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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第三章
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悪魔使いは潜入する⑳

 

 悪魔による魔障が消えた事で、フィンレーは久しぶりに穏やかな微睡みの中にいた。

 奇妙な病に罹っていた間は、眠る度ずっと悪夢に苛まれていたが、今は驚くほど身体が軽く気分も良かった。

 それでも心につかえていることもあり、フィンレーは最後に兄弟達と過ごした時間を思い出していた。




 ◆◆◆



 ──数カ月前に遡る。



 その日、ランドルフ侯爵家次男フィンレー・ランドルフは兄のベンジャミンと弟のブレイクと共に野外学習に来ていた。この講義の講師は医師のテオドール。野外で怪我をした場合の応急処置法をランドルフ領郊外の森で実習する為だった。

 兄のベンジャミンとフィンレーは王都のアカデミーに通っており、この授業は修了済み。つまり、殆ど弟のブレイクの為の授業であった。しかし、この時ベンジャミンとフィンレーはアカデミーの長期休暇で一時的に帰省していた為、弟と共にこの講義に参加していた。


「兄さん! 兄さん!」


 テオドールからの課題の薬草を探して森の中を散策していると、ブレイクが大きな声を出した。見ると繁みの側でブレイクが蹲っていた。


「ブレイクどうした!?」


 この森は魔物が出ない比較的安全なもりであったが、怪我でもしたのかと、ベンジャミンとフィンレーがブレイクに駆け寄った。


「この繁みの奥に何かがいるみたいなんだ!」


 ブレイクが母親に似た青い瞳を輝かせながら言った。彼は動物好きできっと犬か猫がいると思ったのだろうと、ベンジャミンとフィンレーは微笑ましく思った。彼等はブレイクと同じ様に屈みこんで繁み奥を覗き込む。確かにガサガサと暗い繁みの奥で何が動いているのが分かる。


「確かに何か居るみたいだな。もしかしたら、犬か猫が怪我をしてるのかも……。フィンレー、テオドール先生を呼んで来てくれ」

「わかった」


 ベンジャミンに言われ、フィンレーはテオドールを呼びに戻った。数分後、フィンレーに連れられてやって来たテオドールも「どれどれ」と言って繁みを覗き込んだ。


「何かいますか?」


 ブレイクが瞳を輝かせて尋ねるが、テオドールは苦笑した。


「何か居るようですが、よく見えませんね」

「俺が見てみよう」


 フィンレーがもう一度繁みを覗き込むと此方を向いた赤い一対の瞳と目があった。


「!?」

「どうした?」


 驚いてフィンレーは後ろに仰け反った。ぞわりと背筋が寒くなるのを感じた。何度も目を擦り、恐る恐るもう一度見てみるが、その目は既に無く音もしなくなっていた。


「もう、いないみたいだ……」


 フィンレーは一人首を傾げていたが、その日は何事も無く無事に過ぎていった。


 その後、三人は高熱を出し、兄ベンジャミンと弟ブレイクは帰らぬ人となった。



 ◆◆◆ 



 ──今なら分かる。きっとあれが元凶だったのだ。


 フィンレーの頬を一筋の涙がつたった。

 何故自分だけ助かったのか、何故兄弟達が死ななければならなかったのか。そして、()()()()の事。フィンレーの心中は複雑だった。しかし、睡魔の押し寄せる中考える事もままならず、フィンレーは夢の中に落ちていった。



 ◇◇◇



 ──薬屋【宿り木】


 ランドルフ侯爵家の事件は一応一段落したので、一向はランドルフ侯爵邸を去り、サイモンの営む薬屋【宿り木】に集まっていた。ランドルフ侯爵とアラスター執事は納得いかない様子ではあるものの、報酬はきちんと支払われるそうだ。

 庶子であるマーティンの処遇については、フィンレーの体調が戻るまで保留となった。ランドルフ侯爵であるハリソンにあまり歓迎はされていない様子だったのでマーティンは正直ホッとしているらしい。ただその間、リード子爵がマーティンの後見人となるが、基本的には今とそう変わらないらしい。

 今回悪魔に操られていたテオドールは()()()心を病み教会に引き取られ療養する事となった。

 実はこのテオドールという男は、実直さとは裏腹にかなりの野心家だったらしい。医療の最先端であるランドルフ領で名を残したかったらしく、その野心に悪魔に付け込まれたのだ。


「──別に夜に侵入したり、小細工するよりランドルフ侯爵に直談判した方が良かったんじゃないの?」


 一連の出来事を悔しそうに聞いていたケイシーの言葉にマーティンがあっと声を上げる。そして、サイモンとレヴィを青い顔で振り返った。


「いざと言うとき逃げられないだろう?」

「スリリングな経験が出来たでしょ?」

「…………」


「牢屋云々は冗談では無かったのか……」とマーティンは顔を更に青くさせた。


「まあ、結果オーライだったんだから」

「アンタね」


 にこやかな笑顔のレヴィに対しケイシーは呆れている。しかし、ふと何かを思い出したのかニヤリと笑って言った。


「それより、レヴィ。いい加減、悪の大魔道士なんて諦めたらどう?」

「それはイヤ」


 レヴィは一瞬目を丸くしてから、直ぐに拒否した。


「なんだいそれ?」


 首を傾げるサイモンにケイシーが掻い摘んで話しすと、サイモンは可笑しそうに笑うが、ケイシーは少し不貞腐れている。


「そもそも何で悪の魔道士になりたいのよ?」


 ケイシーが身を乗り出してレヴィの赤い瞳を見据えた。


「それはね」

「それは?」


 レヴィはしっかり勿体ぶってから言い放った。


「秘密!」





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