく。


「待って。ねぇ、君の名前教えてよ!」


 慌てて僕が言うと彼は少し考えてから、「レヴィだよ」と彼は言った。その瞬間強い風が吹いて舞い上がったカーテンが彼を隠す。


 次の瞬間、彼の姿はなかった。窓に近付いていくと窓は閉じらていて


「──やっぱり精霊なんじゃないの?」


 と僕は独りごちた。


 これが僕とレヴィの出会い。



 

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