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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第四章
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第一王子は護衛騎士と捜査する①

 夕暮れ時を告げる鐘が鳴る。


 徐々に空が茜色から紫色へと濃い色に変わって行く頃、広い部屋に置かれたベッドに二人の少年は腰掛けていた。

 金髪の少年と黒髪の少年だ。黒髪の少年が鐘の音に気付き、呟く。


「僕そろそろ帰らないと……」


 黒髪の少年は徐に立ち上がると、テラスのある大きな窓に向かって歩いていく。金髪の少年が慌てて黒髪の少年に声をかける。


「ねえ、君の名前を教えて!」


 窓際に立つ少年が振り向く。黒髪の少年は少し考えてから答えた。


「──だよ」


 その時、強い風に煽られたカーテンが黒髪の少年を隠した。風が収まるとすでに黒髪の少年はそこに居なかった──。 



 ◇◇◇



 ──何故こうなったのか。


 傷ついた護衛騎士を背に庇いながらフォーサイス王国第一王子エドワードは冷や汗を浮かべ、自分の運の無さを呪った。

 武器を持った破落戸達は下婢た笑いを浮かべながらエドワード達をじりじりと壁際に追い詰めていく。

 敵は7人、此方は3人しかも一人は負傷している為に此方が圧倒的に不利である。もう一人の護衛が二人庇いながら戦うのは無理だ。ここは街の大通りから外れた裏通りで、助けを呼ぼうにも人通りすらない場所だ。おまけに後ろは壁。


「殿下、お逃げくださいっ!」


 額に脂汗を浮かべ、負傷した騎士がエドワードに言うが、エドワードは首を横に振る。


「無理だ。この状況では、逃げられない」


 ──完全に詰んだな。


 エドワードの頬を冷や汗が伝う。


「ねえ、お兄さん達何してるの?」


 空気を読まずに破落戸の後ろから暢気な声をかけてくる者がいた。


「カツアゲかな? それとも追い剥ぎ?」

「何だテメェ?」


 破落戸の一人が怪訝そうに振り返るとフードを目深に被った人物がいた。くすんだ色のローブに隠された肢体はしなやかだ。少年だろうか。


「面倒なところを見られた始末しろ」


 エドワードがはっとして破落戸の後ろにいる少年を見る。


「何してる! 早く逃げろ!」


 エドワードが声を荒げるのと同時に破落戸の一人がその少年に襲いかかる。少年は無駄の無い動きでヒラリとかわす。そのまま破落戸の腹を蹴りあげた。蹴り飛ばされた勢いでもう一人ごと後ろに倒れ込んだ。三人目が剣をふり上げて襲いかかるがこれも難なくかわし、再び剣を振り上げたところで下手に入り腹を蹴り飛ばす。四人目と五人目の男が両側から襲いかかるが、少年が上に高く飛び上がると勝手に相討ちになった。その上に少年が降りると今度は六人目が殴りかかってきたが、少年は壁をつたい高く飛び上がり空中でひらりと身を翻し六人目の頭を踏み台にし、そのまま七人目を沈めた。


 ──強い。


 エドワード達は思考が追い付かず呆然としていると、少年が近付いて来た。フードをとると漆黒の髪が露になる。


 その黒髪を見てエドワードは目を見開いた。



 ◇◇◇



 事の始まりはノースブルック侯爵からの報告書が届けられたことからだった。侯爵はある組織に騙され、人身売買に手を貸してしまったそうだ。一度は捕縛したものの、護送中に逃亡した犯人を探して欲しいというものだった。


「──エドワードよ。この件はお前に任せる」


 父の唐突な発言にエドワード自身も重臣達も目を見張った。それもその筈、エドワードは今まで父の国王に冷遇されていたのだ。このような案件を任せる等考えられない。


「返事はどうした」

「はっはい、畏まりました」


 エドワードは緊張の面持ちで答えた。





「──とうとう王様も耄碌しちゃいましたかねえ? 殿下に任せるなんて」

「こら、不敬だぞ!」

「そうですよ。王様はまだ若いんですから」

「そういうことじゃない!」


 不敬な護衛二人を率いて王子は自分の執務室に向かう。こいつらのヒエラルキーはどうなっているのかと頭を抱える。

 何故か第一王子であるエドワードは護衛をつけられなかった。この二人は自分で選んだ護衛なのだが、忠誠心の欠片もないように思える。他になり手いないというのも理由ではあるが剣の腕は確かで奇人変人と有名な二人だった。

 護衛の一人はキース、もう一人はブレッドだ。どちらも平民で貴族ではない。

 キースの家は代々貴族に仕えている。その為礼儀作法等はしっかりと身に付いており、執事や従者の方が向いているのではないかと思ったが、彼自身が騎士職を希望しての事らしい。

 彼の一族が仕えている家が貧乏貴族らしく、その為に騎士になって主を助ける為だそうだ。その忠誠心を少しでも自分に分けて欲しいとエドワードは願っている。

 もう一人は、変わり者で何故か騎士でありながらパン職人を目指しているらしい。もうパン屋で修行しろと言いたい。何故騎士になった。しかも、腕が立つのが腹立たしい事この上ない。


「さて、まず何処から取り掛かろうか。お前達何か良い案はあるか?」

「とりあえず、ノースブルック領を訪ねてみてはいかがですか?」

「成る程」


 珍しくブレッドから良案が出た事にエドワードは驚いたが、その驚きも数秒と持たなかった。


「ノースブルックは小麦の産地ですから、パンを作るのに最適な小麦粉が見つかるかもしれません」

「僕らはパンを作りに行く訳じゃない。パンから離れろ」


 ノースブルック侯爵に直に話を聞きたいが、ノースブルック領に行ってもこいつら仕事しないんじゃないか? という疑惑が思い浮かんだ。


「逃げた男の足取りを探ろう」


 それが一番てっとり早いだろう。王都に潜伏している可能性もあるだろうと思い、エドワードは護衛二人を振り返った。


「…………」


 何故かとても不服そうな護衛二人の顔は無視することにした。








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