第一王子は護衛騎士と捜査する③
◇◇◇
「──王都の傭兵ギルドで似た特徴の男が居たそうですよぉ」
怪し気な雑貨屋【砂時計】の店主からの報せを受け、エドワード達は傭兵ギルドへと向かっていた。一つの季節を跨いだが、状況は一向に進展しなかった。オーガストと名乗る男の行方はおろか素性も目的も分からないままだ。
「今度は本当になんでしょうかね?」
「分からん。それでも何もしないよりはマシだろう」
疑うキースにエドワードは素っ気無く言い放つ。しかし、こうも進展が無いと疑いたくなる気持ちは分かる。店主の報せもこれが始めてでは無く、その度に動いてはいるが全て空振りに終わっている。
「王都には居ないんじゃありませんか? 俺ならとっとと逃げますがね」
「それは無い」
ブレッドがそう言うとエドワード即座に否定した。言い切ったエドワードに護衛二人は眉を顰める。
「王都の関所には手配書を出してある。関所を通ろうとすれば衛兵が捕まえる筈だろ」
エドワードがそう言うと、キースがぐいっと顔を寄せて来た。エドワードは思わずぎょっとして仰け反った。
「エドワード様、何か私達の知らない情報をご存知なのではありませんか?」
キースが目を細めてエドワードに尋ねるとエドワードはそっぽを向いた。
「ご存知なんですね?」
「王家の機密情報だ」
エドワードは分が悪いと思い、それだけ告げると口を閉ざす。キースもそれ以上は追求はしなかった。エドワードはちらりとキースの方を見るが、涼し気な眼差しの青年の感情は表情からは全く分からなかった。
実はノースブルック侯爵からの手紙には《精霊の剣》についても記載があったのだ。オーガストはこの《精霊の剣》を狙っていた。しかし、これは今では王家と三大侯爵家の主要人物しか知らない事だ。その為、この護衛二人にもエドワードは告げてはいなかった。
──《精霊の剣》が狙われたとするなら、他の三大侯爵家の《精霊の盾》や《精霊の槍》、そして王家の《扉》が狙われる筈だ。きっと奴は機会を伺う為にフォーサイス王国の何処かに潜伏している。
それがエドワードの考えだった。このまま捜査を続けるならばいずれこの護衛二人も《精霊の武具》について知る時が来るだろう。護衛として雇って約2年、この護衛達を信頼していない訳では無いが、報せる必要はあるか、何時教えるべきか悩むエドワードであった。
「──やはり、今回も空振りでしたね」
「だな」
傭兵ギルドから出て来た3人は溜息を吐いた。依頼人を装ってやって来たもののそれらしい人物は見当たらなかった。人の集まる王都だけに新しい登録者は多かった。その中で灰色の髪や青い瞳等という特徴で粗方絞られたものの、それでも素性の分からない者は多かった。
「あの怪し気な店主に似非情報掴まされんじゃありませんか?」
ブレッドがうんざりとした顔で呟く。
「それは無いと思うんだが」
見た目とは裏腹にあの店主の情報は信頼出来る物が多い。何より今回は珍しくあの店主が協力的で、あの男の素性を掴みたがっていたようにエドワードには見えた。
「信頼しているんですね」
少し棘のある物言いでキースが言った。普段感情の見えないキースらしくない様子にエドワードは驚いて彼を見上げた。
「信頼している訳じゃない。あの店主が僕達を騙して旨味があるとは思えないんだ」
「旨味ですか」
何だか納得のいかない様子のキースにエドワードは困惑した。その横でブレッドが突然立ち止まった。
「ブレッド、どうした?」
「付けられてます」
ブレッドの言葉にはっとする二人。
「何時からだ?」
「恐らく傭兵ギルドを出た辺りからです」
「人数は?」
「6、7人といったところでしょうか」
──ブレッドとキースなら何とかできる人数だ。
「どうしますか?」
「もしかすると、例の男の手先かもしれない。何処かに追い込んで捕縛する!」
「「はっ!」」
そう言うと3人は路地に向かって走り出した。すると男達もそれを追って走り出した。
いくつかの路地を曲がった所でエドワードの目の前に銀の光が飛び込んで来た。それはヒュッと音を立てて目の前をすり抜けていく。
「なっ!?」
「エドワード様!」
「くっ!」
驚いて立ち止まるエドワード。更にもう一つ目の前を銀の光が過ぎった。今度は赤色の飛沫が飛んだ。
「ブレッド!?」
赤い飛沫が飛んだ方を見るとブレッドの肩に深々とナイフが刺さっていた。ブレッドの腕からは血が滴っている。
──ナイフ!? 何処から!?
エドワードは慌ててナイフの飛んできた方向を見るが人影は無い。後ろからは複数の破落戸が迫って来ていた。
「ちっ!」
──追われる方になるなんて!
エドワードはブレッドに肩を貸すとそのまま再び走り出した。




