悪魔使いは潜入する⑧
「子爵様、お願いがあります。僕もランドルフ侯爵家に行きたいです」
準備を整えて部屋へ戻って来ると、マーティンは開口一番に言った。
「だが……、何があるか分からんぞ?」
ルイスが渋い顔をする。そんなルイスをマーティンは真っ直ぐに見つめた。
「それでも、僕は確かめたいです。僕が本当にランドルフ侯爵の子供なのかどうか。本当なら、僕は……血の繋がった父がどんな人か見てみたい」
ルイスはますます渋い顔になる。
「お前の事だから違うと思うが、もし、マーティンが何かしらの期待を父親にしているならば諦めたほうが良い。理想と現実は違う。何故お前を探しているのかにもよるし、お前が傷付く様な事かあるかもしれん。そうなれば、昔からお前を知ってる俺もケイシーもシスターも悲しい」
ルイスの優しさにマーティンは胸を熱くした。
「子爵様。僕には勿体ない御言葉です」
「そんな事は無い。それでも行くか?」
「はい! レヴィも一緒なら安心ですよ」
「そ、そうか?」
そう言って微笑むと、ルイスには何とも言えない顔をされた。
──レヴィといれば何とかなる様な気がする。
確かに根拠のない予感だが、レヴィには不思議とそう思わせる所がある。
──実際、ノースブルックでは助けてもらったし。
正直マーティンの言葉にルイスは少し面食らっていた。
普段から活発なケイシーといるせいか大人しい印象の子供だったのに、今は別人の様にハキハキしている。こんなに積極的な子供だっただろうか? とルイスは首を傾げる。どちらかというと慎重なタイプだったと記憶していた。やはり、ノースブルック領での出来事が影響していたのだろうとルイスは納得した。
「ルイス子爵様もケイシー様も僕にはいます。どんな結果になっても僕は大丈夫です」
マーティンが言うとルイスは少し心配そうに笑った。
──きっと、大丈夫。僕は一人じゃない。
◇◇◇
「酷いわ! また、私だけ置いてけぼりなんて!」
ケイシーが吠えて唸る。その煩さにロイドは耳を塞いでいた。
3人揃ってリードの屋敷に戻り、ケイシーにも事情を説明するとケイシーは顔を真っ赤にして唸った。その様子に、ルイスは頭を抱え、レヴィとマーティンは苦い顔をした。
「私も行くわ!」
「行くって言われてもね。一人の師匠に3人の助手って多すぎない?」
レヴィは眉を顰めるとケイシーは眉を釣り上げた。
「一人居残り何て嫌よ! 私も行く!!」
「ケイシー止めなさい」
既に子供の駄々っ子状態のケイシーをルイスが嗜める。
「マーティンは忘れたの? ノースブルックで失踪した時の事!? 凄く心配したんだから!」
「ケイシー様……」
マーティンが酷く困った顔をする。実際、心配をかけたのは本当なので、そう来られるとマーティンは強く出られない。
「ケイシー……」
レヴィは頭を抱えた。
──そうだった。ケイシーはマーティンを心配してノースブルックにまで単身やって来たのだ。放置すれば、また勝手に付いてくるかもしれない!
レヴィは頭をフル回転させる。
「ケイシー様。お気持ちだけで十分です。今回はレヴィもいますし……ケイシー様はここで待っていてください」
「ちょっと待った」
マーティンがケイシーを窘めようとしていると、レヴィが静止の声をかけた。
「「レヴィ?」」
ケイシーとマーティンが同時にレヴィに振り向いた。
「実はケイシーにはロイドと一緒にやってもらいたい事があるんだ」
「え?」
「これはきっとケイシーにしか出来ないよ!」
レヴィが堂々と胸を張ると、ケイシーは「え?」と一瞬目を丸くした。それから、直ぐに目を輝かせた。
その横で「何だろう?」とマーティンは首を傾げる。
「ねぇ、レヴィ。何か考えがあるの?」
マーティンはレヴィにそっと近づくとコソコソと尋ねた。
「無い」
「え?」
レヴィの簡潔な答えを聞き、マーティンは思わずポカンとしてしまった。
「でも、放置しても勝手に来そうじゃない? ノースブルックの事もあるし、だったら何かやっでもらおうと思って」
「何を?」
「それは……これから考える」
──でも、ケイシーって意外と引きがいいから、今回も何かしら役に立ってくれそうだよね。これも精霊様の御加護ってやつかな。
目を丸くするマーティンに対し、レヴィはあははと曖昧に笑った。
──さてさて、本当に何をやって貰おうかな?




