悪魔使いは潜入する⑬
「何だ!?」
「ノエル!?」
けたたましい鳥の鳴き声に驚いたヨハンとハンナが声の方を見ると鳥籠の中で真っ白な梟──ノエルが暴れていた。威嚇しているのか羽をバタバタと忙しなく動かしている。
ぞわりと空気が揺れ、レヴィの寝ている寝台の影から黒い獣が這い出して来た。
「グルルルゥ」
驚いたハンナが立ち上がり、近くにあった火箸を手に取った。
「魔物!? どうやって入って来たのさ!?」
「クルルルルル!!!」
「グオオオオォ!!!」
けたたましく更に梟が鳴き声をあげる。それに対抗するように獣も咆哮を上げた。
「どうしたんだ!? ダンテ落ち着きなさい!!」
黒い獣──ダンテと呼ばれた大型の黒い犬は叫んだヨハンの方を向いた。歯を剥き出して威嚇しながら赤い瞳でじっとヨハンを見据える。
「あの獣は、黒犬……かい? あれは何なんだい?」
ハンナは黒犬から視線を外さずにヨハンに尋ねた。
「恐らくあの子の使い魔だと……」
「なっ! 使い魔だって!?」
ハンナは驚きで目を丸くした。
──あの年で既にこんな強力な使い魔を使役してるのか!?
確かに使い魔を使役するのは幼い子供の内の方が良いと言う。側にいる年月が長ければ長い程、主従の絆が深くなるからだ。しかし、それは弱い魔物や精霊を相手に契約をする場合なのだ。幼い子供が強力な力を持つものを使役するというのは暴走させてしまう恐れもあり、非常に危険な行為である。
「主が眠っているのに出て来るなんて……、まさか暴走でもしてるじゃないのかい?」
「分かりません」
ヨハンは首を左右に振った。その額には冷や汗が浮かんでいる。
「ダンテと意思疎通出来るのはレヴィだけですし……。ただ、ダンテがレヴィを害した事は今まで一度もありませんでした。しかし、その逆はありますが……」
「成程。こいつの狙いは私達の方って訳だね」
今だ殺気立ち「グルルルル」と低い唸り声をあげる黒犬を前に二人にとも動けずにいた。しかし、次の瞬間、黒犬が唸るのをピタリと止めた。
「ん……? よはんどこ?」
寝台の上からヨハンを呼ぶ小さな声がした。レヴィが目を覚ましたらしい。つい今し方まで殺気を振りまき唸っていた鳴りを潜め主の無事を確かめる様に寝台を覗き込んでいる。
「だんて?」
レヴィがダンテの名を呼ぶと黒犬はレヴィへと擦り寄る。その様子はまるで、自分の子供を心配する親の様だ。黒犬は興味を失ったのか、ヨハンやハンナには目もくれない。その黒犬を避けて、ヨハンは目覚めたレヴィの様子を見る為に寝台に近寄った。
「レヴィ目が覚めたのか?」
「うん」
「苦しくないか?」
「うん」
顔はまだ少し赤いがハンナの薬湯のおかげか、熱もひき大分落ち着いている様子だ。
「そのひとはだあれ?」
熱に浮かされた深紅の瞳がハンナを不思議そうに見つめる。
「薬師のハンナさんです。貴女に薬を作ってくれたんですよ」
「そっかあ。はんなさん、ありがとう」
ふにゃりとレヴィが笑ったので、ハンナも表情を緩めた。
「薬が効いたみたいで良かったよ」
レヴィの様子にハンナもほっとする。黒犬は側に控えたままじっとしている。
「だんてはなんでおこってたの?」
レヴィは顔だけ黒犬に向けて尋ねるが、黒犬はくるりと踵を返して影の中に入ってしまった。
「何ですって?」
「んー……わかんない」
レヴィは眉間に皺を寄せた。
「それはもう少し寝ていなさい。明日の朝にはもっと良くなっていますよ」
そう言ってヨハンがレヴィに布団を掛けると、再び夢の中に落ちていった。
◇◇◇
──翌朝
目覚めたレヴィは薬湯の効果ですっかり熱も引いていた。だが、根本的に解決はしておらず、暫くは薬湯を欠かさず飲まなければいけないだろうとの事だった。
「うわあ……!」
レヴィが窓の外を見るて感嘆の声を上げる。一晩降り続いた雪はしっかりと積もっており、一面の銀世界だ。
ハンナによるとここまで雪が積もってしまうと街道も通れなくなるらしく、春になるまで別の町への移動は不可能だそうだ。
ヨハンとレヴィは否応なく雪解けの季節までハンナの家に留まる事になった。その間、ハンナに薬の知識や作り方を学ぶ事になったのだ。
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