悪魔使いは悪役令嬢と王都に行く②
ノースブルック領から王都までは約一週間程の道程だ。しかし、それは一般的にである。これは貴族の馬車。貴族は野宿等しないので当然道中は宿に泊まる。その為通常よりも移動の速度は遅い。
「なんて快適な旅だったの!」
王都に到着し、馬車を降りるとケイシーが感嘆の声を上げた。平民用の馬車とは違い造りもしっかりしている為、揺れも少なく快適なのだ。また、野宿もなく夜は宿に泊まりぐっすりと眠れる。レヴィとロイドの特攻隊とは違うのである。
「良かった。でも、私は狼型のロイドにも乗ってみたいわ」
エミリアが微笑んで言うとケイシーとマーティンが冗談じゃないと首をぶんぶんと勢い良く左右に振って、顔を青くする。その様子にエミリアは不思議そうに小首を傾げた。
「お嬢様。あの様な野蛮な乗り物に乗るの野蛮人だけです。お薦めしませんよ」
話を聞いていたヨハンが横からやって来てそう言って通り過ぎると周囲の面々は何とも言えない顔でヨハンを見た。
──その野蛮な乗り物とそれに乗る野蛮人はお前の養子達だろうに。
とそこに居た面々は総じて思ったのだった。
一方、野蛮人と言われたレヴィはというと
──ヨハンは教会に戻らなくて良いのだろうか?
と考えていた。何故か当然の様にタウンハウスまで付いてきているヨハンを不思議に思うのだった。
◇◇◇
「──あ、お前買い出し行ってきてくれ無いか?」
荷物の運び込みやら片付けやらで使用人達が忙しく走り回るタウンハウス内を散策していると通りすがりの使用人にレヴィは呼び止められた。別にレヴィはサボっていた訳ではない。現在のレヴィの主な仕事はエミリアの護衛である。その為、屋敷内の構造を見ていたのだ。
他の面々はというと、ヨハンやロイドは荷物を運び込む人員として力仕事に回されているし、ケイシーとマーティンはそれぞれ他の使用人に屋敷内の持ち場を案内されている。
護衛としてエミリアの側についていなくて良いのかというと、屋敷内であるし、エミリアにはモリーがついているので、世話係も必要ない。
つまり、レヴィは一人余っていたのだ。
「良いですよ!」
声を掛けられたレヴィは「早速街を王都を散策出来る!」と喜んで承諾した。
店の場所と買う物が書かれたメモを使用人から受け取り、くすんだ色のローブを羽織ると嬉々としてレヴィはタウンハウスを出発した。
「──おお! 流石、王都!」
タウンハウスのある貴族街を出て市場へ向かうとレヴィはその人混みに圧倒された。ランドルフ領も中々の人の多さだったが、王都はそれ以上だ。
彼方此方散策したい気持ちを抑えつつ、メモを頼りに進んで行くが、物珍しさについつい色々な所に目が行ってしまうのは仕方が無いだろう。
ふと、上を見上げると視界に人影が写った。
「あれ?」
──あの人、あんな所で何をしてるんだろう?
建物の上に人がいたのだ。逆光となっているので容姿までは分からないが、身のこなしから大工や工事をする作業員では無さそうだ。
──流石、王都!
怪し気な人影に意味のわからない感動を覚えたレヴィであった。一瞬目を離すと、その人影は直ぐに居なくなってしまった。しかし、レヴィの好奇心はしっかり刺激されてしまったようだ。
レヴィは好奇心を抑えきれず、適当な路地に入り込むと、その周辺にあった物を踏み台にしてひょいひょいと壁を駆け登る。屋根に登るとそのまま屋根伝いに歩いて、怪し気な人影があった建物の辺りまで行ってみるが、周りを見渡してみても周囲に人影はなかった。
──やっぱり、もう居ないかぁ?
諦めて戻ろうとすると、今度は別のものが目に入った。
ローブを着た三人組が多数の破落戸に追われていたのだ。追われている方は一人が負傷している様で、一人が剣を構え、もう一人が負傷した方を支えながら走っている。この様子だと追われている方が破落戸に捕まるのは時間の問題だろう。
──助けるべきか……?
はっきり言ってレヴィが彼等を助ける理由も義理も無い。寧ろ面倒事は御免である。レヴィは決して善人では無い。見捨てるとなれば、躊躇無く見捨てるだろう。翌朝彼等が死体になっていようとレヴィには関係無いのだ。
──さて、どうするか? 王都に来て早々、人を見捨てるのは後味が悪いけど……。面倒事は御免だし。
レヴィが様子を眺めていると、彼等は徐々に路地の行き止まりに追い詰められていく。
レヴィは暫く悩んだ末、動き出した。




