悪魔使いは潜入する⑮
◇◇◇
──リード領
「私にしか出来ない事って……」
リード領の森の中を精霊の泉へと向かって歩きながら、ケイシーはぼやいた。内心ではマーティン達とランドルフ領に行けると思っていたので不満を垂れ流している。
「まぁ、お前にしか出来ないだろ」
呆れ混じりに隣を歩くロイドが言うと、ケイシーが「分かってるわよ!」と言わんばかりに榛色の瞳で睨んだ。
「で、精霊様の所に行くのよね?」
「ああ。リード領とランドルフ領は隣同士だし上級精霊が何か知ってるかもしれないってレヴィも言ってただろ」
「そうだけど」
不満そうにケイシー呟く。
──確かにリードの一族である私になら精霊様も何か教えてくれるかも知れないというのはわかるけど……。
「これはレヴィには出来ない事だ。あれだけ危険な目にあったんだ」
当然の様に──当然なのだが──言い放つロイドにケイシーは苛立った。
「もう! 分かってるわよ!!」
──コイツと一緒っていうのが嫌なのよ!
ケイシーはキッとロイドを強く睨みつけ、心の内で叫んだ。
その時、ケイシーの目の前にふわりと人影が現れた。
「リードの娘が何をしに来た? 妾に会いに来たのか?」
「きゃあ!?」
ケイシーが突如現れたウンディーネに驚いて飛び上がった。気付けば既にロックウェルの泉に辿り着いていた。また先日と同様に強制的に転移させられたらしい。現れたウンディーネは先日現れた時より随分と機嫌が良さそうだ。
「そっ、そうよ! 驚かさないで!」
驚きでバクバクと音を立てる心臓の辺りを抑えながらケイシーが思わず言い返すと、ウンディーネは一瞬目を丸くした。彼女は直ぐに「しまった!」と思い直し、ウンディーネの様子を伺い見る。一方のウンディーネは「すまぬな」と一言そう言っただけで特に気にした様子は無く、寧ろ心底楽しそうに笑っている。ウンディーネの様子にケイシーは胸をなでおろした。威圧感はあるがレヴィがいた時よりは空気が柔らかく感じるのは気のせいでは無い筈だ。
──本当に嫌になるくらい綺麗な顔だわ。
内心ほっとしつつウンディーネの美しい顔をまじまじ見て、そんなどうでもいい感想を持った。そんなケイシーを知ってか知らずか、ウンディーネはその美しい顔をグイとケイシーに寄せた。
「さて、妾に何の用じゃ?」
「ランドルフ領の事何か知らな……知りませんか?」
「ランドルフ領かの?」
「そう……です」
ウンディーネは一瞬きょとんとした顔するが、横にいるロイドに気付くと直ぐに眉間に皺を寄せた。
「その子犬も一緒と言う事は……あの子供に何か言われたかの?」
「俺は犬じゃない」
「そうだけど……そうじゃないわ」
「うん?」
ケイシーの返答にウンディーネはロイドの訂正を無視して首を傾げた。
「私の友達に関わりのある事だから、レヴィに何も言われなくてもきっと私は貴方に聞きに来たわ」
ケイシーは掌をぐっと握り締め、榛色の瞳でウンディーネを真っ直ぐ見た。
──そうよ! マーティンが関係しているのだから、私だって無関係じゃないわ!
ケイシーの様子をふわりふわりと空中を漂いながらウンディーネは面白そうに眺める。
「そうじゃの。あの子供に言われるまま来たのなら気に食わなかった。だが、御主の友人の為と言うならば少しくらいは答えてやろう」
「本当に!? ありがとうございます!!」
ケイシーはパッと表情を明るくする。
「で、何か知ってるのか?」
「ランドルフの奴等なら……何時だったか、妾の泉に咲く花を欲していたな」
「花?」
「何故だ?」
「ランドルフ領には《精霊の盾》を狙って定期的に現れる悪魔、名は確かバルバスと言ったか……奴に使っておった。人間共はアレを“浄化の花”なんぞと言っていたが、アレが出来るのは邪気を払う程度の事よ。本当に愚かよの?」
ウンディーネが泉に浮かぶ半透明の花を指し示しながら、クツクツと笑った。その様子にケイシーとロイドは薄寒さを感じた。
「そういえば、よく似ておったな」
「え?」
「この間、御主と一緒いた子供じゃ。彼奴であろう? ランドルフに関係のある子供とは?」
「何故、そうだと思うんだ?」
「あやつにも加護があったであろう? 目で見て分かる特徴としての」
「加護?」
ケイシーが首を傾げる。その横でロイドがふと何かに思い至る。
「分からぬか?」
「瞳……か?」
ロイドの返答に、ウンディーネは満足そうに笑う。
「瞳?」
「ああ、そうじゃ。あの子供のペリドットの瞳──つまり加護は幸運じゃ」
◇◇◇




