悪魔使いは悪役令嬢と王都に行く④
──7年前、フォーサイス王国南西部辺境の教会
「てんいまほう?」
レヴィはその日初めて耳にする言葉にルビーの様な瞳を瞬かせた。「そうよ」と目の前にはレヴィの師匠であり尊敬する美貌の魔女──アナスタシアが優雅に微笑んだ。
その日は珍しくこの教会の男性人はそれぞれ所要で出かけて居なかった。因みに、レヴィが居れば一緒にいそうなロイドではあったが、ロイドはヨハンに強制的に連れ出されている。つまり、今この教会にはレヴィとアナスタシアの二人だけである。
「転移──つまり、移動する為の魔法よ」
「ほう!?」
レヴィは期待に胸を踊らせ、瞳を輝かせた。レヴィの反応に満足そうに笑うとアナスタシアは続きを説明した。
「例えばこの教会から町まで一瞬で移動できるのよ。興味無いかしら?」
アナスタシアは小首を傾げて尋ねる。その仕草一つでも周囲を虜にできる程の十分な色香が漂っていた。
「ある!」
レヴィは頬を紅潮させ勢い良く返事をした。その側には此処には止める人物──保護者と某神父はいなかった。
転移魔法とは本来ならば膨大な魔力を消費する魔法である。故に高難易の魔法の一つであった。幾ら魔力量の多いレヴィでも非常に危険且つ難易度の高い魔法であるのだ。
さて、何故レヴィにこの魔法を教えようとしたのかと言うのはこの魔女のみぞ知る謎だが、此処に某神父が居れば確実に「気まぐれでしょう」と結論付けた事だろう。
「──レヴィ行きたい場所を良く想像するのよ」
「うーん」
本来、魔法に必要なのは想像力だとアナスタシアは言う。詳細に想像する事でより精度の高い魔法が使えるのだ。そのおかげでレヴィは最初よりも魔法が少しマシになった。
それ以前は魔法の使えないヨハン指導の元、レヴィは独学で魔法を練習してはみたが、薪に火を起こそうとすれば、周囲一体を燃やし尽くし、コップ一杯の水を出そうとすれば、洪水を起こしていた。僻地での事なので、幸い死傷者は出ていないがかなり物騒である。
現在はコップ一杯分の水が、風呂桶一杯分になったくらいである。現在進行形で修練中だ。未だ多すぎる魔力を制御しきれていない。
「うーん……」
唸りつつレヴィは一所懸命イメージをした。レヴィが最初にイメージをしたのは勿論自室だった。もっともイメージしやすい場所だからだ。レヴィは陣の中に立ち頭の中に殺風景な自分の部屋をイメージする。次第にレヴィの身体が光に包まれ、一瞬まばゆく光るとレヴィは姿を消していた。
アナスタシアはレヴィの部屋に向かいドアを開けるが、そこにレヴィは居なかった。
「あの子何処に行っちゃったのかしら?」
困った風にアナスタシアは首を傾げたが、その表情は全く困った様子は無く寧ろ面白がっている様だった。
◇◇◇
「ここ、何処?」
レヴィが目を開くとそこは全く知らない場所だった。周りは色とりどりの美しい花に囲まれていて庭園の様だ。しかし、辺境にこの様に美しい庭園などは無い。
「嘘……失敗?」
いきなり知らない場所に放り出され、レヴィは呆然としていたが、人の話し声が聞こえてはっと現実に引き戻された。慌てて近くの茂みに身を隠す。武装し武器を持った兵士が2名何やら話しながら歩いていた。レヴィには気づいていない様子だったのでほっと胸を撫で下ろした。
──兵士? 衛兵? 本当にここ何処なの!?
レヴィは酷く混乱した。近くの領主の館よりも大きく警備の為か所々に兵士が立っている。また、暫く様子を見ていると廊下を使用人らしき人や文官の様な人が時折通り過ぎていく。
「──王妃様が亡くなって間も無いというのに、側妃様を正妃に据えるとは……」
「あまり滅多な事を言うなよ。人に聞かれたらどうする」
「ヴィクトリア様の派閥が──」
「やはり、王太子はエドワード様では無く……」
耳を澄ませて通り過ぎていく人々の会話から此処が王宮であるらしい事は何となく察しがついた。
──どうしよう!!?
レヴィは好奇心から王宮内を探検してみたい気持ちと、取り敢えず戻らなければと焦る気持ちで其処から動けずにいた。茂みの中で蹲っていると、レヴィの目の前を光の玉が通り過ぎた。
「精霊……?」
辺りを見回してみると彼方此方に光の玉が浮遊している。それも低位の精霊から中位の精霊までいるようだ。
──森の中でも無いのになんで?
レヴィは首を傾げた。ふらりとその光の玉誘われるままについて行くと庭園の奥の方まで入ってしまった。庭園の奥の方に行けば行くほど人の気配が無く、一見閑散としている様に見える。だが、代わりに精霊が多く飛び交っており、見る人から見れば賑やかだ。
更に進むと開けた場所に出た。其処には白い建物が聳え立っていた。




