悪魔使いは潜入する⑦
「──では、準備を整えておいてくれ」
そう言うとルイスとレヴィは店を出ていった。
「ピクシー」
人がいなくなったのを確認すると、サイモンはピクシーに呼びかけた。更に「おーい」と呼びかけてみるが反応がない。仕方なく植木鉢の側まで行って様子を見てみる事にした。
「ピクシー、どうした?」
サイモンはピクシーがまた頬を膨らませて怒っていると思っていたが、その予想は外れた。何だか難しい顔をして考え込んでいる。その様があまりにも面白くてサイモンは思わず吹き出してしまった。
「ぷはっ。何やってるんだ、ピクシー?」
『もう! 何で笑うの! 失礼だなあ』
「ごめん、ごめん」
ピクシーはぷぷーと頬を膨らませてサイモンの方を見た。しかし、何時もの勢いがない。
「どうしたんだよ? お前らしくないだろ?」
『だってだって……』
『何であの悪魔使いが、よりにもよってあの、あのリードの人間といるの!?』
キーキーと喚きながら、植木鉢の縁をバシバシ叩いている。
『ウンディーネ様はアイツの味方なの? それともウンディーネ様はあいつに弱みでも握られちゃったわけ!?』
「それは無いと思うけど」
喚くピクシーにサイモンが呆れ半分に言った。
──第一に上級精霊であるウンディーネの弱味とは一体何だろうか? きっと、ピクシーのそれとは違うだろうし、知ったら最期、生きて帰れない気がする。
サイモンは嫌な想像をしブルリと身を震わせた。
『ねえ、サイモン。あいつ等の話本当に受けるの?』
ピクシーが不安そうにサイモンを見た。
「まあ、子爵直々の依頼だしね。断れないよ」
『何か凄ーく嫌な予感がするの』
「それはあの子──あの悪魔使いが絡んでいるからかい?」
『うーん。それは分かんないけど……、嫌な予感がするんだもん』
──困ったなあ。
ピクシーは弱い精霊だ。そのせいか、こういう悪い予感は物凄くあたる。サイモンはピクシーの感に今まで何度も助けられている分、簡単に無碍にも出来ないのを知っている。きっと何かあるのだろう。
「まあ、何か困った事になれば店も何もかも放り出してまた二人で旅をすれば良いよ。また、良い土地を探そう。な?」
サイモンは不安がるピクシーに、態と明るく言った。
──ピクシーの杞憂だといいけど。
そう心の中で一人ごちた。
◇◇◇
──リード領のセントミッシェル教会兼施設。
サイモンの店──薬屋【宿り木】を出た二人は直ぐに教会に向かった。理由は勿論、マーティンに会うためだ。
「──という事で、お前は当分うちリード子爵宅にいてもらう事になった」
──何がと言う訳なんだろう?
マーティンは小首を傾げた。
「申し訳ありません。子爵様、全く話が見えません」
「だよねー」
マーティンは据わった目をしてルイスに言うと、何故かルイスと一緒にやって来たレヴィが激しく同意した。
マーティンも小さな頃からルイスについてはよく知っている。基本的におおらかというか、大雑把な性格だった。多分多少なりとも失礼な物言いをしてもきっと気にも留めないだろう。それどころか気付かない可能性もある。
──子爵様は話を端折り過ぎなんだよな。
「まあ、細かい事はいいんだ」
「良くないですよ」
ルイスが珍しく歯切れの悪い言い方をするので、マーティンは眉を顰めた。
──もしかして、何か良くない話なのかな?
マーティンは少し不安になりつつ、口籠るルイスを見つめると、ルイスは暫くして決意を固めた様に口を開いた。
「マーティン。実はお前は、ランドルフ侯爵の私生児の可能性がある」
「へ?」
ルイスの口から出た言葉にマーティンは思わず吹き出してしまった。
「僕が、ランドルフ侯爵家の子供? そんなの勘違いではないですか?」
一体何の冗談だろうかとマーティンは腹を抱えて笑うが、ルイスの真面目な様子に徐々に顔が青褪めていく。
「……本当なのですか?」
「ああ」
ルイスが神妙な顔で頷いた。
「ランドルフ領で聞いたんだ。君と特徴の似た子供を探してるって」
「僕と容姿が似た子供なんて沢山いるよ」
そう、マーティンの特徴は確かによくあるものだ。しかし……、とルイスは首を左右に振る。
「それだけじゃない。つい最近、ランドルフ領の奴等らしきものがこの教会にやって来た。その時探していたのはお前の母親だった。シスターに確認して特徴が合うのはお前の母親だけだった」
「そんな……」
マーティンは愕然とした。
「今、ランドルフ侯爵家はマーティン、お前を探している。だから、念の為俺のうちにいて欲しい。悪いようにはしないと誓う」
そうルイスに言われマーティンは唖然としたまま固まった。
「少し、考えさせて下さいませんか?」
「早い方がいい」
マーティンは絞り出すように言うと動揺しながら部屋を後にした。
──僕がランドルフ侯爵の私生児?
そんな馬鹿な事があるだろうか。なら、どうして僕を放って置いたのだろうか。母は病で死ぬ事は無かったのではないか等と色々な事柄がマーティンの頭を過ぎっていた。
「確かめたい」
マーティンの口から一人でに言葉が漏れた。その言葉にマーティンははっとする。
──僕は確かめたいのか。もしかしたら、子爵の勘違いかもしれない。
「確かめよう」
マーティンは決意を固めた。




