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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第三章
52/279

悪魔使いは潜入する⑪

 

 ◆◆◆



 ──9年前


 雪の降る森の中をヨハンは地面を踏み締めながら進んでいた。一歩一歩進むたび雪の上に一対の足跡が長く伸びていく。


「この辺りだと聞いたんだが……」


 ヨハンは立ち止まり、レヴィを「よっ」と背負い直す。そっと顔を見ると、何時もは不健康なくらいに白いレヴィの顔は熱で紅潮している。


「レヴィ大丈夫ですか?」

「うん」


 ヨハンが声をかけると小さな声が返って来る。その声に少しだけ安堵する。


「もう直ぐ着く筈です。もう少しの辛抱ですから」

「……うん」


 背でレヴィがモゾモゾと動いたのを確認するとヨハンはまた歩き始めた。


 二人がローズブレイド帝国を旅立って早1年が経とうとしていた。人目を忍んで進む旅路は厳しかったが、レヴィがこの様な不調を訴えたのは初めてだった。


 ──やはり随分と無理をさせていたのでしょうね。


 何処か無意識にこの子(レヴィ)は大丈夫だと考えていた自分をヨハンは悔いた。


 現在いる地点は、次の町まではひたすら森や山が続き、小さな集落が点在する様な場所だった。

 ヨハンはレヴィを背負い、ただひたすらに雪の降る森を歩き続けた。


 辺りが暗くなり始めた頃、一棟の小さな家が現れた。灯りもついており、中に人が居るようだ。


「ここか……?」


 家に近づいて扉をドンドンと叩くと「誰だい? こんな雪の日に」と不機嫌そうな老女の声が帰って来た。


「申し訳ありません。旅の者なのですが、子供が病になってしまいまして、こちらに来れば薬を煎じて下さるとお聞きし、訪ねて参りました」


 立ち寄った村人の話では、森の外れに代々薬屋をしている老女がいると言う話を聞いた。老女の名はハンナと言い、薬師としてのうではいいが酷く気難しい人物だと聞いていたので、ヨハンは彼女の機嫌を損ねない様に顔色を伺った。村人達からは()()()()と密かに呼ばれているらしい。


「どれ見せてみな」


 ヨハンがレヴィを下ろしてハンナに見せると、彼女ははっと目を見開いた。


「アンタ一体どれ程この子を放っておいたんだい!?さあ、早く寝台に寝かせて!」

「何を……?」


 ハンナは凄い剣幕でヨハンに詰め寄った。その様子にヨハンは驚き、困惑する。ヨハンが言われるがままにレヴィを寝台に寝かせると、ハンナは額に手を当てて考え始めた。


「この子は何か悪い病気なんでしょうか?」

「病気じゃないさ。魔障だ」

「魔障? そんな馬鹿な!」


 ヨハンは訳が分からずハンナに尋ねると、返ってきた彼女の言葉に目を見開いた。


 ──道中、魔物や悪魔には遭遇しなかった。なのに何故だ!?


「……魔力量が多過ぎるんだ。今まで症状は出ていなかったのかい?」


 ヨハンの反応にハンナが更に顔を顰める。


「それは……、つまり()()()()()と言うことですか?」

「ああ、そうだよ」


 ヨハンの問にハンナが頷いた。

 魔力過多症とは文字通り魔力量が多過ぎて自分自身を傷付ける症状の事である。しかし、魔力過多症とは症状が突然現れるものでは無い。成長とともに増幅する魔力によって微細な症状が徐々に出て来るのだ。症状は多岐に渡るが、悪魔使いと特殊な事もあり、ヨハンはその辺りには特に注意を払っていた。


 ──なのに一体何故、突然症状が出始めたんだ……?


 ヨハンは内心で酷く動揺した。


 ──レヴィ自身が無意識に隠していた?


 一瞬浮かんだ考えは直ぐに打ち消した。


「何か処置は出来ないのか!?」

「根本的な治療方法としては体内に溜まった魔力を出すか、完全に魔力を封じるかの二択だ」

「封じるなんて事が出来るのですか?」


 ヨハンがハンナに尋ねるがハンナは考え込んだまま首を左右に振った。


「いや、無理だろうね。魔力量が多過ぎてアタシじゃあ手に負えない。()()()()ならばどうにか出来るだろうが、あの女の元に行くまでその間どうやって凌ぐかが問題だ」


 ──()()()()


「……と言う事は、魔力を放出させるの一択ですね」

「ああそうだよ。だが、魔力が暴発する可能性もある」

「魔力の暴発……」


 溜まった魔力を一気に放出させるのだ、暴発すれば被害は甚大だろう。


「先ずは魔障による傷を癒やす薬を調合する。一時凌ぎだが、熱は治まるだろうさ」


 そう言って、ハンナは乾燥させた薬草を抽斗から出すと調合し始めた。出来上がった薬は一見普通の薬湯の様に見える。出来上がった薬を飲ませると、レヴィは落ち着いたのか静かな寝息を立て始めた。


「まだ熱はある様だが直ぐに治まる」


 ハンナがレヴィの額に触れ、熱を確認するとそう言った。


「ありがとうございます」

「礼はいい。結局は一時凌ぎにしかならないからね。この薬を日に3度飲ませればましにはなるだろうさ」


 ハンナはヨハンに椅子を勧めると自分はその向かいに座った。


「ところで、この子は()()()()()はしているのかい?」

「魔女の誓いですか?」


 ヨハンが首を傾げた。魔女の風習は口伝が多く、あまり人には知られていない。ヨハンも以前魔女に関して調べた事があったのだが、どれも信憑性にかけるものばかりだった。


「ああ、()()()()()()()()()()()()の誓いだよ」



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